以前、税理士との契約を終了したことについては何度かご紹介していましたが、改めて一つの記事としてまとめていなかったことに気づきました。少し時間が経ってしまいましたが、今回は税理士との契約を終了した経緯や、その理由について、私の経験を共有させていただきたいと思います。

当院の会計業務の変遷

まずは、当院の会計業務、特に税理士との関わりがどのように変わってきたのかについて、簡単にお話ししたいと思います。

私は開業当初、税理士と契約するつもりはありませんでした。その理由は、診療所の規模から租税特別措置法第26条(いわゆる措置法26条)の適用対象になることが分かっており、みなし経費制度を利用する前提だったためです。また、当院では診断書の作成を除き自由診療を行っておらず、収入の99%以上が診療報酬によるものです。診療報酬は国の制度を通じて支払われるため、構造上、収入をごまかすことはできません。さらに、みなし経費を適用している以上、経費を水増しして所得を操作する余地もありません。

そのため、税務上のリスクは比較的低く、税務署としても、こうした診療所を優先して税務調査の対象とする可能性はほぼゼロと考えていました。そうした背景もあり、会計や申告は最初から自分で行うつもりでした。

しかし、一つだけ悩んでいたことがありました。それは、診療所の開設と同時に、資産管理などを目的としたマイクロ法人(プライベートカンパニー)も設立したことです。個人事業の確定申告を税理士に依頼せず行う方は珍しくありませんが、法人の決算・申告まで一人で行うケースは比較的少ないと思います。そのため、法人についてはどうしようかと悩みましたが、「何とかなるだろう」と考え、勢いで法人も設立してしまいました。

ところが、その直後にCOVID-19の流行が始まりました。診療所の運営だけでなく、世の中全体が大きく混乱し、私自身も日々の対応に追われるようになりました。自分で調べながら法人の会計や申告まで進める余裕がなくなってしまい、「少なくとも初年度だけは専門家にお願いしよう」と考え、リベ大税理士法人へ依頼することにしました。

ただし、税理士へ完全に丸投げしていたわけではありません。日々の記帳や領収書の整理、月末の保険請求に関する資料整理など、日常的な経理業務は私自身が担当していました。税理士にお願いしていたのは、決算や法人税申告、各種届出書類の作成・提出など、専門性の高い部分が中心です。

こうした運用ができたのは、開業前に日商簿記3級程度の知識を身につけていたことも大きかったと思います。実務の中で分からない点があれば、その都度税理士へ相談しながら進めることで、大きな問題なく運用することができていました。

固定費の見直し

しかし、その後は当院の経営環境も少しずつ変化し、さまざまなコストを見直さなければならない局面が訪れました。税理士報酬は、私が契約していた事務所は一般的な相場と比べれば比較的安価だったと思います。それでも、小規模な診療所にとっては決して小さな固定費ではありません。そのため、コストカットの一環として、税理士との契約を終了することを決めました。

もともとは「初年度だけお願いし、その後は自分でやる」という考えでした。しかし実際には、さまざまな場面でサポートしていただき、大変お世話になりました。その結果、当初の予定より長く、約3期にわたって契約を継続し、その後に契約を終了するという流れになりました。

自力でやらなければならないこと

税理士との契約を終了すると、当然ながら、それまで依頼していた業務はすべて自分で行わなければなりません。もっとも、幸いなことに、日々の記帳や診療報酬の管理、経費の領収書整理などは、それまでも私自身が担当していました。そのため、日常的な経理業務については、契約終了後もそれほど困ることはありませんでした。一方で、自分で対応しなければならなくなったのは、個人の確定申告、法人の決算・申告、各種届出書類の作成・提出です。このあたりは税理士にお願いしていた部分だったため、自分で対応する必要が出てきました。

確定申告については別の記事で詳しくご紹介していますので、ぜひそちらもご覧いただければと思います。実際にやってみると、日々の記帳をきちんと行い、必要な資料を整理できていれば、会計や税務そのものが極端に難しいという印象はありませんでした。むしろ最初に苦労したのは、申告ソフトの使い方を覚えることです。この点についても別記事で詳しくまとめていますので、これからご自身で申告に挑戦される先生は、参考にしていただければと思います。

