いわゆる「ミニマム開業」にはいろいろな形がありますが、今回は特に、スタッフの人数が少ないクリニック、場合によってはワンオペレーションで運営するクリニックについて取り上げてみようと思います。ミニマム開業というと、医師1名、受付スタッフ1名、看護師1名の3人体制など、本当に小さい規模で運営しているクリニックが多いと思います。あるいは私のように、医師1名と受付スタッフ1名の2人体制で運営するケースもあります。最近は人件費もかなり高騰していますので、スタッフの人数を最小限に調整していくクリニックも今後は増えてくるのではないかと思っています。
一般的には、スタッフの人数が少ないことはデメリットとして捉えられることが多いと思います。私自身も開業前はそのように考えていました。しかし、実際に数年間この形で運営してみると、意外と何とかなるだけでなく、「人が少ないからこそ良かった」という部分も少しずつ見えてきました。今回は人件費や固定費といったコスト面ではなく、実際のクリニック運営や患者さんとの関係の中で、少人数のクリニックだからこそ見えてきた意外なメリットについて書いてみようと思います。
患者さんも「人が少ないクリニック」に慣れていく
私が運営しているクリニックは、スタッフ数を本当に最小限にしています。基本的には受付スタッフ1名と私1名の最大2名体制です。さらに閑散期の午後など、患者さんがあまり多くない時間帯は私1人で受付から診察まで対応していますので、実質的にはワンオペで運営している時間帯もあります。開業当初は、これで本当に大丈夫なのかという不安もありました。そもそもクリニックというのは、どんなに小規模なところでも受付事務が2人程度いて、看護師が1人、医師が1人という4人程度の体制が一般的なのではないかと思っていました。そう考えると、受付スタッフ1名と医師1名、ましてや時間帯によっては医師である私しかいないクリニックというのは、かなり珍しい部類だと思います。
もちろん、当院はクリニック自体がかなり小さいので、外から見てもそれほど大人数で運営している施設ではないことは想像できると思います。それでも、実際にこれだけ人が少ない状態を患者さんがどう感じるのかということは、開業当初かなり気になっていました。ただ、最初から「必要になったらスタッフを増やせばいい」「今の規模では対応できなくなったら、その時に移転なども含めて考えればいい」と考えて始めたところもあります。規模を大きく開業するよりも、その方がリスクが少ないと考えたためです。そして実際に運営してみると、意外と何とかなります。受付スタッフが1人いて、私自身もレセプトや事務作業をある程度できれば、小規模な内科クリニックであればかなりの部分を回すことができます。もちろん診療内容や患者数によるとは思いますが、「思っていたよりも少人数で運営できる」ということは、実際にやってみて初めて分かりました。
さらに面白いのは、患者さん側も次第にこの運営に慣れてくることです。特に何度も通院してくださっている患者さんは、「このクリニックはもともとあまり人がいない」ということを理解してくれています。患者さんによっては、来院するとマイナンバーカードによる受付をご自身で済ませ、そのまま順番が来るまで待ってくださいます。最初はこちらが「スタッフが少なくて大丈夫だろうか」と心配していたのですが、続けているうちに、それ自体が当院の普通の運用になってきました。
「人が少ないクリニック」を好む患者さんもいる
これは実際に開業してみてかなり意外だったことなのですが、患者さんの中には、そもそも人が多い場所が苦手という方が一定数いらっしゃるようです。スタッフが多く毎回のように違う人が対応する医療機関や、あるいは大きな待合室に多くの患者さんがいる環境そのものを少し負担に感じる方もいます。医療機関へ行くこと自体に気が重くなったり、知らない人と何度も話をすることをストレスに感じたりする方もいるようです。当院の場合、基本的には私といつもの受付スタッフしかいません。さらに空いている時間帯であれば、私しかいないこともあります。「あまり人に会いたくない」「知らない人と何度も話したくない」「いつもの人なら大丈夫」という患者さんにとっては、むしろこの環境が安心材料になっているような面もあるのかもしれません。
スタッフが少ないことは、医療機関側からすると弱点のように見えます。しかし患者さんの立場から見ると、毎回同じ人が対応するということでもあります。新しいスタッフに毎回説明したり、知らない人と次々にコミュニケーションを取ったりする必要がないということは、人によっては意外と大きなメリットなのだと思います。これは開業前にはまったく想像していなかったことでした。
ネット予約との相性もかなり良い
この話は、当院がネット予約制にかなり振り切っていることとも関係していると思います。当院では基本的にネットから予約していただき、電話予約や飛び込みでの当日受付は原則として受けていません。実は「電話で予約する」という行為自体をかなり高いハードルに感じる人も少なくないようです。特に若い世代ではその傾向があるように感じますし、私自身も電話で予約を取ることはあまり得意ではありません。電話しなければならないと思うと億劫になり、そのまま予約をやめてしまうこともあります。一方でネット予約であれば、画面上で日時を選択し、必要事項を入力するだけです。音声で誰かとやり取りする必要もありません。
さらに当院では問診もWeb上で回答してもらっています。そのため、診察前に伝えたいことを文章として入力しておくこともできます。人とのコミュニケーション、特に初対面の人との会話に強いストレスを感じる方にとっては、予約をネットで完結でき、問診も文章で伝えられるという仕組みそのものが、受診のハードルをかなり下げているようです。実際に患者さんから、「ネット予約だったから受診できた」「電話をしなくていいので来やすかった」という趣旨の話を聞いたこともあります。
