当サイトの関連サイトで「勤務医とマイクロ法人」というテーマで記事をアップしました。内容はマイクロ法人は一般的に勤務医にはオススメ出来ないという内容でしたが、開業医の場合はどうかというテーマで、今回は考えていこうと思います。前述の記事も併せてお読みいただくとわかりやすいかと思います。
開業医におけるマイクロ法人
開業したばかりの先生は、しばらくは個人事業主としてクリニックを運営することになるので、マイクロ法人を設立することは可能であり、社会保険料の節約のメリットを享受することは可能です。しかし勤務医とマイクロ法人の記事でも書きましたが、先生の労力と、節約できるお金が見合っているかと考えるとかなり微妙な話になります。しかも開業して規模が小さい間は、措置法第26条が使えるため、意外にも、見かけ上の売上を抑えることができます。アルバイトを併用している場合はケースバイケースですが、国民健康保険も上限にならずに抑えられる可能性もあります。
たとえばクリニックの年間収入が2000万円の場合、措置法第26条の優遇措置を適用すれば、収入は560万円に抑えることが可能です。この場合であれば、素直に 国民健康保険+国民年金 を収めたほうが話も簡単で、面倒な事務作業に振り回されることもなく、ラクだと思います。
開業時に一緒に行うと かなり事務仕事が大変
個人クリニックだけでもかなり書類が多く、規模が小さいクリニックでもかなり色々と面倒ですが、これにマイクロ法人の書類も加わると本当に混乱します。特に開院当初はクリニックの運営でわからないことも多く、電子カルテの操作やレセプト計算に慣れるなど、やることは無限にあります。このような時期に、非常にややこしい法人の書類業務が入ってくると、もうお手上げの状態になりかねません。
私としては開業されるような先生が、年間数十万円節約するためにマイクロ法人スキームを使うことは、コストパフォーマンスが悪いと思います。
{(マイクロ法人での節税効果)ー(マイクロ法人にかかる費用)}/ (先生がマイクロ法人にかける時間)
で時給換算すると、多くの先生は割に合わないと感じると思います。これならスポットでアルバイトでもした方が、割が良いはずです。
一般的にはあまりオススメ出来ない
開業医の先生も、勤務医の先生と同様に、マイクロ法人は万人受けではないと考えられ、積極的にオススメできる手法ではありません。開業医の先生で、マイクロ法人スキームを考慮しても良い先生というのは、事務的な仕事が得意な先生で、
①すでに副業がある程度軌道に乗っていて定期収入が見込める先生
②かなりの個人資産を保有しており、法人で資産運用を行った方が税務上有利な先生、
の2パターンとなると思います。
しかし副業がある先生はともかく、新規開業の先生でかなりの個人資産を保有しているというケースは稀ではないでしょうか。開業に伴ってむしろ借金をするケースの方が普通ですし、そもそもかなりの資産を持つ先生が、わざわざ診療所を新たに開設するのかという疑問もあります。そしてそんな先生が、数十万円のメリットのために無駄な時間を使うのかという話です。
マイクロ法人と医師のジレンマ
マイクロ法人スキームは、理論上たしかに経済的な面での有効性はあります。上手に利用すれば、開業医とも相性が良いように思います。しかしマイクロ法人に伴う事務仕事の負担増、マイクロ法人にかかる経費、それらを差し引いて得られるメリットを考えると、コストパフォーマンスが悪いと言わざるを得ません。
副業で安定した収益がある先生を除けば、マイクロ法人を作った方がメリットがある先生というのは、マイクロで得られる経済的なメリットなど、大したものではないという先生が多いのです。ここにジレンマがあります。マイクロ法人スキームはたしかに経済的には有効かもしれませんが、お金持ちの先生には、それで得られるお金よりも、時間の方が大事というわけです。
法人で資産運用を行いたい開業医の先生は?
