門前薬局は縮小していくのか|オンライン服薬指導の広がりと開業医の未来
近年、電子カルテにはさまざまな機能が実装されるようになってきました。その一つが、薬局への処方箋送信やオンライン服薬指導、処方薬の配送といったサービスとの連携です。M3デジカルでもこうしたサービスが利用できるようになっていますし、GMOヘルステックなどは、電子カルテから薬局、処方薬の配送までを一体的に提供する仕組みを構築しています。こうした変化は患者さんにとって便利なものだと思いますが、従来型のクリニック、特に門前薬局と深い関係にあるクリニックにとっては、決して他人事ではない問題だと感じています。クリニックと薬局の経営は基本的に独立していますが、仮に門前薬局の経営が厳しくなり、閉局してしまうようなことがあれば、クリニックにとっても少なからず影響が生じます。
私は、今後こうしたオンライン服薬指導や薬の配送サービスが普及するにつれて、従来型の門前薬局は徐々に縮小していくのではないかと考えています。そして、その変化は薬局だけにとどまらず、いずれ私たち開業医の診療スタイルそのものにも及んでくるのではないでしょうか。今回は、現在起きている変化と、そこから考えられるクリニックの将来について、私なりの考えをご紹介します。
院内処方から院外処方へ、そして門前薬局へ
そもそも、以前はクリニックで院内処方を行うことが一般的だったと聞いています。患者さんは診察を受けた後、その場で薬を受け取り、そのまま帰宅するという流れです。現在でも院内処方を行っている医療機関はありますが、以前は今よりもずっと一般的な診療スタイルだったようです。私自身は、物心がついた頃にはすでに院外処方がかなり普及していました。病院やクリニックで診察を受け、処方箋をもらい、近くの薬局や自宅周辺の薬局で薬を受け取るという流れが当たり前になっていたため、院内処方が主流だった時代については、あまり実感がありません。年配の先生方であれば、院内処方から院外処方へと移り変わっていく過程を、実際に経験された方も多いのではないかと思います。
その院外処方の普及とともに発展してきたのが、いわゆる門前薬局です。クリニックのすぐ隣や目の前に調剤薬局があり、患者さんは診察が終わると、そのまま薬局に移動して薬を受け取ります。特に医療モールなどでは、複数のクリニックと調剤薬局がセットになっていることも珍しくありません。現在では、こうしたスタイルがごく一般的な光景になっています。しかし、今後もこの仕組みが同じように続いていくのかというと、私は少し疑問を感じています。
門前薬局に対する調剤報酬上の評価は厳しくなっている
近年、門前薬局に対する調剤報酬上の評価は厳しくなっています。特定の医療機関からの処方箋に大きく依存する薬局だけでなく、医療モール内の薬局などについても、処方箋の集中率や立地条件に応じて調剤基本料が制限される仕組みが設けられています。実際、2026年度の調剤報酬改定では、新たに「門前薬局等立地依存減算」が導入されました。2026年6月1日以降に新規開設する薬局のうち、都市部の特定の地域にあって周辺の薬局の配置などの条件を満たす場合や、医療機関と同じ敷地・建物の中にあって特定の医療機関への処方箋集中率が85%を超える場合に、調剤基本料から15点が減算される仕組みです。既存薬局には当面の間、経過措置がありますが、少なくとも新規に門前薬局を開設する場合には、以前よりも厳しい条件になっていることが分かります。
国としては、特定の医療機関に依存する門前薬局ではなく、地域のさまざまな医療機関からの処方箋を受け付ける、いわゆる面分業を推進したいという考えなのでしょう。ただ、現場の薬局経営という観点から考えると、従来型の門前薬局に対してかなり厳しい方向に政策が進んでいるように感じます。従来のようにクリニックの隣に薬局を開設し、そのクリニックからの処方箋を中心に経営するというビジネスモデルは、今後ますます成立しにくくなっていくのではないでしょうか。薬局もクリニックと同様に、診療報酬制度の変更によって経営環境が大きく変わる業種ですので、こうした制度改正の影響は決して小さくないと思います。
電子カルテとオンライン服薬指導の連携が始まっている
