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インフルエンザの「みなし陽性」はどこまで許される?検査省略とレセプト査定、経営への影響

インフルエンザの流行期になると、感染症診療において少し判断に迷う場面があります。それが、いわゆる「みなし陽性」をどこまで認めるかという問題です。例えば、発熱して間もない患者さんで、家族が本人以外全員インフルエンザ陽性という場合や、周囲の流行状況と臨床症状から、どう考えてもインフルエンザの可能性が高いという場合です。このような状況で、あえて抗原検査を実施する必要があるのか、それとも臨床診断だけで抗インフルエンザ薬を処方してもよいのか。今回は、私自身の診療経験を踏まえながら、医学的な判断だけでなく、レセプトやクリニック経営の観点も含めて考えてみようと思います。

明らかにインフルエンザが疑われる場合、検査は必要なのか

インフルエンザの流行期には、臨床的にインフルエンザである可能性が非常に高いと判断できる患者さんがいます。40度近い高熱に加えて関節痛や感冒症状があり、学校では学級閉鎖が続き、職場でもインフルエンザで休んでいる人が多数いる。あるいは、家族全員がインフルエンザと診断されていて、本人も同様の症状を呈している。このような場合、もちろん他の疾患の可能性を完全に否定できるわけではありませんが、インフルエンザである事前確率は相当に高いと考えられます。

通常の診療では、インフルエンザが疑われる患者さんに迅速抗原検査を実施し、陽性を確認した上で抗インフルエンザ薬を処方するという流れが一般的だと思います。私自身も、基本的にはこの方法で診療しています。診断の裏付けが得られ、患者さんにとっても分かりやすく、医師としても安心して治療を進められるという利点があります。

しかし、実際には少し難しい場面があります。一つは、発熱から数時間しか経過しておらず、周囲の感染状況や臨床症状からインフルエンザが強く疑われるものの、迅速抗原検査では偽陰性となる可能性が高い場合です。もう一つは、患者さん自身が「どう考えてもインフルエンザなので、検査はせずに薬だけ処方してほしい」と希望される場合です。いずれも外来診療では経験することがあると思いますが、検査を省略して処方することについては、医学的な判断に加えて保険診療上の問題も考える必要があります。

開業医として怖いのは、レセプトで査定されること

クリニックを経営する立場として、やはり気になるのはレセプトが査定される可能性です。

そもそも、インフルエンザと診断した患者さん全員に抗インフルエンザ薬を処方しなければならないわけではありません。日本では、インフルエンザ陽性であれば抗インフルエンザ薬を処方するという診療が一般的になっている印象がありますが、インフルエンザは自然軽快することも多い疾患です。実際には、発症からの時間や症状、重症化リスクなどを踏まえ、抗ウイルス薬による治療が必要かどうかを個別に判断することが原則です。添付文書や保険適用上の取扱いでも、こうした治療の必要性を慎重に判断することが求められています。

迅速抗原検査を実施して陽性を確認し、インフルエンザの病名を付けて抗インフルエンザ薬を処方する場合、通常はレセプト上の説明がつきやすいと思います。一方で、レセプトにインフルエンザの抗原検査の算定がないにもかかわらず、インフルエンザの病名でオセルタミビル(タミフル)やバロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)などを処方している場合、審査側がどのように判断するのかという問題があります。臨床診断による処方自体が直ちに不適切というわけではありませんが、検査を実施していない理由や診断根拠がレセプトから読み取れなければ、査定の対象になる可能性も否定できません。

これについては、正直なところ私にも明確な答えはありません。ただ、少なくとも検査を省略した場合には、その理由や診断の根拠をカルテに残し、必要に応じてレセプトにも症状詳記のコメントを記載することが、査定のリスクを減らすための安全策の一つだと考えています。症状詳記を記載すれば必ず査定を回避できるというものではありませんが、実際にどのような判断で診療したのかを伝えることには意味があると思います。(参考記事:レセプトは先生もできた方が良いと思います)

私が実際に検査を省略する二つのケース

私自身、原則としては迅速抗原検査を実施した上で診断する方針ですが、例外的に検査を省略することもあります。その場合、どのような状況で臨床診断を行ったのか、レセプトにはできるだけ具体的に記載するようにしています。