各種届出について

税理士と契約していると、年末の決算や確定申告だけでなく、さまざまな届出書類も代行してもらえます。私が実際に依頼していたものは、主に以下のような書類です。

  • 給与所得の源泉徴収票
  • 給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表
  • 給与支払報告書
  • 源泉所得税の納期の特例に係る納付書(給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書)

これらは、一つひとつ見れば決して難しい手続きではありません。実際、自分で調べながら進めれば十分対応できます。ただ、最初は何をどこへ提出すればよいのか、全体像が分からず、そこが一番苦労するところでした。

一方で、正直一番手間がかかったのは償却資産税の申告です。申告にはeLTAXを利用するのですが、e-Taxと同様に操作に少し癖があり、慣れるまで時間がかかりました。また、償却資産税の減価償却の考え方は、会計上の減価償却とは異なる部分があるため、その違いを理解する必要があります。この点は、私自身も最初はかなり苦労しました。

幸い、私は税理士に3年間申告していただいた実績があり、そのデータを参考にしながら応用することができました。そのため何とか対応できましたが、完全にゼロから始める場合は、かなり苦労しただろうと思います。もちろん、不可能というわけではありませんが、ここは税理士から引き継ぎ資料があるかどうかで難易度が大きく変わると感じました。

税理士と社労士の業務は意外と紛らわしい

少し余談ですが、税理士との契約中も感じたことの一つが、税理士の業務と社労士の業務の境界が、私たちからすると意外と分かりにくいということです。もちろん、専門家同士では明確に業務範囲が分かれているのでしょうが、開業医の立場からすると、「これは税理士にお願いできるのか、それとも社労士の業務なのか」が最初はなかなか判断できませんでした。

例えば、「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届(厚生年金保険70歳以上被用者算定基礎届を含む)」については、税理士に相談したところ、「これは社労士業務になるため、自分で対応してください」と案内されました。このように、一見すると税理士へ依頼できそうな書類でも、実際には社労士の業務に該当するものがあります。そのため、自分で手続きを進める場合は、どの書類を誰が担当するのかを一つずつ確認しながら進める必要がありました。

税理士をやめる前に準備しておくこと

もし先生の中にも、税理士との契約を終了し、ご自身で会計や申告を行おうと考えている方がいれば、事前に準備しておいたほうがよいことがいくつかあります。

まず一つ目は、日商簿記3級程度の知識を身につけておくことです。簿記3級であれば、1か月程度しっかり勉強すれば十分習得できるレベルだと思います。もちろん実務は簿記だけではありませんが、最低限の知識があるだけでも、その後の理解度は大きく変わります。

そして、私が最も重要だと思うのは、契約している税理士から、それまでの申告書類や届出書類一式を必ず受け取っておくことです。多くの税理士事務所では、作成した書類の控えを顧客へ渡していると思いますが、事務所によっては提出だけを代行し、書類を手元に保管していないケースもあるかもしれません。しかし、自分で申告を行うようになると、前年までどのように申告していたかを確認できる資料は非常に重要になります。申告内容の整合性を保つためにも役立ちますし、何より前年の書類が「見本」として残っているかどうかで、その後の作業負担は大きく変わります。私自身、税理士が作成した過去の資料を参考にしながら作業を進めることができたため、比較的スムーズに対応することができました。

そのため、契約を終了する場合は、契約期間中に「これまでの申告書類や届出書類一式をいただきたい」と依頼しておくことをおすすめします。通常であれば対応していただけると思いますが、契約終了後になると対応が難しくなるケースもあるようです。後から困らないためにも、必要な資料は契約中に確実に受け取っておくことが大切です。

また、e-Taxなどで電子申告を行っている場合は、提出済みの申告書類を再ダウンロードできることがあります。ただし、電子申告のアカウントを税理士側で管理している場合は、ご自身ではアクセスできないケースもあります。そのため、電子申告を利用している場合も、アカウントの管理方法や引き継ぎについて、契約終了前に確認しておくことをおすすめします。

税理士をやめて、よかったか?

