今回は、先生自身が使う薬剤や、院内に備蓄しておきたい薬剤をどのように手に入れるか、というところについて考えてみようと思います。開業している先生であれば、基本的には医薬品卸と契約していると思いますので、必要な薬剤があれば卸に発注するのが一番一般的です。連絡すれば比較的すぐに持ってきてもらえますし、確実性という意味ではやはり卸が強いと思います。

一方で、発注が電話や担当者とのやり取りになることも多く、その場で価格が分かりにくかったり、事前に相見積もりを取らなければ価格を比較しにくかったりすることがあります。Amazonなどで必要なものを検索して、そのまま注文することに慣れていると、少量の薬剤を購入するために毎回卸へ連絡するのは、少し手間に感じることもあります。現在は医療機関向けに医療用医薬品をインターネットで注文できるサービスもあります。私自身もそうしたサイトを使うことがありますので、今回はその実体験も含めてご紹介してみようと思います。

医療用医薬品もネットで購入できる

院内に少し置いておきたい薬や備蓄しておきたい薬、あるいは場合によっては自分自身が使う薬など、開業していると少量だけ薬剤を確保しておきたい場面があります。一般の方が医療用医薬品を自由に購入できるという話ではありませんが、診療所を運営している医療機関であれば、医療機関向けの医薬品通販サービスを利用することができます。

私が使っているものの一つが「FOCUS Medical」です。最初から誰でもすぐに購入できるわけではなく、医療機関であることを確認するための登録手続きが必要ですが、一度登録してしまえば、その後はAmazonなどのネット通販に近い感覚で薬剤を検索して、そのまま注文できます。少量の薬を購入したいときに、いちいち卸の担当者へ電話して価格を確認する必要がなく、必要な薬剤を検索すると価格もその場で確認できますので、個人的にはこの手軽さが大きなメリットだと感じています。

もう一つ有名なのが「みんなのお薬箱」です。こちらは通常の医薬品通販とは少し仕組みが異なり、薬局や医療機関などで余っている不動在庫などを流通させる仕組みがあります。感覚的には、医療機関・薬局間における医薬品のマッチングサービスに近いと思います。特に使用期限が比較的近い薬剤などでは通常より安価に購入できることもあり、もちろん使用期限や保管条件などはきちんと確認する必要がありますが、「少量だけ備蓄しておきたい」という用途では選択肢の一つになります。

自分自身が使用する薬をどうするか

開業すると意外と困るのが、自分自身が薬を必要としたときです。勤務医であれば院内の別の先生に相談することもできますが、一人で診療しているクリニックの場合、自分が患者として他の医療機関を受診する必要があります。ただ、近隣の医療機関を受診するのは同業者であることもあって少し行きにくかったり、単純に診療時間中に受診する時間を作ることが難しかったりします。

例えば私自身もコレステロールが高いためスタチンを内服していますが、その薬を処方してもらうためだけに別の医療機関へ定期的に通院するというのは、正直なところ少し面倒に感じます。もちろん、自分で自分を診療して、それを自院の保険診療として請求することはできません。一方で、医療機関として薬剤を購入し、適応や禁忌、副作用、必要な検査などを自分で判断したうえで、自己責任で自分自身に使用するという選択肢はあります。私自身も、スタチンなど一部の薬についてはそのような形で使用することがあります。

これは他の先生にも積極的に勧めたいという話ではありませんし、第三者の医師に診てもらった方がよい場面は当然あります。ただ、一人でクリニックを運営していると、毎回自分の定期薬のために別の医療機関を受診することが現実的にはかなり煩雑なこともあります。こうしたところも含めて、自分の健康管理をどこまで自分で行うのかは、開業してから初めて考えるようになったことの一つです。

感染症診療をしていると薬剤の備蓄が必要になることがある

もう一つ、実際に備蓄しておくと助かるのが感染症関連の薬剤です。例えばインフルエンザの流行期には、毎日数十人単位でインフルエンザ患者、あるいはその疑いの患者さんを診察することがあります。そうなると、診療する医師やスタッフ自身の曝露リスクもどうしても高くなります。

そのため私は、状況に応じて抗インフルエンザ薬などをある程度確保しておくことがあります。自分自身が発症した場合に使用することもありますし、曝露後予防を検討するような状況もあり得ます。ただし、予防投与については対象や適応を含めて医学的な判断が必要ですので、「感染症診療をしているから常時飲んでおけばよい」という話ではありません。それでも、感染症診療を行うクリニックとして、必要になったときにすぐ対応できる程度の薬剤を手元に置いておくことには一定の意味があると思っています。

特に一人で診療しているクリニックでは、自分が感染して休診すると、そのままクリニック自体を閉めなければなりません。患者さんへの影響もありますので、自分やスタッフを感染症から守ることも、クリニック経営の一部として考えざるを得ないところがあります。