そうした状況の中で登場しているのが、電子カルテと連携したオンライン服薬指導や処方薬の配送サービスです。従来であれば、患者さんは診察後に処方箋を受け取り、自分で薬局に持参する必要がありました。しかし現在では、患者さんが希望する薬局に対して医療機関から処方箋情報を送信し、オンラインで薬剤師による服薬指導を受けた後、自宅まで薬を届けてもらうということが可能になっています。処方箋の送信には患者さんの希望や同意などが必要ですが、電子カルテと連携することで、従来よりも手続きが簡単になってきています。オンライン服薬指導自体も、患者さんがスマートフォンなどを利用して薬剤師とビデオ通話を行う仕組みです。処方内容に問題がなければ、その後に調剤された薬が配送され、薬局や地域、配送条件によっては、翌日には自宅に薬が届くようなサービスもすでに実用化されています。
私が使用しているM3デジカルでも、「薬急便」というサービスが利用できるようになっています。実際、当院の患者さんでも、少しずつ利用を希望される方が出てきました。特に高血圧症や脂質異常症などの慢性疾患で、薬がなくなるまでに1週間程度の余裕を持って受診される患者さんにとっては、相性のよい仕組みです。こうした患者さんの場合、処方薬をその日のうちに受け取る必要は必ずしもありません。診察後にわざわざ薬局まで移動して、順番を待ち、薬を受け取って帰宅するという手間がなくなるのであれば、患者さんにとっては大きなメリットがあります。すでに、これまで当たり前だった薬局での薬の受け取り方が変わり始めています。
GMOやAmazonが処方薬の配送に参入している
この分野で興味深いのが、GMOヘルステックの取り組みです。同社は無料の電子カルテ「AIチャート by GMO」を提供する一方で、オンライン診療やオンライン服薬指導、薬の配送などを含めた医療プラットフォームの構築を進めています。さらに、GMOは東京都渋谷区に「薬局24 byGMO」という調剤薬局を開設しています。ここでは調剤ロボットを導入するなどして業務の効率化を進めるとともに、オンライン服薬指導や処方薬の全国配送にも対応しています。無料の電子カルテを普及させながら、薬局事業を含めた周辺サービスにも事業を広げていくという発想は、従来の電子カルテメーカーとは少し異なるビジネスモデルです。(参考記事:電子カルテ無料化の衝撃)
巨大な資本を持つ企業だからこそ、こうした設備投資や全国規模でのサービス展開が可能になるのでしょう。電子カルテ、オンライン診療、薬局、物流を一つの仕組みとして統合していくというのは、まさに現代のIT技術やインターネットの力を活用した事業モデルだと感じています。GMOが具体的にどの程度の収益を薬局関連事業から得ているのかは分かりませんが、電子カルテを無料で提供し、その周辺の医療サービスを収益につなげていくという方向性には、興味深いものがあります。
さらに、この分野にはAmazonも参入しています。Amazonは2024年7月に日本で「Amazonファーマシー」を開始し、提携する調剤薬局を通じてオンライン服薬指導や処方薬の配送を利用できる仕組みを提供しています。Amazon自身がすべての薬局業務を担うというわけではなく、既存の調剤薬局と連携してサービスを提供する形ですが、一般の患者さんが普段使用しているAmazonのアプリから薬局サービスを利用できるというのは、大きな変化です。Amazonファーマシーについては、サービス開始時にかなり話題になったものの、個人的には、まだ従来の薬局のあり方を一変させるほどの影響が出ているという実感はありません。しかし、Amazonのような物流基盤を持つ企業が本格的にこの分野を拡大していけば、状況は大きく変わる可能性があります。特に慢性疾患の処方薬など、すでにオンライン服薬指導と配送だけで十分に対応できる領域については、従来型の門前薬局からオンライン対応の薬局へと、患者さんの需要が移っていくことは避けられないのではないかと考えています。
急性疾患では、まだ実店舗の薬局に強みがある
一方で、現時点ですべての薬局がオンラインに置き換わるとは考えていません。特に急性疾患の患者さんについては、やはり実店舗の薬局に大きな強みがあります。例えばインフルエンザと診断された患者さんであれば、抗インフルエンザ薬の投与が必要な場合には、なるべく早く治療を開始したいところです。また、風邪症状で受診された患者さんでも、咳止めや解熱剤などを、その日のうちに服用したいと考える方は多くいらっしゃいます。昼頃にクリニックを受診して、薬が自宅に届くのが翌日になるのであれば、近くの薬局に立ち寄って、その場で薬を受け取った方が便利です。夜まで待つことさえ難しい患者さんもいるでしょう。こうした即時性が求められる場面では、現状のオンライン配送サービスだけで実店舗の薬局を完全に代替することは難しいでしょう。
