開業する場合、いろいろな人に相談して、話を聞くことになると思います。既に開業している先生の話や、開業準備に伴って付き合いが始まる業者さん、コンサルタントから情報を得ることは、たしかに参考になることも多いです。また共にリスクを抱える家族の意見も無下にはできないと思います。

しかし人の話を聞くということは、先生が本当にやりたかった理想の形から、いつの間にかズレてしまうリスクを抱えています。今回は開業に伴って、人の意見をどこまで取り入れていくかについて考えていきます。

人に相談するリスク

開業には多くの資金と時間と労力を投入する、人生で最も大きなイベントと言っても過言ではありません。今まで生きてきた人生の中で、もっともリスクを背負うイベントとも言えると思います。開業形態によっては、多くの借入金をすることになり、失敗した場合は文字通り全てを失うリスクがあります。本サイトでは何度も注意喚起させていただいている通りですが、クリニック開業は大小あれどリスクを伴う行為です。

そのため多くの先生が開業前に情報を集めて、色々な人から話を聞いて、対策を練ると思います。それは開業成功の可能性を上げる、重要で有効な対策の一つです。

しかしながら、人に相談して色々な意見を取り入れることで、徐々に当初の理想の形態から、先生が意図しない形態にズレてしまうこともあります。また立場がある人や、既に成功している先輩に相談した場合など、相手の意見を全く無視することができないケースもあると思います。相談する人によっては、真逆のアドバイスをされることもあり、どちらの顔を立てればいいかなど、余計なことを考えている内に、当初の理想形態からかけ離れてしまい、一体誰のためのクリニックなのかわからなくなってしまうケースもあります。

最初に、

最も大切なのは、言うまでもありませんが、先生のお気持ちです。先生がリスクを背負って、人生を賭けて開業するのですから、先生の意思が最も重要です。お金を借りるのも先生です。そのお金を時間をかけて返すのも先生です。リスクを背負う先生に全ての責任と決定権が存在します。なにかに迷うときは原点回帰でどうかこのことを思い出して下さい。当たり前すぎるかもしれませんが、開業準備で忙殺されると、当たり前のことが見えなくなります。むしろ当たり前すぎることが、何故か見えなくなるときがあります。この罠にハマらないように、十分すぎるくらい注意してください。

切れる関係なら、それまで

たとえば、親切心でアドバイスをしてくれたとしても、その通りに動かなければ怒ったり、非難したりするような人もいるかもしれません。そのような場合は、その人とは距離をおいて、それまでの縁であったと考える方がよいです。本当に先生のことを思って助言してくれる人は、先生がどのような選択をしようと応援してくれるはずです。先生を一人の人間として尊重しているのであれば、責任ある大人に対して、そのような態度で接するのが道理でしょう。

地獄への道は善意で敷き詰められていることもある。

注意が必要なのは、業者やコンサルタントなど、明らかに利害関係がある人でなく、先輩や親戚などが善意に基づいてアドバイスをしてくれるケースです。これが非常にやっかいです。実際にこちらが原因で判断を誤る先生もいらっしゃいます。善意に基づいていようと、利害関係があろうと、その助言が役立つかどうかはわかりません。どうか先生がかならず正しいと思う方向で、開業を進めて下さい。

当然ですが、このサイトに書いてあることも信用しないで、先生がかならずご自身の考えで判断してください。私も先生に対しては”善意に基づいて”、記事を書いていますが、先生に役立つかどうかはわかりません。特に私はそのリスクから重装開業には警鐘を鳴らして、どちらかといえば低リスク開業、または開業などしないことを進めていますが、それが先生の状況に合致するかは全く不明です。先生によっては、重装開業で勝負をかけて、数年後に大成功する先生もみえるでしょう。そのような先生が、このサイトを真に受けて、低リスクの開業を選択した場合、みすみす大きな利益を取り逃がすことになります。それも大きなリスクと言えます。

このサイトは、開業したことで、医師人生が台無しになってしまう、金銭的に困窮して路頭に迷うような医師をつくりたくないという意図で開設しました。そのようなことになるなら、開業などしないほうが良いわけですし、実際に上記のような医師も世の中に存在するわけです。そのためハイリスクな形態にはやや否定的な意見となっていることをご承知おきいただければ幸いです。

最も注意するのは業者、コンサル

開業に関わる業者さんには、それぞれ利害関係があります。当然ですがこれらにも注意する必要があります。関わる業者さんが一番重視するのは、先生の開業成功でもなく、開業後の資金繰りの大変さでもなく、先生が開業することで、どれだけ利益をあげられるかです。それは向こうも仕事である以上、当然のことだと思います。

