以前の記事(ワンオペクリニックの実際)でもご紹介しましたワンオペクリニックについて今回はメリット、デメリットについて考えて行こうと思います。

ワンオペクリニックのメリット

メリット① スタッフの人件費の削減、労務管理の負担軽減

ワンオペでの最大のメリットとしては人件費を削減できることです。昨今は賃上げの方向ですが、診療報酬は据え置きで、クリニックにとってはかなり厳しい環境になっています。クリニック経営のコストの中でも、人件費は最もコストがかかる項目の一つで、患者さんの数にかかわらずかかるコストでもあります。極端な話、一人も来院しない日であっても、人件費は発生するので経営者としては苦しいところです。

メリット② 労務管理の負担軽減

開業して最も悩ましいのが、従業員の管理です。シフトの管理から、労災保険などの社会保障の管理、賃金の管理など、人が増えると確実に事務仕事が増えます。仕事の負担を減らそうと人を雇うわけですが、逆に人を雇うことで増える仕事もあるという矛盾が生じるので、私も最初は大変でした。(今も大変ですが。。)

私もそうですがミニマム開業では、これらの慣れない事務仕事も、先生ご自身で行わなければならないケースも多いでしょう。また従業員が増えて、複数人いる場合は従業員同士での人間関係にも気を遣います。成功した開業医の先生は、経営が安定してお金の心配は無くなっても、スタッフの管理には非常に頭を悩ませるそうです。

完全にワンオペであればこれらの問題は生じませんし、スタッフも最少人数であれば、極力負担を軽減できます。私も事務スタッフ一名と、あとは家族経営なので負担はまだ軽く済んでいます。

メリット③ ある意味気楽

ワンオペだと完全に一人になるので、実はある意味気楽な面もあります。他のスタッフがいる手間、いくら院長とは言っても、あまりに勝手なことはできませんが、一人では自由です。昼休みにベッドで昼寝をしても、診療中の空いた時間にお菓子を食べたり、コーヒーを飲みながら調べ物をしても自由です。空き時間があまりにあっても困りますが、やってみると思いの外、気楽に感じると思います。

また臨時休診もご自身の都合でしやすいです。スタッフがいる場合は、急に閉めることは難しいですが、ワンオペであれば、予約枠を開ける前であれば臨時休診も可能です。実際に閉めることなど、ほとんどありませんが、いざとなれば休めると思うと、結構気が楽になります。開業医は先の長い仕事です。根を詰めすぎてしまうと、疲れてしまいます。たまには休んでも、誤魔化しながらでも長く続けた方が、トータルリターンは大きいと思います。気を抜くことも時には必要なことだと思います。

ワンオペクリニックのデメリット

デメリット① 予約制が現実的 

ワンオペでは、完全予約制にすることが現実的であると思います。予約もネット予約が現実的です。電話予約では、ワンオペは成立しません。予約制に振り切った場合、飛び込みでみえる患者さんを切ってしまうことになるので、来院の敷居が高くなってしまうというデメリットが生じます。

デメリット② 検査、処置には制限がある

検査についても抗原検査、血液検査、尿検査などが対応できるラインで、時間や人手がかかる検査はやはり難しいです。ミニマム形態の開業であれば、そこまで検査機器は入れないので特に問題ないかもしれませんが、なかなか悩ましいところではあります。

デメリット③ スケールアップは難しい

ワンオペでは対応できる患者数に限りができるため、予約が満員になった場合でも、それ以上の患者さんに対応することが困難になります。

これが問題になるのは、シーズンで患者数の増減があるクリニックの場合です。たとえば内科では、インフルエンザの時期は患者数が増加して、かなりの増収になります。この時期の収入が夏の閑散期を支えて、一年通してトータルでみると概ね辻褄が合うようになります。しかしワンオペでは急な患者数の増加には対応できないので、繁忙期の増収をみすみす取り逃がしてしまい、クリニック経営に少なくない影響を与えます。

この問題を解決するには診療時間を延長するしかありません。実際私もインフルエンザの流行期には、朝の時点で午前午後の予約が満員になっていた日がありました。その際は、お昼休みを返上して予約枠を拡張し、また夕方も診療時間を延長して対応することで、なんとか対応しました。ワンオペの場合は、先生の体力次第でいくらでも延長は可能なので、柔軟に対応できます。経営的には繁忙期には可能な限り収入を増やしておくことが重要になります。

慢性疾患で定期通院が多い形態の場合は、この問題は生じないので気が楽です。そのため本来ワンオペの場合は、定期通院されている患者さんで経営が安定することが理想ではあります。

デメリット④ 防犯の問題

防犯対策はもちろん必要です。当院はALSOKに警備を入ってもらっていますが、クリニック内にも監視カメラを設置して、常に監視できるようにしています。診察中もiPadやデュアルディスプレイを用いて、出入り口、待合室の様子は常に見られるようにしています。

私が使用しているのは、Google Nest Cam(屋内用/電源アダプター式)です。こちらは12000円ほどと比較的安価で、iPadやグーグル・クロームのブラウザとも相性がよいです。しかしwebカメラなので、急に途切れたりなどの問題もありますが、安価で設定も自分でしやすいので、結構気に入っています。またクリニック外からでもクリニックの様子をいつでも見られます。

資金的に余裕がある場合は、内装を考える時点で、プロに頼んで監視カメラシステムを構築する方がもちろん良いです。しかし上記の機械はわりと手軽に導入できますし、気に入らなくても大損はしないので、ひとまず一つ試しに導入してみるのも良いと思います。

人件費のために何人みるかという思考。

クリニックを経営していると、経費を払うためだけにも患者さんをある程度みなければならないという思考になります。ここでたとえば、午前中の3時間、一人のスタッフに事務仕事を依頼するという仮定で考えてみます。時給が1200円と仮定すると、上記では3600円のコストがかかります。ところで初診患者さんに特に検査せずに、診察と処方のみした場合、おおよそ3800円ほど収益です。税金もあるのであくまでざっくりとした概算ですが、初診患者さん一人の診察で、人件費が賄えると考えられます。逆に言えば、人件費を賄うには、初診患者さんを一人多く見なければならないということになります。

クリニックを経営してみると痛感しますが、一人の初診患者さんを増やすことは非常に大変です。診療自体の労力はさほどかからないものの、集患という観点では本当に難しいと感じます。

一人ではまだこのくらいの負担ですが、スタッフが多いクリニックでは、もっと負担が増すでしょう。ある先生は、一日の診療のうち、半日はスタッフと税金のために働いて、午後からやっと自分のため、、という先生もいるようです。本当に大変だと思います。

ワンオペは生存戦略の一つになるか?

ワンオペクリニックですが、傾向としては電子カルテや予約システムなどの環境が整ってきたこと、リスクを減らした、ミニマム形態での新規開業が増えていたこともあり、今後はちらほらでてくるのではないかと思います。経費削減は経営の生存戦略の一つです。細々と続けているクリニックは大儲けは出来ないものの、多額の借金を背負って倒産するリスクも低いため、一定数生き残る可能性もあると思います。しかしそんな面倒なことをするくらいなら、非常勤でアルバイトをしてる方が、正直気楽で、労力も少なく、お金的にも良いと思うので、なんとも難しいところです。私も正直迷いを感じながら、日々経営を行っている最中であります。