オンライン服薬指導が普及してきたとはいえ、少なくとも現在の物流インフラでは、自分で薬局に取りに行った方が圧倒的に早いという状況は変わっていません。しかし、ここで考えておきたいのが、今後の物流インフラの進化です。現在でも、Amazonなどでは、対象地域や商品によっては注文した当日に商品を届けるサービスが提供されています。以前のPrime Nowのように、注文してから数時間で商品が届く仕組みも、すでに実現されてきました。生鮮食品などが短時間で自宅に届くのであれば、将来的には処方薬についても、同じような配送体制が整備される可能性はあると思います。
仮に、診察終了後すぐにオンラインで薬剤師と話をして、その後2時間程度で薬が自宅に届くようになったらどうでしょうか。患者さんは薬局まで移動して順番を待つ必要がなくなり、自宅で休みながら薬が届くのを待つことができます。配送までの時間によっては、薬局で長時間待つよりも早く薬を受け取れるようになるかもしれません。さらに将来的には、ドローンなどを利用した配送も考えられます。もちろん、医薬品には適切な品質管理や安全な配送体制が必要であり、一般の商品とまったく同じように扱えるわけではありません。ただ、物流技術の進歩によって、現在の制約が徐々に解消されていく可能性は十分にあると思います。これが数年以内に実現するとは思いませんが、10年後、15年後という単位で考えれば、かなり現実的な話になってくると思います。
オンライン診療と組み合わされると、診療所にも影響が及ぶ
そして、私が門前薬局の将来以上に気になっているのが、オンライン診療との連携です。オンライン診療の場合、患者さんは自宅から診察を受け、そのままオンライン服薬指導に移行し、処方薬を自宅まで届けてもらうことができます。従来のオンライン診療では、診察は自宅で受けられても、処方箋を受け取った後に自分で薬局まで行かなければならないことがありました。電子処方箋の普及によっても利便性は向上しましたが、薬の受け取り自体は対面というケースも少なくありませんでした。それが現在では、診察から服薬指導、薬の受け取りまでを、すべて自宅にいながら完結できるようになってきています。仕組みとしては、すでに実現されているわけです。
そうなると、今度は薬局だけでなく、診療所そのものの必要性が問われることになります。特に、状態が安定した慢性疾患の患者さんについては、わざわざクリニックまで足を運ばなくてもよいのではないか、という考え方が強くなっていくでしょう。訪問診療についても、身体診察や処置、在宅での療養環境の評価など、オンラインでは代替できない役割は数多くありますが、その一部をオンラインで対応できるのではないかという議論が進めば、診療報酬上の評価が変わってくるかもしれません。医療制度というのは、一度方向性が変わると大きく動くことがあります。医療においても、IT化による大きなパラダイムシフトが今後起きてくるのではないかと感じています。
門前薬局とセットになった開業支援も減っていくのではないか
ここで、クリニックの開業という観点からも考えてみます。従来、クリニックの開業支援では、門前薬局とセットになったビジネスモデルが一定の割合を占めていました。医薬品卸や調剤薬局の関連企業などが開業支援を行い、クリニックの開業と同時に、隣接する場所に薬局を開設するという仕組みです。クリニック側にとっては開業準備の支援を受けられるというメリットがあり、薬局側にとっては、新規開業するクリニックからの処方箋を一定数見込めるというメリットがあります。こうした両者の利害が一致することで、従来は比較的成立しやすいモデルだったわけです。
しかし、先ほどご紹介したように、現在は新規の門前薬局に対する調剤報酬上の評価が厳しくなっています。特に人口が密集していて、すでに多くの薬局が存在する地域では、新しい薬局を開設しても、以前ほど有利な条件で経営できるとは限りません。そうなると、薬局側が積極的にクリニックの開業を支援する経済的なメリットも小さくなっていく可能性があります。すでにこうした変化は始まっているのかもしれませんし、今後は門前薬局の開設を前提とした開業支援モデル自体が、徐々に縮小していくのではないかと考えています。(参考記事:開業コンサルタントの利益構造)
当院には門前薬局がないため、現時点での影響は小さい