税理士へ依頼していた時期と、自分で運用するようになった現在、その両方を経験した立場から率直な感想をお話しすると、現時点では「やめてよかった」と思っています。

ただし、「最初からすべて自力でやればよかった」とは思っていません。昨年度は自分で申告を行いましたが、それができたのは、税理士にお願いしていた過去3年間の申告書類や決算資料という叩き台があったからです。もし何もない状態から、すべてを一人で調べながら進めなければならなかったとしたら、かなり大変だったと思います。もちろん、不可能ではなかったとは思いますが、「本当にこれで合っているのだろうか」という不安は常に付きまとっていたでしょう。

また、分からないことがあったときに相談できる相手がいるという安心感は、想像以上に大きなものでした。今であれば生成AIという強力な相談相手がありますが、私が開業した当時はまだそのような環境はありませんでした。本やインターネットで調べながら進めても、それが本当に正しいのか、何か見落としがないのかを自分だけで判断しなければならず、その精神的な負担は決して小さくありませんでした。

そのため、開業当初に税理士へ依頼した判断は正しかったと思っています。そして、その後、業務の流れを理解し、十分な経験を積んだ段階で、コスト削減のために契約を終了したことも、私にとっては正しい判断だったと感じています。

現在は、コスト負担も軽くなり、業務の流れも理解できています。自分で対応できる範囲は自分で行い、必要なところだけ調べながら進めるという今のスタイルが、自分には合っていると感じています。

どんな先生なら自分でできるか

では、どのような先生であれば、私のように税理士との顧問契約を終了し、自分で運用できるのかという点について、私なりの考えをお話ししたいと思います。

まず、診療所の規模としては、租税特別措置法第26条(措置法26条)の適用範囲内であることが一つの目安になると思います。診療報酬が5,000万円以内で、自由診療が少なく、従業員も家族経営、あるいは常勤職員が1名程度に加え、パート数名までの比較的小規模な診療所であれば、十分現実的な選択肢ではないでしょうか。また、社労士業務である社会保険関係の手続きも、ご自身で対応できる程度の規模であることが望ましいと思います。

スキル面では、繰り返しになりますが、日商簿記3級程度の知識は身につけておくことをおすすめします。それと同じくらい重要だと感じたのが、パソコンを使いこなす力です。マネーフォワードやfreeeなどのクラウド会計ソフトを抵抗なく操作できることは、大きな強みになります。また、年末の確定申告や各種手続きでは、e-TaxやeLTAXを利用することになりますので、ある程度パソコンを使えることが前提になると思います。

現在では、分からないことがあればインターネットで調べたり、生成AIに質問したりすることで、多くの疑問は解決できます。それでも判断に迷う場合は、税務署へ相談するという方法もあります。税務署は公的な機関ですので、手続きに関する相談を無料で受けることができます。繁忙期は対応が難しい場合もあると思いますので、比較的空いている時期に相談すれば、手続きについて教えてもらうことも可能です。

また、「税理士へ依頼するか、自分でやるか」の二択で考える必要もありません。日々の記帳や経理は自分で行い、決算や確定申告だけをスポットで税理士へ依頼するという方法もあります。この場合、顧問契約より費用を抑えながら、専門家のサポートを受けることができます。近年では、スポット相談や決算だけの依頼に対応している税理士も増えていますので、このような形も十分現実的な選択肢だと思います。

補足になりますが、私は井ノ上陽一先生の『ひとり社長の経理の基本』がとても参考になりました。小規模法人やマイクロ法人の経理を自分で行う方にとっては、実務に即した内容が多く、一読の価値があると思います。また、井ノ上先生はスポットでの相談にも対応されているようですので、私自身も判断に迷うことがあれば、そのような形で相談することを考えていました。

結局のところ、税理士との付き合い方は、「顧問契約を続ける」か「完全に自分でやるか」の二択ではありません。日々の経理は自分で行い、必要な部分だけ専門家の力を借りるという方法もあります。私の場合は現在のスタイルが合っていると感じていますが、すべての先生に当てはまるとは思っていません。ご自身の診療所の規模やスキル、そしてどこまで時間をかけたいかに応じて、無理のない形を選ぶことが一番大切だと思います。