開業の形態や規模にもよりますが、アルバイトを併用することは、収入の助けにもなりますし、確実に入ってくる収入があることで、精神的にも多少は楽であると思います。特に開院初期は有効な手法の一つであると私は考えています。
しかしアルバイトをいつまで続けるのかという問題があります。またアルバイトをすることで、なんとかクリニックを維持することが目的となってしまっている場合は危険信号です。
今回は開業医とアルバイトというテーマで、以前とは少し異なる切り口で考えていこうと思います。
アルバイトはいつまで継続するか?
開業医をしながら、アルバイトで給与所得を得ることは、収入を事業所得と給与所得に分散できることからも、たしかに有効な手法の一つであると考えられます。しかし本音ではご自身のクリニックだけで安定して、十分な収益を確保できるのが理想であると思います。開院して、経営が軌道に乗ってしまえば、いつでもアルバイトは辞めることができますが、困るのは経営が予想通りに行かなかったケースです。この場合、いつまでアルバイトを続けるのかという問題が生じます。
もちろん、そのアルバイトを好きで行っている場合や、良い気分転換になるなど、先生の都合に合っているのならば、先生に負担にならない限り続けるのもアリだとは思います。しかし体力的にも負担になり、本音では辞めたいけれども、辞めてしまうと資金的に苦しいというケースが一番問題です。
長年アルバイトをつづけている開業医もいる
実際に私の知り合いの先生でも、開業後10年以上経っても、以前の職場で週1の非常勤で勤務している医師もいます。これは推測ですが、結構大変な現場なので、その仕事が好きでやっているとは思えないです。また中には、いくつかのアルバイトを掛け持ちで行うことで、ご自身はボロボロになりながら、なんとかクリニックを維持しているような先生もみえます。年齢的にも定年に近い、歳上の先生であったので、これは体力的にかなり辛いのではないかと推察します。
撤退時期を見失うと逆に追い込まれるリスクがある
ご自身の生活を削って、クリニックの維持費をアルバイトで賄っているような状態が、長年にわたっている場合、危険信号であると思います。その場合、そこで粘っても状況が改善する可能性は高いとは言えず、苦渋の選択ではありますが、撤退することが現実的であると思います。
開業医のアルバイトは、撤退の見極めが難しいところです。給与が高いのが利点である一方で、アルバイトを掛け持ちすれば、その給与でクリニックを継続できてしまうので、本当は早期に撤退した方が傷が浅いような状況でも、泥沼化してしまうリスクがあります。そこが開業医がアルバイトを併用する際に、最も注意が必要であることだと思います。
開業前に期間を決めておく
開業の泥沼化を防ぐためには、開業する際に、「〇〇年やって、思うように収益が上がらなければ撤退する」など期限を明確に決めておくことが、勧められます。たとえば、「3年やっても、クリニック単体の収益で赤字なら撤退する。」、「5年やってもアルバイトを辞められなければ、引き払って勤務医に戻る」などです。これを最初に決めておくと、撤退時期を見失わず、傷が深くなることを防げると思います。
撤退しても、医者は生きていける
開業で失敗して撤退するのは、かなり苦しい選択肢になると思います。借金を背負い、開業のために投下した時間も二度と返って来ず、精神的にも挫折感を感じて、多くの先生にとって浅くない傷を負うことになると思います。
しかし医師である以上、開業するほどの臨床能力があれば、勤務医として生きていくことは十分可能です。最悪生活が破綻してしまうことは、巨額の借金を背負っての開業などを除き考えにくいです。だめだと思ったら、早期に見切りをつければ、復活も十分可能だと思います。
クリニック継続をする方が、逆に将来困ることになる可能性も
撤退の選択はかなり苦しい判断ですが、アルバイトを併用して、頑張ってクリニックを維持することが、逆に晩年の生活をより一層困難にしてしまうリスクがあります。
たとえば、50歳で開業して、65歳までなんとかアルバイトを頑張って15年間クリニックを維持したものの、とうとう体力的にもきつくなって、身体を壊してクリニックを閉院したとします。その場合、借金が返せていればまだいい方で、先生個人の資産形成をすることはおそらく困難でしょう。またその間、ほとんど休み無く忙しく働かれることになるかと思います。充実した医師人生とは言い難いと思います。
逆に、50歳で開業したものの、これでは採算が合わないと悟って、55歳で撤退して、勤務医に戻ったとします。そこで65歳の定年まで、勤務医として勤めたとします。状況によってはしばらく借金の返済もあるかもしれませんが、勤務医であれば、休みも保証されており、体力的に消耗しきってしまうこともないと思います。そのため定年後も形を変えて、勤務医を継続することも現実的に可能です。直近まで勤めていた病院で、外来を担当したり、関連施設に紹介してもらい、仕事を続けるなども体力があれば可能です。また老健など施設管理のお仕事では、臨床の仕事が出来れば、年齢問わず転職も現実的に可能です。開業医を頑張って続けたケースに比べれば、資産形成もできる可能性があり、生活も充実したものになる可能性が高いと思います。
まとめ
開業医にとってアルバイトは、安定した収入や、精神安定剤のような役割で有用だと思いますが、使い方を誤ると、開業が泥沼化してしまう諸刃の剣でもあります。これを防ぐためには、やはりどこかで撤退の線引をあらかじめ引いておくことが必要であると思います。