そして、これは患者さんだけの問題ではありません。受付業務をする側にとっても、電話対応が苦手、あるいは電話対応そのものを強いストレスに感じる人は少なくないようです。電話対応が負担になり、仕事を辞める理由の一つになるケースまであるようです。私は開業するまで、ここまで電話を苦手としている人が多いことをあまり知りませんでした。自分自身が電話をあまり好きではないので、「自分だけなのかな」と思っていた部分もありましたが、実際にはそうではなかったようです。ネット予約やWeb問診という仕組みは単なる業務効率化だけではなく、「人とのやり取りを必要最小限にしたい」という患者さんにとっても意味があるのだと思います。
患者さん同士がほとんど顔を合わせない
もう一つ、完全予約制で運営していて感じるのは、患者さん同士がほとんど顔を合わせないことです。インフルエンザが流行して非常に混雑する時期などは別ですが、通常であれば待合室にいる患者さんは多くても前後1〜2人程度です。時間で区切って予約枠を設定しているため、タイミングによっては来院してから帰るまで他の患者さんとまったく会わないこともあります。重なったとしても、診察を終えて帰る際に、次の患者さんが待合室に座っている横を通る程度です。この「他の患者さんとあまり会わなくて済む」ということも、実は一定の需要があるのではないかと思うようになりました。
従来型のクリニックでは、まず受付をして、大勢の患者さんがいる待合室で1時間、場合によっては2時間待ち、ようやく診察に呼ばれる。診察が終わったあとも会計まで待ち、処方箋を受け取り、さらに薬局でも順番を待つ。以前はこうした流れがごく普通で、それ自体に大きな疑問を持つ人もあまりいなかったと思います。しかし、この10年ほどでスマートフォンが急速に普及し、予約システムやWeb問診、キャッシュレス決済なども一般的になってきました。当院のように完全予約制で、「ほとんど待たない」「他の患者さんとあまり会わない」というクリニックも運営しやすくなっています。そして、これはこれで一つの需要なのだと思います。
もちろん保険診療という観点では、経営上どうしても「薄利多売」的な側面から完全に逃れることはできません。ある程度の設備投資をして、多くのスタッフを雇用している従来型のクリニックであれば、多少患者さんに待っていただいてでも予約をかなり詰め込み、次々と診療していかなければ経営が成り立たないという事情もあると思います。しかしミニマム開業の場合、そもそもの固定費が小さいという前提があります。もちろんマンパワーが少ないため対応できる患者数にも限界がありますが、その代わり、「できるだけ待たせない」「患者さん同士をあまり重ねない」という運営を選択する余地もあります。開業した当初はそこまで考えていませんでしたが、最近では、こういうクリニックの形も意外とありなのではないかと思っています。
久しぶりに「待つ医療機関」へ行くと思うこと
私自身も患者として医療機関を受診することがありますし、家族の受診に付き添うこともあります。そのため、今でも患者側の立場を経験する機会があります。そうすると、改めて医療機関というのはかなり待つ場所なのだと感じます。大きな病院であれば、予約していても30分や1時間待つことは珍しくありません。診察が終わったあとも、会計までさらに20〜30分待つことがあります。クリニックでも、予約しているにもかかわらず30分程度待つことは普通にあります。自分がそういう経験をすると、「そういえば医療機関というのは本来こういうものだったな」と思う一方で、「うちのクリニックは意外と先に進んでいるのかもしれない」と少し自信を持つこともあります。
もちろん、それだけ待ってでも患者さんが来てくれる医療機関には、それだけの理由があるわけです。その点は純粋にすごいと思いますし、私自身もいろいろと考えさせられます。ただ、全体的な流れとしては、今後は予約制がさらに一般的になり、患者さんを長時間待たせる医療機関は少しずつ減っていくのではないかと思っています。実際、大学病院などでも、あらかじめクレジットカードを登録しておき、診察後に会計窓口へ並ばず、そのまま帰宅して後から決済される仕組みを導入しているところがあります。これまで医療機関では「仕方がない」とされていた待ち時間や手続きも、テクノロジーによって少しずつ変わっていくのだと思います。
ミニマム開業を続けてみて分かったこと
開業前は、「スタッフが少ない」ということを基本的にはデメリットとして考えていました。人が足りなくなったらどうしよう、患者さんから見て不安に思われないだろうか、ワンオペになったら本当に回るのだろうか。そういった心配は当然ありました。しかし、実際に続けてみると、意外と何とかなります。そしてさらに意外だったのは、人が少ないこと、予約制であること、他の患者さんとあまり会わないこと、電話をしなくても受診できることなどが、一部の患者さんにとってはむしろ「来やすさ」につながっていたことです。
もちろん、すべての患者さんに向いている形ではありませんし、診療科や患者層によっても大きく違うと思います。それでも、「スタッフが多く、患者さんも多く、待合室が常に混んでいるクリニック」だけが正解ではないのだと思います。ミニマム開業は、単純にコストを抑えて開業する方法というだけではありません。実際にやってみると、少人数だからこその距離感や、予約制だからこその静かさ、患者さん同士があまり顔を合わせない環境など、それ自体に価値を感じてくれる患者さんがいることが分かってきました。これは私自身、開業する前にはまったく想像していなかったことです。ミニマム開業を続けてきた「その後」として、最近はそんなことを考えています。
