先生は開業後、ワクチン接種を行う予定はおありでしょうか?内科、小児科をはじめとして、ワクチン接種は開業医の先生では収益の一つになるかと思います。しかし私はワクチン接種は現時点では行っていません。当院における考え方についてご紹介しようと思います。
当初はワクチンも行う予定だったが、、
当院も開業後、ある程度要領が掴めたところで、ワクチン業務も開始する予定でした。しかし結局のところ現在までワクチン業務は請け負えていない状況です。当院における経緯を以下でご紹介しようと思います。
当初は新型コロナウイルスワクチンの接種から始める予定でした。しかし行政に問い合わせたところ、当地域では接種件数の下限値が決められており、当院では満たすのが難しそうな状況でした。また在庫の管理や、マンパワーなども考慮すると、ワクチン対応を行うことは実際問題難しいと判断しました。当院では、その地域では珍しく発熱外来を開設していたので、開業後はそちらの患者さんも増えていたこともあり、ワクチンは諦め、発熱対応に専念させて頂く方針としました。幸いワクチンは近隣医療機関でも取り扱いが多く、大規模接種会場も充実していたため、棲み分けという意味でも妥当な判断だったと思います。
その後インフルエンザの時期になり、インフルエンザの場合は、コロナワクチンよりも管理が容易なので、再検討しました。しかしCOVID-19の流行下で、インフルエンザワクチンの需要も増えている状況でした。卸さんに相談したところ、納入実績がない新規開設の場合は、どのくらいワクチンを供給できるかはわからないという返答でした。安定供給が見込めない状況で、ワクチンを受けることはこちらにもややリスクがあります。結局このときも導入は断念し、発熱外来の診療に専念することにしました。
上記のような経緯で、当院ではワクチン業務は見送りの方針で現在に至っています。幸いにも近隣クリニックではワクチンの扱いが多いため、ワクチンについては近隣にお任せし、実際に症状が出たときは当院で対応するというスタンスで棲み分けをしています。
措置法第26条を使用した際の 利益率の問題
当院では措置法第26条を使用した、いわゆるみなし経費で優遇措置を受けています。この措置法第26条を用いる際のポイントは、可能な限り経費を削減し、利益率を上げることが必要になります。
ワクチンの単価は、医療機関にもよりますが、一人あたり3000円ほどと思います。ワクチンの仕入れは、小規模のロットだと、だいたい2人分で3000円ほどです。注射器なども含めれば経費は1600円ほどです。ワクチン接種を1人3000円で受けて、経費が1600円だと、1400円の利益です。ワクチンは2人で1V使用します。その日の接種が偶数人ならいいですが、奇数人の場合は、最後の人については、ほとんど利益がないか、むしろ赤字です。
もし同じ一人対応する場合でも、再診で処方箋も出した場合、おおよそ診療収益は2000円です。この場合は診察だけなので経費はかかりません。上記と比べると、手間やコスト、奇数リスク、また税金を含めた観点でも、普通に保険診療を行ったほうが、収益的には良いです。措置法第26条を戦略的に用いる、小規模なクリニックでは、必ずしもワクチンは収益上、有効とは言えないかもしれません。
ワクチンはCMという考えも
上記のように、利益率を考慮しても、ワクチンで収益を上げるのはなかなか大変です。収益というよりは、一種の宣伝として割り切って、ワクチン業務を行っているクリニックもあるようです。ワクチンは自由診療なので、自由に単価を決められるため、価格を近隣よりも下げて、後日再診してもらうことで、辻褄を合わせるという考え方です。もちろん地域医師会などの手前もあるので、過度な低価格は難しいかもしれませんが、ひとつの考え方ではあると思います。
収益を上げるには、企業や施設で大量に打つ
もちろん企業や施設に出張して、一日に何百人も打てば、ある程度の収益になると思います。しかしそこまで対応できるのは、一定以上の規模の医療機関であると思いますし、措置法第26条を使っている医療機関の範疇では無いかと思われます。また近年はインボイスの問題があり、特に企業を相手にする場合は、こちらへの対応も必要になります。そもそもそのような規模の大きい案件は、すでに他の競合が抑えており、何かしらの人脈やツテがないと獲得が難しいかもしれません。
ワクチン仕入れも値上げ傾向
円安、物価高の影響は医療業界も受けています。ワクチンも値上げ傾向で、特に小児科の先生は差益によって一定の利益を確保していたものの、かなり厳しくなっているようです。従来のビジネスモデルが通用しなくなってきている時代であることを本当に実感します。