先生はクリニックのスタッフ募集について、どのようにしようとお考えでしょうか?人材紹介会社に頼む方法もありますが、専門職の場合は手数料が割高になりがちです。費用を抑えるためには、ハローワークがおすすめですが、なかなか応募がなく、当院では苦労しました。
今回は当院のスタッフ採用の経緯について、経験を共有させていただきます。
スタッフ採用へ動き始める
当院は最初、家族経営でしたので、しばらくは外部の方には頼まずに、家族のみで運営してきました。しかしその後、家庭環境の変化もあり、家族のみで賄うのはやや負担が増えてきました。そろそろクリニックの運用にも慣れてきたため、事務スタッフさんにお願いしようと動きはじめました。レセプトは私ができるので、レセプト知識は不要で、クリニックの受付業務をお願いするスタッフを募集しました。
しかし全く応募がない、、
しかし、ハローワークで募集をかけてみたものの、全く反応がありません。条件を変えて、時給を良くしたり、情報をアップデートしたりしても、全くの無風状態が何ヶ月も続きました。どうしたものかと、途方にくれたものです。
試しに、仕事で応募する側の立場でサイトを検索してみました。すると似たようなクリニックの募集に埋もれてしまい、当院よりも待遇が良い募集も多く、これでは太刀打ちできないと感じました。またどの採用ページも似たような、無難なことばかり書いてあり、当院のページを見て、敢えて応募しようとする人は確かにいないだろうと、自分でも思いました。
ちょうどそのとき、きっかけは覚えていないのですが、求める人物像を明確にし、労働環境のメリット、デメリットを全て開示して、情報をオープンにするというヒントを得ました。ひとまずスタッフ募集に関するページを大幅に加筆して、情報を充実させてみました。
仕事内容、求める人物像を明確にする
ハローワークなど、求人募集のページをみると、業務として、「事務仕事」など、無難なことを曖昧にしか記載していないものがほとんどであることに気付きました。そのため、私は差別化のために、可能な限り、具体的に、業務内容を明確にするように記載を変えました。具体的には、やって頂く仕事として、「クリニック受付、患者さんのご案内、会計補助(自動精算機へのご案内)、保険証、医療証のカルテへの打ち込み、院内清掃、取引先対応(荷物受け取り)」と極力明確にしました。そしてやらない仕事も明確にしました。当院では、「レセプト業務は一切なし、電話対応もなし」と記載しました。特に電話対応は苦手な人もみえるので、ひとつのセールスポイントになったかと思います。
求める人物像として、「パソコンやスマートフォンの操作に抵抗がない人、でも詳しい必要はなく、当院の予約が取れるレベルであれば十分」と記載しました。また午前中のみの募集としたため、午前中の時間のみ、短時間集中して働きたい方向けとしました。
逆に当院に向かない方としては、パソコンやスマートフォンが苦手な人や、ガッツリとフルタイムで働きたい人と書いておきました。
メリット・デメリットも全て開示する
メリットもそうですが、デメリットや都合が悪いことも、はっきりと記載しました。面接で都合が悪いことを聞かされるよりも、初めから都合が悪いことも知って面接に来てもらった方が、お互いに時間を無駄にしないと思ったからです。
メリットとしては、完全予約制であることで過剰に忙しいことはないこと、ITを駆使して、極力負担軽減に取り組んでいること、医療事務経験・知識は不要なこと、電話はでなくて良いこと、他のスタッフは私しかいないので人間関係のストレスはなく、同僚とシフト等で揉めることもないことを打ち出しました。また残業もなしとしました。
デメリットとしては、内科クリニックで感染症患者を受け入れているので、発熱患者さんの対応もあること、冬など感染症が流行る時期はやや忙しいこと、閑散期はヒマで手持無沙汰になるかもしれないことも、お伝えしました。
しばらくするとハローワークから連絡が
上記のように可能な限り情報を充実させて、ホームページとハローワーク求人両方に情報をアップし、しばらく待ったところ、応募がありました。一度面接としてご来院いただき、クリニックをご案内し、また情報は全て良いことも悪いことも含めてあらためて開示しました。また気が進まなければ、気軽に断ってもらってよいとお伝えしました。その後、その方は当院で受付事務として勤務して頂いています。
ハローワークを経由する方が安全