たとえばですが、高額な機器を入れて、内装も豪華にした方が、仲介する業者さんの利益は増えますから、そのように先生を誘導するのは自然の流れです。また検査会社や薬局卸も、業者さんに入るキックバックが多いところに先生を誘導するのは、当然でしょう。このような積み重ねが、だんだんと大きなコストになり、開業後の先生の資金繰りを苦しめることになります。

人の意見を聞けば無難に、意見を聞かなければ独りよがりに

アドバイスの中には本当に先生にとって有益なものもあり、そこが難しいところです。人の意見を取り入れ過ぎれば、先生の意図しない形態になってしまうかもしれませんし、あまりに人の意見を無視すれば、尖りすぎたクリニックで集患が難しくなってしまうかもしれません。そこの塩梅は本当に難しいと思います。

たとえば、先生は余裕をもって、準備を整えた上で診察をするスタイルが性格的に合っており、完全予約制のクリニックにしたいとします。そのようなコンセプトで開業を相談すると、おそらく半数の人には反対されます。それでは集患が難しい、予約がとれない人はどうするのか、飛び込みできてしまった患者はどうするのか等、反対意見はいくらでも思いつきます。

そこで先生がどうするか、そこが難しいところです。最初は予約制と当日受付を併用して運用してみるのか、最初から完全予約制で通すのか。予約制か否かについては、後から変える事もできるので、とりあえず好きな形態でやってみるという手もあります。クリニックの運用はやってみなければわからないことも正直多いのです。

しかしレントゲンを入れるか、何坪のテナントを借りるかなどは、後から変えることは出来ません。最初に決断しなければならず、非常に判断が難しいです。レントゲンは最悪入れて使わなくても、数百万円の損失で済むかもしれません。しかしショッピングモールのかなり大きいテナントを、◯年契約で結んだ場合、後から変えることもできず、失敗した場合はとんでもないことになります。

私の場合

私の体験談を少しご紹介してみようと思います。私が開業の戦略としてまず考えたのは、万が一失敗しても人生をやり直せる規模に収めることでした。初期費用、ランニングコストを極力抑えて、職員も最初は雇わず、最悪の場合は一人でも回せるような内装設計にしました。今でこそ、ミニマム形態で開業する先生や、場合によってはワンオペクリニックを経営する先生もちらほらでてきていますが、その当時はそのような先生は、私は一人も見つけることができませんでした。

私の開業コンセプトを人に相談したら、そんなクリニックは聞いたことがないと、反対意見が多いことが想定されました。そのため私はあまり人に相談せず、ほぼ全て自分で勉強して、考えて、決断することにしました。もちろん何人かの先生にお話を聞くことはしましたが、自分のプランはあまり明かさないでおきました。私の周りの先生はかなり大きな規模で開業して、成功しており、私が見ている景色とは全く違うことが明らかだったためです。

私が幸運だったのは、家族が私の仕事について口を出さず、私の好きにさせてくれたことです。もちろん全ての仕事の責任を私が負い、金銭的にも不自由させないようにすることが前提ですが、これはありがたかったです。身近な家族にまで否定されたら、気持ちが折れてしまっていたかもしれません。

一番いいのは利害関係がない第三者

相談先としてもっとも良いのは、利害関係のない人に先生が相談することです。全く別の業種の友だちで独立している人や、実は行政にも経営相談の窓口は存在します。地域にもよりますが、公的にも独立を支援し相談に乗ってくれる制度はあるのです。公的なものは、無料または低コストで利用できるので、利用しない手はありません。

独立系コンサルは少ない

無料ではなく、お金を払ってコンサルタントに相談に乗ってもらう方法もあります。無料のコンサルタントは結局先生がコストを負担するので高く付く場合も少なくありません。それなら一定料金をお支払いして、フラットに相談してみるのも手です。しかし独立系のクリニック開業コンサルタントはなかなか少なく、その中で信頼できる人を見つけることも、なかなか難しいという現状があります。

まとめ

開業に伴い人に相談する機会は多いと思いますが、そのアドバイスが毒にも薬にもなることには注意が必要です。特に利害関係がある場合は、その背後や発言の意図を読み取る必要があります。また善意に基づいているアドバイスにも注意が必要です。最終的には先生のお気持ちが一番大切です。色々な人の意見に惑わされるときはどうかそのことを思い出して頂ければ幸いです。