副業が無い場合も、開業して成功して、ある程度の資産ができた場合、先生のプライベートカンパニーとしてマイクロ法人にて資産運用を行うことで、メリットを享受できる場合はあります。しかし少なくとも個人クリニックの開業と同時にやるのは、資金的にみても現実的ではなく、クリニックの運営にも慣れて、経済的にも安定したところで、興味があれば行ってみるというスタンスで十分かと思います。
そしてループしてしまいますが、ある程度資産ができた先生が、わずかな金額のために、事務仕事のための時間を使うのはどうなのかと思います。そのため、このような先生がマイクロ法人を使う場合は、ある程度ガッツリと有効な手段をとる必要があります。ちまちまやっても先生の負担が増えるだけです。有効な戦略と同時に、先生の手間を減らすために、税理士費用や事務仕事の外注費等も賄う必要がでてきます。
それらを実現するにはかなりお金が必要です。放ったらかしできる高配当ETF、投資信託で安定的に収益を確保したい場合は、それこそ億単位のお金が必要になります。
マイクロ法人で有効な手法の一つに、法人での借り上げ社宅の戦略があります。これは先生個人の賃貸費用の大部分を法人負担させる手法で、法人の収益を個人の利益に振りかえる代表的で強力な手法です。しかしこちらの戦略を実現するためには、仮に高配当ETFで年3%の分配金を想定しても、法人に1億円近くの個人資産を移して運用する必要があります。仮に1億円を運用して、年間300万円の収益を確保しても、家賃と各種経費がやっと賄えるギリギリではないでしょうか?そもそも億単位のお金を自由に動かせる人はかなり限られると思います。
医療法人化する場合はメリットがほぼ無い
クリニックをいずれ医療法人にする場合は、マイクロ法人による社会保険節約はできず、メリットはほぼなくなります。いずれクリニックの法人化を検討されている先生は、マイクロ法人は選択肢に入らないでしょう。
MS法人は?
開業医で医療法人化にも成功し、ある程度経済的に成功した場合、MS法人という法人を立ち上げて節税する方法もあるようですが、私はこちらについては全く知識がないので、わからず申し訳ありません。ただここまでくれば、優秀な参謀をつけることが現実的だと思いますので、節税に強い税理士さんに依頼するといくらでも節税策は提案してくれます。
私の実体験
私の実例をご紹介してみようと思います。私は開業するために、常勤の職場を退職し、開業準備に入りました。そして退職してすぐに、マイクロ法人とクリニックの立ち上げを同時に開始しました。クリニックだけでも書類の山で、行政とのやり取りが大変な中で、法人の立ち上げを並行するのはかなり大変な作業でした。個人事業と法人で共通する書類などもあり、混乱を極めていました。
そもそもですが、私は事務仕事が得意なわけではありません。今も得意ではありませんが、なんとかやるしかない状況でした。法人で厄介なのは、会計の知識に加えて、社会保険に関する届け出、法人から個人への給与の届け出等も行わなければなりません。当然このようなことに知識がないため、最初は役所の窓口に通う日々が続きました。本当に骨の折れる作業でした。
クリニックの方が本業なわけですからこちらの方が圧倒的に忙しく、法人は立ち上げたはいいものの、ほとんど社会保険料を支払うだけの会社になってしまいました。それではまずいと思い、何故か自分でもよく分かりませんが、リスクの高い投機に手を出して、案の定失敗して、その後また、しばらく法人は放置状態になりました。初年度はもうCOVID-19の大混乱で時間がなさすぎたので、法人決算も税理士に依頼し、コストもかさむことになりました。このあたりは『勤務医とマイクロ法人』にも書いた通りです。
その後、クリニックの方もある程度要領を掴んできたので、法人の業務に取り組もうと思い始めたのが、医師転職のサイトです。その後自分の開業医としての経験を共有するために始めたのがこちらのサイトになります。正直収益化はなかなか厳しい状況というのが現実です。ホームページの構築や、記事作成にはかなりの時間を費やしていますが、現時点では正直赤字なので、時給0円以下ということになります(泣)。
このような現状ですから、今後について税理士に相談したところ、トータルの収入的にはマイクロ法人はもう閉じた方が良いと言われてしまいました。社会保険料も国民健康保険+国民年金に切り替えた方が良いとアドバイスを受けました。税理士としては自分の仕事を確保することを考えれば、私に法人を続けてもらった方がよいわけですから、通常は続けるように誘導するはずです。私の税理士はフェアな立場で助言してくれたということでしょう。それか私の状況がよっぽどという事かもしれませんが。。。
まとめ
ネット上にはマイクロ法人の情報は検索するといくらでも出てくるようになりました。ネット上にはメリットが多く書いてありますが、デメリットについて、実体験に基づいて言及している記事は珍しいです。ましてや医師でマイクロ法人を立ち上げたり、医師の中でも開業医でマイクロ法人を使った経験のある情報というのは、ほぼ無いと思います。
今回の記事は、開業医と同時にマイクロ法人も立ち上げてみた結果、正直オススメしにくいというのが、私の現時点での結論です。上記のように開業医+マイクロ法人で、しかも新規開業で同時に立ち上げるような医師はかなり稀ですから、少しでも参考になればと思い共有させていただこうと記事にしました。先生にとって何らかの参考になれば幸いです。