一つ目は、患者さんが薬局などで購入した抗原検査キットを使用し、すでに陽性となっている場合です。現在では、インフルエンザと新型コロナウイルス感染症を同時に検査できる一般用抗原検査キットも販売されています。患者さんが国の承認を受けた検査キットを使用し、その陽性結果を確認できるのであれば、医療機関であらためて同じ検査を繰り返す必要性は低いと考えています。もちろん検査結果だけでなく、実際の症状や経過も確認した上で診断します。

このような場合には、例えば「患者自身が市販の承認済み抗原検査キットを使用し、インフルエンザA型陽性を確認して受診。検査結果および臨床症状を確認し、インフルエンザA型と診断した。患者の症状および発症からの経過を踏まえ、抗インフルエンザ薬による治療が必要と判断し処方した」といった内容を症状詳記欄に記載します。すでに検査結果が確認できている以上、検査を省略した医学的な理由については比較的説明しやすいと思います。

二つ目は、家族がインフルエンザと診断されており、本人も同様の症状を発症したものの、発症からまだ数時間しか経過していない場合です。迅速抗原検査は発症早期に偽陰性となることがあり、検査結果だけでインフルエンザを否定することはできません。特に家族内でインフルエンザの感染が確認されており、本人も発熱や関節痛などの典型的な症状を呈している場合には、臨床的にインフルエンザと診断することがあります。

この場合には、「発熱、関節痛、感冒症状にて受診。家族がインフルエンザA型と診断され療養中であり、本人も同様の症状を呈している。発症から数時間しか経過しておらず、現時点での迅速抗原検査では偽陰性となる可能性があると判断した。家族内感染状況および臨床所見からインフルエンザA型と臨床診断し、患者の状態を踏まえて抗インフルエンザ薬の投与が必要と判断した」といった内容を記載しています。

もちろん、家族が陽性だからといって本人も必ずインフルエンザであるとは限りませんし、患者さんの状態によっては検査を実施する必要があります。ただ、実際の臨床では、迅速抗原検査の結果だけに依存せず、流行状況や周囲の感染状況、症状の経過を総合して判断することが求められる場面もあります。

なお、患者さんが検査を希望しないという理由だけで、必ずしも検査を省略して抗インフルエンザ薬を処方するわけではありません。検査を省略しても医学的に妥当な診断ができるかどうか、また抗インフルエンザ薬による治療が必要かどうかを判断することが重要だと考えています。(参考記事:COVID-19再検査での症状詳記、病名記載について)

検査を省略すると、クリニックの収益も下がる

ここからは少し経営的な話になりますが、検査を省略すると、その分だけ診療報酬が減ってしまうという問題もあります。

インフルエンザの迅速抗原検査は、検査そのものの点数が極端に高いわけではありません。しかし、出来高で算定する場合には、インフルエンザウイルス抗原定性の検査料に加えて、免疫学的検査判断料(月1回)も算定することになります。これをすべて省略するとなれば、患者さん一人当たりの診療単価はそれだけ下がることになります。特にインフルエンザの流行期には患者数が大きく増えることもあるため、経営上は無視できない金額になると思います。

もちろん、診療報酬を得るためだけに必要性の乏しい検査を実施することは適切ではありません。ただ、医学的に検査を実施する意義があり、診断の裏付けにもなるのであれば、私は基本的に検査を行う方針です。例えば、発熱してから半日以上経過して受診した患者さんについては、臨床的にインフルエンザが強く疑われる場合でも、原則として迅速抗原検査を実施しています。検査を省略するのは、発症直後で検査の診断的価値が限定的と考えられる場合や、すでに患者さん自身が承認済みの検査キットで陽性を確認している場合など、本当に限られた状況です。

この点については、小児科外来診療料などの包括払いで診療している医療機関と、出来高払いの一般内科や耳鼻咽喉科では、経営上の事情が異なると思います。包括払いの場合には検査を実施しても診療報酬が変わらないことがありますが、出来高払いの場合には検査を実施するかどうかが、そのまま診療単価に影響します。医学的な判断を優先することは当然としても、経営する側としては、この違いを意識せざるを得ないところがあります。