では、実際に当院ではどうなのかということですが、実は当院には、いわゆる門前薬局が存在しません。近隣に調剤薬局はいくつかあります。ただ、クリニックの目の前や隣に特定の薬局があるわけではなく、少し離れた場所に複数の薬局が点在しているという状況です。また、イオンなどの商業施設に入っている薬局や、大手ドラッグストアの調剤薬局なども、患者さんの選択肢になっています。そのため、当院の処方箋が一つの薬局に集中することはなく、患者さんはそれぞれ希望する薬局に行かれています。特定の門前薬局と深い関係があるわけでもありませんので、仮に近隣の薬局がオンライン化の影響を受けたとしても、当院の経営に直接大きな影響が生じるという状況ではありません。
また、当院は急性疾患の患者さんが比較的多いという特徴もあります。発熱や風邪症状で受診される方が多く、診察後はなるべく早く薬を受け取りたいという需要があります。そのため、現時点では近くの薬局で薬を受け取っていただく方が便利です。実際、診察後はほとんどの方が近隣の薬局で薬を受け取っており、オンライン服薬指導によって大きく診療スタイルが変わったという実感はありません。ただし、高血圧症や脂質異常症などの慢性疾患の患者さんについては、すでに薬の配送サービスを希望される方が少しずつ出てきています。今のところはまだ少数ですが、こうした患者さんが今後増えていくことは十分に考えられます。現状の物流インフラでは、当院の患者さんの薬の受け取り方が一気に変わるとは思いませんが、少しずつオンラインへの移行が進んでいくことは、おそらく避けられないのではないかと感じています。
慢性疾患の患者さんは、そもそも通院する必要が減っていく
むしろ、当院にとって影響が大きいと考えているのは、オンライン服薬指導そのものよりも、オンライン診療によって患者さんの通院回数が減っていくことです。従来、内科クリニックにとって、高血圧症や脂質異常症などの慢性疾患の患者さんは、安定した収益源の一つでした。血圧の薬を30日分処方して、毎月1回通院していただくという診療スタイルは、以前であればごく一般的でした。しかし、現在では状態が安定した患者さんに60日処方や90日処方を行うことも珍しくありません。さらに、リフィル処方箋という制度も導入されています。リフィル処方箋では、医師が適切と判断した患者さんについて、1枚の処方箋を最大3回まで使用することができます。例えば、90日分の処方を3回利用するのであれば、合計270日分の薬を受け取るという運用も考えられます。ただし、実際の処方日数は病状や薬剤の種類などを踏まえて個別に判断する必要があります。(参考記事:90日処方の是非)
仮に今後、こうした長期処方やリフィル処方箋の活用がさらに進めば、これまで毎月通院していた患者さんが、半年に1回程度しか受診しなくなるということも考えられます。さらに、制度が見直されて処方可能な期間が延長されるようなことがあれば、通院回数はもっと減るかもしれません。極端な話、国が制度を変更して、一定の条件を満たせば1年分の薬を継続して受け取れるような仕組みを認めれば、それだけでも患者さんの受診回数は大きく変わってきます。もちろん、長期処方には安全性の問題もありますし、定期的な診察や検査が必要な患者さんもいますが、医療費の適正化や患者さんの利便性向上という観点から、今後もこうした制度の活用が進められる可能性はあると思います。
私自身、患者さんの立場になって考えると、これはとても便利な仕組みです。例えば高血圧症で状態が安定していて、定期的な検査や対面診察が必要なタイミングだけクリニックを受診すればよいのであれば、毎月わざわざ仕事を休んで通院する必要はありません。仕事の合間に5分程度オンライン診療を受け、その後に薬剤師と短時間のオンライン服薬指導を行い、薬が自宅に届くという仕組みが一般化すれば、患者さんの負担は大きく減るでしょう。実際の診察時間や服薬指導の時間は患者さんの状態によって異なりますが、少なくとも従来の通院に比べれば、時間的な負担を大きく軽減できる可能性があります。そうなれば、患者さんは本当に必要なときだけ対面診療を受け、それ以外はオンラインで診療を継続するというスタイルに変わっていくのではないでしょうか。
OTC医薬品の拡大も、診療所の受診需要を変える
さらに、OTC医薬品の拡大という問題もあります。現在でも、風邪を引いたらクリニックを受診して、咳止めや解熱剤などを処方してもらうという患者さんは多くいらっしゃいます。当院でも急性疾患の診療は収益の柱の一つになっていますので、こうした患者さんが減ることは、経営上無視できない問題です。しかし、実際には風邪症状に対して使用する薬の多くが、すでに市販薬として購入できるようになっています。今後、OTC医薬品の選択肢がさらに増え、価格や利便性の面でも患者さんにとって利用しやすいものになれば、軽症の段階では医療機関を受診しないという方が増えていく可能性があります。