ネット通販と卸は使い分ける

ただし、薬剤については何でもネット通販で買えばよいというわけではありません。例えばFOCUS Medicalでは、内服薬だけではなく、注射薬や点滴で使用する薬剤なども取り扱われています。私自身、例えばセフトリアキソンを10本程度備蓄しておこうと価格を確認したことがありますが、そのときは卸から購入した方が安かったという経験があります。医薬品については、従来の卸の仕入れ力がかなり強いのだと思いますので、ネットショップだから必ず安いというわけではなく、薬剤によって価格を比較した方がよいと思います。

また、ネット通販の弱点として感じるのが、医薬品の供給が不安定になったときです。これまでにも、アモキシシリンなどのペニシリン系抗菌薬やアジスロマイシンなど、さまざまな薬剤が入手しにくくなった時期がありました。そのような状況になると、ネット通販ではかなり早い段階で在庫がなくなり、その後なかなか入荷しないことがあります。おそらく流通量そのものが不足している状況では、通常の医薬品卸への供給が優先される部分もあるのだと思います。

そのため、「ネットならいつでも薬が買える」というわけではありません。在庫切れになって取り寄せ状態となり、いつ入荷するのか分からないこともあります。近々で必要になる薬や、確実に入手しておきたい薬については、やはり日頃から付き合いのある卸に頼む方が確実です。ネット通販には手軽さがありますが、供給の確実性については卸の方が強い。この二つは完全には両立しないのかなと感じています。ですので、卸一本にするのでも、ネット通販だけにするのでもなく、「もう一つの仕入れ先としてネット通販を持っておく」という使い方が一番よいのではないかと思っています。

抗原検査キットなどはネットの方が使いやすい

今回は薬剤の話が中心ですが、医療材料まで含めると少し事情が変わります。私自身は、医薬品についてはまだ卸の方が強いと感じていますが、抗原検査キットなどの医療用品については、ネット通販の方が手軽で価格も分かりやすいと感じることが多いです。

例えばインフルエンザや新型コロナウイルスの抗原検査キットについては、私は現在ほぼネットで仕入れています。その場で価格を比較できますし、必要な数量だけ注文できます。卸の担当者へ問い合わせて見積もりを確認するよりも早いため、このあたりはかなりネット通販との相性がよいと思います。

開業すると薬の「仕入れ価格」が見えるようになる

これは少し余談ですが、開業すると医療機関として医薬品を購入する立場になるため、それまで知らなかった薬の仕入れ価格が見えるようになります。これが個人的には結構面白いところです。

例えばタダラフィルです。ED治療薬として有名な薬ですが、2026年にはタダラフィル10 mgの「シアリス」が要指導医薬品として市販されるようになり、現在は薬剤師の確認を受ければ処方箋なしでも購入できます。ただ、希望小売価格は4錠で5,808円ですので、1錠あたりでは1,452円になります。

一方、医療機関として後発品のタダラフィルを仕入れる立場になると、薬剤そのものの価格はまったく違って見えます。私が実際に仕入れ価格を確認した範囲では、市販のシアリスを購入する場合と比べて、薬剤費だけなら数十分の1程度で済んでしまうものもあります。もちろん、市販薬や自由診療の価格には、薬剤そのものだけではなく、診察や薬剤師による確認、人件費、在庫管理、システム、広告などさまざまなコストが含まれていますので、単純に仕入れ価格だけを比較して高い・安いと言えるものではありません。

ただ、自分自身に医学的な適応があって、禁忌や併用薬なども自分で確認できるのであれば、医療機関として購入した薬を自己責任で使用するという選択肢もあります。タダラフィルのような薬では、その価格差を実際に見ると、「開業するとこういう選択肢も持てるのか」と少し面白く感じます。これも、勤務医として薬を処方するだけではなかなか見えなかった、開業して仕入れる側に回ったからこそ分かったことの一つです。

もちろん、これは「開業医なら薬を安く使える」ということを目的に開業するような話ではありません。ただ、医薬品の流通価格を実際に知り、自分自身についても保険診療とは別に選択肢を持てるというのは、開業医になって初めて知ったちょっとした面白さではあると思います。

卸とネット通販の両方を使えるようにしておく

医療機関として診療をしていると、院内処方を行っていないクリニックであっても、ある程度の薬剤を手元に置いておきたい場面があります。特に感染症診療を行っている場合には、医師やスタッフ自身の感染リスクもありますし、必要な薬剤をすぐに入手できる体制を作っておくことは、クリニックを継続して運営するという意味でも大切です。

もちろん、基本となるのは従来の医薬品卸です。供給の確実性や緊急時の対応などを考えると、卸との関係は今でも非常に重要だと思います。一方で、現在は医療機関向けのネット通販もかなり使いやすくなっています。少量の薬を気軽に注文したいとき、その場で価格を確認したいとき、あるいは少し安く購入できる商品を探したいときには非常に便利です。

卸かネットかという二者択一ではなく、両方を使えるようにしておいて、薬剤や状況によって使い分ける。私自身は、このくらいの距離感が一番使いやすいと感じています。もしこれまで卸からしか医薬品を購入したことがない先生であれば、こうした方法も一つの選択肢として知っておいてよいのではないかと思います。