自院のホームページから応募を受け付ける場合もあると思いますが、ハローワークのリンクを張っておき、一度ハローワークを経由してもらった方が、安全かもしれません。ハローワークで身元確認も行ってくれますし、万が一何かあったときも、ハローワークに相談可能です。ハローワークは国が管轄しているため完全無料ですので、使わせて貰った方がよいと思います。
業者さんは注意
注意が必要なのは、人材紹介会社に依頼する場合です。特に看護師さんを雇う場合は、専門の業者に依頼することになりますが、少なくない手数料がかかります。仲介業者により、年収の数十パーセントとされていますが、仮に常勤で雇用し、年収が500万円で手数料が20%の場合は、仲介手数料が100万円かかります。これはかなり大きな額です。その方が長年にわたって働いてくれる方であれば、まだ良いですが、たとえば1年で辞めてしまった場合、その仲介手数料は無駄になってしまいます。開業医にとって、これはかなりの痛手になります。
人材紹介会社の利益構造
これは転職を斡旋する、転職会社の立場で考えると、話が見えやすくなります。転職会社は医療機関と転職希望の方を結びつけるマッチングビジネスで成り立っています。医療機関に働く人を紹介し、転職が実現した場合、医療機関側から手数料を貰うことでビジネスが成り立っています。
重要なポイントは、転職が成立したときに、報酬が発生するという点です。そのため転職会社としては、転職を斡旋したいという気持ちが大前提にあります。
そのため、転職を斡旋することが最優先事項になり、極論を言えば、医療機関側、また転職を求める側の立場に立って考えているわけではありません。その医療機関にとって、仕事を求める人にとって、最適な職場にご紹介することよりも、とにかく転職を実現させることが、一番重要なわけです。
しかしそれは商売である以上、ある意味当然だと言えます。転職会社も商売ですから、慈善事業で行っているのではない以上、それは当然であると言えます。人を雇う側の先生にとって重要なことは、利益構造を把握した上で、業者さんと上手にお付き合いすることであると、私は考えます。
※転職こぼれ話
今は医療業界に限らず、転職が一般化したこともあり、転職業界は盛んです。特に看護師さんの転職は、もともと専門職で転職がしやすいこともあり、盛んに行われています。看護師さんはどこの医療機関も万年不足している状況で、売り手市場です。クリニックが採用しようとすると、苦労すると聞きます。
これは知り合いの開業医の先輩から聞いた話ですが、転職を斡旋したあとにも、盛んに営業をかける業者もいるようです。ある看護師さんをAクリニックに紹介して、1年ほど経ったあたりで、近況お伺いの連絡を入れます。だいたい1年も働いていれば、どんな職場でも不満がでてくるものです。そんなタイミングで愚痴を聞きながら、「今こんないい求人がでていますよ、Bクリニックへの転職はいかがでしょうか?」と話を持ちかけます。そこから再度転職の話にもっていくわけです。
この手法で転職を繰り返し斡旋すれば、業者は繰り返し仲介手数料を得ることができます。転職では、転職する側の労働者ではなく、雇う側の医療機関が、手数料を負担する慣例になっています。これで困ってしまうのは、採用するたびに手数料を払う医療機関となるわけです。
実際私も、ある職場の休憩室から、看護師さんに営業をかける電話が聞こえて来たことがあります。「いま転職をしないのはもったいない、この職場はメリットしかない」というような強めの営業トークが聞こえてきて、これが聞いた話だったのかと、引いてしまう思いでした。
採用は慎重に、採用後は滅多なことでは解雇できない
ちなみにですが、職員を雇用した後は、何か問題がある場合でも、滅多なことでは解雇できません。特に正職員では非常に難しいことになります。これは保険医協会に相談した際もキツめに注意喚起されました。逆に採用前であれば、不採用とすることは比較的容易です。先生と一緒に働くスタッフの採用、見極めはくれぐれも慎重に行って下さい。
逆に言えば、もしこのページをご覧の先生が、開業を検討中の、常勤の勤務医の場合、まず職を失うことはない強力な立場にいることになります。離れてみるとわかりますが、勤務医も労働者である以上、法律により非常に強力に保護されています。その場に留まるのも、一つの現実的な選択肢です。また今の職場に不満があれば、転職も非常に現実的な選択肢です。勤務医の立場を離れてから、あらためてそのように思います。