検査が陰性でも、臨床診断で処方することはある

もう一つ考えておきたいのは、迅速抗原検査を実施したものの陰性だった場合です。

インフルエンザの迅速抗原検査は感度が100%ではありませんから、検査が陰性であってもインフルエンザを否定できない場合があります。特に発症早期で、家族内感染や地域の流行状況からインフルエンザが強く疑われるのであれば、陰性という結果だけを理由に抗インフルエンザ薬の処方を見送ることが、必ずしも適切とは限りません。検査が陰性でも、医師が臨床的にインフルエンザと診断し、治療の必要性があると判断して処方することはあり得ると考えています。その場合に大切なのは、検査が陰性だった事実を含め、なぜインフルエンザと判断したのか、なぜ抗ウイルス薬による治療が必要だったのかを、カルテに正確に残しておくことです。

レセプト上は、一般に迅速抗原検査の結果そのものを毎回記載するわけではありません。そのため、検査を実施した上でインフルエンザと診断していれば、レセプト上は問題にならない面があります(検査が陽性か陰性かは、レセプトの書類ではわからないため)。検査を実施していれば、少なくとも診断のために必要な手順を踏んだことは示せますが、検査が陰性であっても確定病名を付ければよいという話ではありません。陰性の結果を踏まえてもなおインフルエンザと考えた理由を、後から誰が読んでも分かる形で記録しておくことが前提だと思います。

今後、電子カルテ情報の共有が進めば、現在よりも診療内容や検査結果の確認が容易になる可能性があります。そうなった場合、検査結果と処方内容の関係について、これまで以上に説明を求められる場面も出てくるかもしれません。ただ、医学的に妥当な判断をしているのであれば、必要以上に恐れることはないとも思います。重要なのは、その時点で得られた情報に基づき、合理的な診断と治療を行い、その経緯を適切にカルテに記録しておくことではないでしょうか。

レセプト審査の運用も、社会情勢によって変わる

実際にどこまで厳しく審査されるかについては、流行状況や社会情勢によっても変わってくるのではないかと感じています。

新型コロナウイルス感染症の流行期には、医療現場が大きく混乱し、感染症診療についてさまざまな特例的な取扱いが設けられました。当時は、通常とは異なる診療体制や判断が求められた場面も多く、レセプト審査についても平時とは異なる事情があったと思います。正直なところ、当時は医療機関に対して、そこまで厳しい対応を求める状況ではなかったのではないかと感じています。

平時の診療に戻った現在では、迅速抗原検査をほとんど実施せず、インフルエンザの病名と抗インフルエンザ薬の処方を繰り返していれば、審査上の疑義が生じる可能性もあると思います。結局のところ、検査が必要な場合には適切に実施し、省略する場合には医学的な根拠を残すという、基本的な対応を続けるしかないのではないかと考えています。

タミフルがOTC化されれば、内科の経営は大きく変わる

ここまで「みなし陽性」とレセプトについて考えてきましたが、私としては、それ以上に大きな問題が今後出てくるのではないかと考えています。それが、抗インフルエンザ薬のOTC化です。

近年、医療用医薬品の一部を薬局などで購入できるようにする、いわゆるスイッチOTC化が進められています。実際にオセルタミビル(タミフル)は、厚生労働省が公表しているスイッチOTC化の候補成分に含まれており、ラニナミビル(イナビル)についても同様に候補として挙げられています。しかも、要望されている効能・効果には、市販の検査キットでインフルエンザ陽性となった場合だけでなく、周囲にインフルエンザ患者がいて本人も発熱した、いわゆる「みなし陽性」の場合も含まれています。2026年10月時点では、まだ検討結果は公表されておらず、処方箋なしで購入できる段階にはありませんが、少なくともスイッチOTC化の候補として正式に要望されているわけです。