また、スイッチOTC化の検討対象には、インフルエンザ治療薬のオセルタミビル、いわゆるタミフルも挙げられています。現時点では医師の処方が必要な医療用医薬品であり、市販化が決定しているわけではありませんが、こうした薬剤までOTC化の議論の対象になっていること自体、医薬品を取り巻く環境の変化を感じさせます。仮に将来、インフルエンザの検査から治療薬の入手まで、医療機関を受診せずに行える仕組みが整備されれば、現在の急性疾患診療にも大きな影響が及ぶことになります。もちろん、重症化リスクのある患者さんや、鑑別診断が必要な患者さんについては、医師による診察の重要性がなくなるわけではありません。ただ、軽症患者さんの受診行動が変わるだけでも、内科クリニックの経営には相当な影響があります。(参考記事:インフルエンザの「みなし陽性」はどこまで許される?検査省略とレセプト査定、経営への影響)
30年後、街中に今ほど調剤薬局は残っているのか
ここまでの変化を考えると、私は今後20年、30年という単位では、街中にある調剤薬局の数はかなり減っていくのではないかと考えています。もちろん、すべての薬局がなくなるというわけではありません。急性疾患への対応や、在宅医療での薬剤管理、対面での服薬指導が必要な患者さんへの対応など、地域の薬局が担う役割は今後も残ると思います。ただ、慢性疾患の処方薬など、オンライン服薬指導と配送によって対応できる領域については、大規模な薬局やオンライン対応の薬局に集約されていく可能性があります。例えば、Amazonのような物流基盤を持つ企業と提携する大手調剤薬局、ウエルシアなどの大手ドラッグストアグループ、あるいはGMOのようにITとの連携を強めた薬局などが、今後さらに存在感を増していくと考えています。
現在は地域ごとに数多くの小規模な調剤薬局がありますが、将来的には大規模な調剤拠点から広い地域に薬を配送する仕組みが、より一般的になるかもしれません。一方、地域に残る実店舗の薬局は、例えばイオンのような大型商業施設に入っていて、土日や祝日にも対応できる薬局など、規模や利便性の面で強みを持つところが中心になっていく可能性があります。地域の医療を支えるために必要な薬局が一定数残ることは重要ですが、現在と同じ数の薬局が必要なのかと考えると、必ずしもそうではないように思います。大規模な拠点に機能を集約し、そこから配送するというモデルが普及すれば、従来のように各クリニックの隣に調剤薬局を設ける必要性は小さくなっていくはずです。
この変化を考える際に、私が思い浮かべるのは街の本屋さんです。私が子どもの頃は、駅前や商店街に本屋さんがあることは珍しくありませんでした。地域の中に小さな本屋さんがあり、そこで本を買うということが当たり前でした。しかし、Amazonなどのネット書店や電子書籍の普及によって、街の本屋さんは大幅に減少しました。現在でも、有隣堂や紀伊國屋書店のような大手書店は、主要駅や大型商業施設などに店舗を構えていますが、そうした大規模な書店でさえも、店舗の閉鎖や縮小が起きています。以前は当たり前だった街中の本屋さんが、インターネットと物流の発展によって大きく姿を変えたわけです。私は、これと似た変化が調剤薬局にも起きるのではないかと思っています。そして、薬局の次には、私たちが経営しているクリニックにも、同じような変化が押し寄せてくるのではないでしょうか。
次に縮小していくのは、実店舗のクリニックかもしれない
現在、街中を歩けば数多くのクリニックを見かけます。内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、整形外科など、さまざまな診療科のクリニックが存在しており、特に人口の多い地域では、クリニック同士の競争も激しくなっています。しかし、オンライン診療が普及し、薬の受け取りまで自宅で完結できるようになれば、そもそも現在ほど多くの実店舗のクリニックが必要なのかという問題が出てきます。状態が安定している慢性疾患の患者さんや、対面診察の必要性が低い患者さんについては、オンラインで対応する割合が増えていく可能性があるからです。さらに、医療機関を受診する頻度自体も、長期処方やリフィル処方箋の普及によって減っていくかもしれません。そうなれば、従来は多くの患者さんが毎月通院していた内科クリニックでも、患者数や受診回数の減少が起こり得ます。
