今回は精神科でない先生が、精神科領域をどこまで対応するかというテーマです。内科で血圧の薬とともに、眠剤を処方することは珍しくないことかもしれませんが、実際問題として、どこまで対応するかということに苦慮する先生は珍しくないかもしれません。現実的では、他科の薬であっても医師免許があれば特殊な薬を除き、法的には処方可能ですが、どこまでを請け負うかという見極めは非常に難しいです。

私としては精神科でない先生は、精神科領域の疾患は初期から専門医に受診を勧めるのが最も良いと思います。私の失敗談も含め、共有させていただきます。

精神科領域に、他科は手を出さない方がよい

私としては、専門外であれば精神科の領域に患者さんに介入することは極力避けた方がよいと思います。軽い眠剤等でも、気軽に処方することは避けるべきです。親切心で、良かれと思って行ったことが、後々にトラブルになることもあり、先生が余計なストレスを抱える原因になりかねません。

精神科、心療内科ではない他科の先生が、診療のついでに眠剤を出すことは、実務上は珍しいことではないと思います。場合によっては、抗うつ薬や抗不安薬なども処方することもあるかもしれません。私も開院当初は不眠症や軽度の不安障害なども、ある程度は診療を行っておりました。

経営的な面でみると、精神科領域の薬は30日制限がかかる薬も多く、30日ごとに再診してくれる患者さんは魅力的です。最初は経営面でそのような打算も頭にあったと思います。しかしやってみると、思いがけないストレスを抱えることになりました。

トラブルについて

今まで精神科疾患の患者さんに関して、いくつか問題が起きたケースがありました。以下で具体例をご紹介します。

トラブルの実例①

この患者さんは、若い男性で、不安症で相談された方でした。インテリな方で自分で薬を調べており、こういう薬はどうかなど、提案もしてくる人でした。開院初期で、私も手探りなので相談を受けていましたが、なかなか薬を変えても上手く行かず、精神科に紹介が適正と判断し、近隣のメンタルクリニックに紹介しました。

ここで終わればよかったのですが、その紹介先の先生と折が合わないと、こちらに戻ってきてしまい、紹介先で変わった薬だけ出してくれと言うようになりました。それはさすがにまずいので、切れてしまう最低日数だけ処方し、再度受診するように促しましたが、精神科の受診後にこちらに相談に来院したり、受診先の愚痴を言いに来たりと、かなり苦労することになりました。

振り返ると、最初から専門医への受診を勧めていれば、このようなトラブルには巻き込まれなかったと思います。私も自分で抱えようとせず、紹介のみで、自分で処方はするべきではありませんでした。私の初期対応が良くなったと思います。

その後引っ越しに伴い、当院では終診となりました。

トラブルの実例②

こちらは元々精神科に通院されていた方が、かかりつけのクリニックが急に閉院になり、薬が切れるので、緊急のつなぎで出して欲しいと言われて、来院されました。急な閉院で、他のクリニックでは紹介状がないことを理由に断られてしまったとのことでした。事情が事情で、たしかに急に断薬するのは危険と考えられた薬も含まれていたので、つなぎで投薬を処方し、その間に次のかかりつけを探すように伝え、行政にも相談するように勧めました。しかし結局なんだかんだで、当院でしばらく診ることになってしまいました。

しかしその後、健康保険組合から、複数のクリニックで同じ薬が出されていること、また保険が失効しているにもかかわらず、保険証を使い続けている旨の通報が入りました。どうも他のクリニックにも同じようなことを言って、薬を処方してもらっていたようです。かかりつけが急に閉院したのも本当だったのか、、今ではわかりません。その後自費対応になる旨を伝えたところ、通院は途切れました。

複数の医療機関で眠剤等を多量に処方されているケースも

他科にメンタル系の薬を受診する場合、他院でも同じ薬を複数箇所でもらっていて、依存症になってしまっている方が少なくないということです。別のケースでは近隣の調剤薬局からの通報で明らかになったこともあります。今後電子処方箋が厳格化されれば、このようなことは減るかと思いますが、不要なトラブルは避けたいところです。

そもそも精神科領域の患者がわざわざ他科にくる場合は、なにかがある

精神科領域の場合、対応に慣れていない診療科で対応すると、どうしてもトラブルや思いがけないことになるケースが、他の患者さんよりも多いと思います。そもそも本当に治療を目的とする患者さんならば、普通は精神科に受診するでしょう。わざわざ他科に来るということは、何かがあるということです。精神科でも断られてしまっていたり、ベンゾ系の依存性になって、薬を多量に飲んでいる等、何かしらはあると思います。

他院では出してくれたは、正直困る

特に困るのは、精神科以外で今まで処方してもらっていたから、薬だけくれればいいという人です。内科や整形外科で眠剤を今まで出してくれていたから、こちらでも出してくれというパターンです。これは正直本当に面倒です。

私はこちらについても、当院ではお断りして、元の主治医または精神科に受診するようにお願いしてます。理由は一度でも出すと、再診の可能性があるからです。

断る理由は?

当院では出さないでは、なかなか理解が得られないので私はいくつか理由を用意しています。以下に列挙してみます。

・精神科の薬の扱いに慣れていないので、適正な医療のために専門医が望ましいこと。
・国、厚生労働省の方針により、精神科、心療内科を標榜していない医療機関で、精神科領域の処方が厳しくなってきていること。特に新規開業のため規制、行政指導が厳しいこと。
・近隣に多くのメンタルクリニックが存在すること。
・近隣の医療機関、調剤薬局から苦情が出ていること。

等を組み合わせて説明すると、大抵は納得してくれます。ポイントは自分の方針ではなく、国の方針、行政指導のために従わざるを得ないと、やや他責的にしてしまうことです。そもそもうるさいことを言わずに処方してくれる医療機関は多くあるのですから、そういう方は他に行ってくれます。安易に一度でも処方すると、再診され先生がストレスを抱える原因になるので、十分注意が必要です。

現状の例外は?

当院も最初は眠剤等を出して、特に問題なく通ってくれていた患者さんもみえます。そのような方には事情を説明し、専門医受診が望ましい状態になった場合は紹介する条件で、処方を継続しています。また脂質異常症など、慢性疾患で定期通院している患者さんで、信頼関係ができている場合では、必要な際は専門医に紹介する約束で、比較的安全性が高い眠剤に限り処方しています。

それ以外の新規処方は現時点では全てお断りし、またホームページにも予約を取る前にその旨を明示するようにしました。その後、メンタル系でトラブルになるケースがなくなりました。

まとめ

開業すると分かりますが、世間では思った以上にメンタル系の薬を使っている人は多いです。メンタルクリニックがこれだけ都心に増えても、初診がとりにくい現状を考えると頷けます。

他科での開業の場合は、精神科領域に踏み込むと、思いも寄らないトラブルやストレスを抱える原因となりえます。私としては、先生のストレスマネジメントのためにも、もちろん適正な医療という面でも、メンタル疾患の患者さんは、精神科・心療内科を標榜する医療機関への受診を勧める方が、お互いにメリットが大きいと考えます。