参考:厚生労働省「スイッチOTC医薬品の候補となる成分及びその検討結果について」

私は、抗インフルエンザ薬のOTC化は、今後かなり現実味を帯びてくるのではないかと考えています。まずは使用実績が豊富なオセルタミビルから始まり、将来的にはバロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)やラニナミビル(イナビル)など、他の抗インフルエンザ薬にも広がっていく可能性があると思います。もちろん、実際に市販化するとなれば、重症化リスクの評価や他疾患との鑑別、適正使用の確保など、さまざまな問題がありますから、いつ、どのような形で実現するかは分かりません。また、市販化されたとしても、薬剤師による確認や情報提供など、一定の販売条件が設けられる可能性はあります。ただ、セルフメディケーションを推進する政策の流れを考えると、今後も注目しておく必要があると思います。

仮に抗インフルエンザ薬が薬局で購入できるようになれば、内科クリニックの冬季の受診患者数は減少する可能性が高いです。すでに市販の抗原検査キットでインフルエンザの陽性を確認できる環境が整っていますから、検査も治療薬の購入も薬局で完結するのであれば、軽症の患者さんが医療機関を受診する必要性は相対的に低下します。もちろん、重症化リスクの高い患者さんや医師による診察を希望する患者さん、小児医療費助成などの公費負担を利用する患者さんもいるため、インフルエンザ診療が完全になくなるとは思いません。それでも、従来と同じ患者数を維持できるとは限らないでしょう。

インフルエンザの繁忙期に依存する経営は、今後難しくなるかもしれない

少し話が広がりますが、これは内科クリニックの経営にとって、かなり大きな問題だと思っています。

一般内科では、インフルエンザの流行期に患者さんが急増し、診療収益が大きく増えるということが以前からありました。ここ数年は新型コロナウイルス感染症も加わり、感染症の流行期に収益を確保して、それ以外の閑散期の収益減少を補うという形で経営しているクリニックも少なくないのではないかと思います。感染症の流行状況によって患者数が大きく変動するというのは、特に一般内科や小児科、耳鼻咽喉科などに共通する特徴ではないでしょうか。(参考記事:発熱外来はあったほうがいい)

しかし、今後セルフメディケーションが進み、市販の検査キットと抗ウイルス薬だけで対応できる患者さんが増えてくれば、こうした従来の経営モデルが通用しなくなる可能性があります。これまで冬季に集中的に得られていた収益が減少し、閑散期の赤字や収益低下を補うことが難しくなるかもしれません。医療費の適正化やセルフメディケーションの推進という政策的な方向性を考えると、医療機関としても、この変化に対応していく必要があると思います。

もちろん、患者さんにとって医療機関を受診せずに適切な治療を受けられるようになるのであれば、それ自体は悪いことではありません。ただ、クリニックを経営する側としては、これまで収益の柱になっていた診療が少しずつ変化していくことを前提に、別の収益源や診療体制を考えていかなければならないと思います。(参考記事:診療時間・診療曜日の縮小を考える)

私自身、この問題については以前から考えているのですが、正直なところ、まだ明確な答えは出ていません。感染症診療に依存しすぎない形で、どのようにクリニックの経営を安定させていくのか。今後の内科開業医にとって、かなり重要な課題になるのではないかと考えています。

まとめ

流行期のインフルエンザ診療について、私の考えをまとめると次のようになります。

  • 原則として迅速抗原検査を実施し、診断の裏付けを得た上で治療の必要性を判断する。

  • 検査を省略するのは、承認済みの市販キットで陽性が確認できている場合や、家族内感染があり発症直後で偽陰性が疑われる場合など、限られた状況にとどめる。

  • 省略した場合や検査が陰性でも臨床診断した場合は、その根拠をカルテに残し、必要に応じてレセプトに症状詳記を記載する。

  • 抗インフルエンザ薬のOTC化の動きは、冬季の感染症診療に頼る内科の経営を見直すきっかけとして注目しておく。

目の前の診療では医学的に妥当な判断と記録を積み重ね、経営の面では数年先の変化を見据えて準備しておく。この二つを両立させることが、これからの内科開業医には求められているのだと思います。

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About the author この記事を書いた人:小さな内科診療所の院長 COVID-19 が2類感染症だった時期に、住宅街で小さな内科クリニックを開業(ミニマム開業)。電子カルテもレセプトも自分で回しています。開業前の転職経験から、医師転職のサイトも運営しています。 このサイトについて →