少し極端な予想かもしれませんが、20年後、30年後には、現在のように街中に数多くの小規模なクリニックが存在する状況は変わっているのではないかと考えています。オンライン診療で対応できる患者さんはオンラインに集約され、対面での検査や処置が必要な患者さんについては、設備の整った医療機関や地域の中核となる病院、診療所などが対応するという形です。従来型の小規模な内科クリニックの経営モデルが、そのまま先々まで通用するとは考えにくいでしょう。
AIによる診断支援が普及すれば、さらに変化が加速する
そして、今後の医療を考える上で避けて通れないのが、AIの進歩です。すでに医療現場では、画像診断や診療記録の作成、臨床判断の支援など、さまざまな分野でAIの活用が進んでいます。今後さらに性能が向上すれば、現在は医師が行っている判断の一部を、AIが支援する場面も増えてくると思います。例えば、現在でも「nodoca」という、咽頭画像や問診情報などをAIで解析し、インフルエンザの診断を支援する医療機器が実用化されています。専用の機器を使用する必要があり、AIの判定結果だけで診断が完結するものではありませんが、以前であれば想像しにくかった技術が、すでに実際の診療で使用されているわけです。
これが将来的に、患者さん自身のスマートフォンで咽頭の画像を撮影し、AIがインフルエンザなどの可能性を評価できるようになったらどうでしょうか。実際に医療機器として使用するには精度の検証や承認が必要ですが、技術的にはそうした方向に進んでいく可能性があると思います。さらに、先ほど触れたタミフルのOTC化が実現すれば、自宅で検査を行い、その結果をもとに薬剤師などに相談して治療薬を入手するという流れも考えられます。そうなると、少なくとも一部の軽症患者さんについては、医療機関を受診する必要性がさらに小さくなるかもしれません。現在の技術や制度だけを見れば、まだ医師による診察が必要な場面は数多くありますが、診断支援技術、オンライン診療、医薬品の規制緩和、物流といった複数の変化が同時に進むことで、従来の診療スタイルが大きく変わる可能性があると考えています。
私が考える20年後、30年後の診療スタイル
少し未来予想のような話になりますが、私が考えている将来の診療スタイルについてもご紹介します。患者さんは自宅にいながらオンライン診療を受け、必要に応じてスマートフォンのカメラや家庭用の医療機器などを使用して、自分の体の状態を確認します。現在でもApple Watchなどのウェアラブルデバイスを使用して、心拍数などの情報を日常的に記録している方がいますが、今後はこうしたデバイスから得られる情報も、診療に活用されるようになっていくでしょう。その情報をAIが統合し、問診内容や過去の診療記録、検査結果なども踏まえて診断を支援します。最終的な判断には医師が関与するという仕組みが、少なくとも当面は残ると思いますが、AIの能力がさらに向上していけば、医師が自分で一から情報を整理して診断する場面は、今よりも少なくなっていくかもしれません。
そして、処方が必要と判断されれば、患者さんはオンラインで薬剤師による服薬指導を受け、その後、先ほど触れたような配送の仕組みによって、短時間で薬が自宅に届きます。そうなれば、患者さんは医師や薬剤師と直接対面することなく、自宅で診療から薬の受け取りまでを完結できるようになります。すべての病気がこのような方法で対応できるわけではありませんが、軽症疾患や安定した慢性疾患の一部については、こうした診療スタイルが一般的になる可能性があると思います。どこまで実現するかは分かりません。ただ、現在すでにオンライン診療やオンライン服薬指導、電子処方箋、AI診断支援などが実用化されていることを考えると、決して荒唐無稽な未来予想ではないように感じています。
オンラインでは代替できない診療も残る
もちろん、医療のすべてがオンラインで完結するわけではありません。例えば歯科診療では、虫歯の治療や抜歯など、実際に患者さんに対して処置を行う必要があります。オンラインで診察や相談を行うことはできても、それだけで治療を完結させることはできません。歯科医院については、施設数の多さによる競争はあっても、オンライン化によって実店舗そのものが不要になるとは考えにくいと思います。これは内科診療についても同様で、身体診察が必要な患者さんや、検査、処置が必要な患者さんについては、対面診療が欠かせません。高齢者医療や小児医療、在宅医療など、対面でなければ成り立たない領域も多くあります。また、患者さんの状態によっては、実際に診察室で話をして、全身状態や生活背景を確認することにも大きな意味があります。
