ミニマム開業という形態は、近年のパソコンやITの発展──いわゆるIT革命の恩恵を受けて、現実的な選択肢として成立するようになってきました。
ITツールやクラウドサービスが充実したことで、極端な話、**一人で運営する“ワンオペレーション型クリニック”**も成り立つ時代になりつつあります。実際、こうした形で独立される先生方も少しずつ増えているように思います。
ただし、これが今後の主流になるかといえば、私はそうは思っていません。
行政の制度や診療報酬の仕組みは、ある日を境にガラッと変わる可能性があり、わずかな制度変更が開業形態そのものの存続を左右することもあります。ひとつ条件が変われば、これまで成立していたミニマム形態があっという間に厳しくなる──そんな脆さを内包しているのが現実です。
最大のリスクは、外注検査が難しいこと
ミニマム開業における現状の現実的な課題は、検査体制の確保です。
特に血液検査などの外注検査を小規模で請け負ってもらえないケースが多く、これは非常に大きな制約となります。血液検査ができないとなると、診療内容がかなり限られてしまうため、実質的に診療所として成立しない可能性が高いです。
もちろん、これはミニマム開業に限らず、患者数が多くても構造的に血液検査を多く必要としない診療科などでは同様の問題が生じます。聞いた話では、整形外科や精神科の開業医の先生も大変だと伺いました。外注検査会社の対応体制や物流の仕組みなど、医療の基盤となる部分が個人の努力では変えにくいというのが、現実的な壁といえるでしょう。
オンライン診療が代替する可能性もある
さらに、ミニマム開業で提供できる診療の範囲は、今後ますます限られていくかもしれません。
技術の進歩により、オンライン診療が従来の対面診療を代替していく可能性が高まっているからです。
患者さんの立場からすれば、「同じレベルの診療を自宅で受けられる」のであれば、わざわざクリニックに足を運ぶ理由は薄れていきます。
また、血液検査でさえも、将来的には自宅や健診センターなどで採血を行い、そのデータをオンライン診療と連携させる仕組みが実現するかもしれません。
そうなると、患者さんにとって「わざわざ行く必要のないクリニック」になってしまう可能性も十分にあります。
診療所の役割そのものが変わる可能性
このように考えると、診療所という存在そのものの役割が、今後大きく変わっていく可能性もあります。
病院ほどの設備は持たないけれど、現在の一般的な診療所よりも高いレベルの検査や処置が行える施設が、今後の主流になっていくかもしれません。内視鏡に特化したクリニックや、外来で小手術を行うようなクリニックは、強いのではないかと感じます。
一方で、現在の診療所レベルの業務の多くは、オンラインに置き換えられていく可能性もあります。
つまり、これからは「病院」と「オンライン診療」の間を埋めるような、中間的な規模・機能の診療所が現実的に生き残っていく可能性もあるのではないかと考えています。
ただし、これはあくまで私見に過ぎません。医療制度やテクノロジーの変化のスピードを考えると、現時点での予測がそのまま通用するとは限りません。正直なところ、将来どうなるかは誰にもわからないというのが本音です。
将来の見通しが立たない中でのリスク
「それなら、最初からある程度の規模を想定して開業したほうが良いのでは」と考える先生もいらっしゃるかもしれません。確かに、それも一つの戦略ではあります。ただし、それには相当なリスクが伴います。
今後の医療制度がどう変化するか読めない中で、大きな投資をするのは非常に危険です。加えて、現行の保険診療の構造を見ても、将来の収益性に明るい見通しがあるとは言い難い状況です。そうした意味でも、大きなリスクを背負って安易に開業に踏み切るより、慎重な見極めが必要な時代に入っていると感じます。