ただし、重要なのは、すべての診療をオンラインに置き換える必要はないということです。現在クリニックで行っている診療のうち、一定の割合がオンラインに移行するだけでも、従来型のクリニックの経営には大きな影響が生じます。特に、慢性疾患の定期処方や軽症の急性疾患など、比較的標準化しやすい診療を中心にしているクリニックほど、その影響を受けやすいのではないかと思います。地域によって人口構成や医療需要も異なりますので、すべてのクリニックが同じように縮小するとは思いませんが、オンラインでは代替できない診療が残るとしても、現在と同じ数の実店舗が必要であり続けるとは限りません。
AIの普及によって、医師不足という問題も変わるかもしれない
さらに、もう一つ気になっているのが、将来的な医師の需要です。現在は医師不足という問題がよく取り上げられています。地域偏在や診療科偏在などの問題はありますし、医療現場で人手が足りていないという状況も実際に存在します。ただ、私は長期的には、医師の仕事そのものがAIなどによって代替されることで、現在考えられているほど多くの医師が必要ではなくなる可能性もあるのではないかと思っています。そもそも、現在の医師は、本来医師でなくてもできる業務をかなり多く担っているように感じます。書類作成や情報整理、定型的な説明など、必ずしも医師自身が行う必要のない業務も少なくありません。こうした業務をAIやITシステムによって効率化するだけでも、医師の労働負担は大きく減らせるはずです。
さらに、診断支援AIの性能が向上し、医師が行っている判断の一部まで代替できるようになれば、医療を提供するために必要な医師の人数自体も変わってくるかもしれません。医療需要の増加や高齢化もあるため、単純に医師が余るとは言えませんが、現在の医師不足がそのまま将来まで続くとは限りません。仮に医師が余る時代になれば、オンライン診療で患者さんが集約されていくこととも重なり、開業医どうしの競争は今以上に厳しくなっていくのかもしれません。
私は、こうした変化を楽しみに感じる一方で、開業医としては正直なところ脅威も感じています。医療の効率化が進み、患者さんにとって便利になることは望ましいことですが、それが必ずしも現在のクリニック経営にとって有利に働くとは限らないからです。むしろ、従来の診療スタイルを続けるだけでは、経営が厳しくなっていく時代が、少しずつ近づいているのではないかと感じています。
これからの開業医は、従来の経営モデルを前提にできない
今回、門前薬局の将来というところから話を始めましたが、最終的にはクリニックそのものの将来にまで話が広がってしまいました。ただ、私としては、これらは別々の問題ではないと考えています。電子カルテとオンライン服薬指導が連携し、処方薬の配送が一般化すれば、門前薬局の必要性は小さくなっていく可能性があります。そして、オンライン診療と組み合わされれば、今度は患者さんがクリニックに足を運ぶ必要性そのものが変わってくるわけです。さらに、OTC医薬品の拡大やAIによる診断支援の進歩が加われば、現在のように、患者さんが定期的にクリニックへ通院し、診察を受けて処方箋をもらい、近くの薬局で薬を受け取るという流れは、今後大きく変わっていくのではないでしょうか。
これが数年以内に一気に起こるとは思いませんし、将来の医療がどのようになっているかを正確に予測することもできません。ただ、少なくとも現在の医療システムがそのまま維持されると考える方が、むしろ不自然なのではないかと思います。私自身、開業医としてこの変化の中にいるわけですが、従来のようにクリニックを開業すれば、慢性疾患の患者さんが毎月通院してくれて、それが安定した経営基盤になるというモデルは、徐々に通用しにくくなっていくのかもしれません。今後は、ITや物流の進歩、診療報酬制度の変更、患者さんの受診行動の変化などによって、開業医を取り巻く環境も大きく変わっていくのでしょう。
門前薬局がすべてなくなるとは思いませんし、クリニックが完全にオンラインへ置き換わるとも考えていません。しかし、現在のような数と形で薬局や診療所が存在し続けるのかというと、私はかなり疑問を持っています。患者さんにとって便利な医療が普及することは望ましいことですが、その一方で、私たち開業医にとっては、従来の経営モデルを根本から見直さなければならない時代が近づいているのかもしれません。
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