今回は、開業医の最終的なキャリアについて考えてみたいと思います。

このテーマは、私自身にとってもまだ経験していない未知の領域です。そのため、どうしても推測を含む内容になりますが、周囲の先生方の状況を見て感じることや、自分自身が今後どのような道を歩んでいくのか、さらに今後の医療情勢がどのように変化していくのかという点も踏まえて考えていきたいと思います。

今回は、経営がうまくいかず、金銭的な理由から開業医を辞めて勤務医に戻るケースについて考えるものではありません。経済的に困窮しているわけではないものの、医師としての最終的なキャリアをどのような形にしていくのか、という前提で考えていきます。

従来は開業医の引退が医師としての引退だった 

従来、多くの開業医の先生が想定してきた最終的なキャリアは、自分が働ける年齢までクリニックを続け、閉院や承継のタイミングで医師としての仕事からも引退するという形ではないかと思います。クリニックについては、そのまま閉院する場合もあれば、後継者やお子さんに引き継ぐ場合、M&Aによって第三者に譲渡する場合もあります。いずれにしても、開業医を辞めることと医師としてのキャリアを終えることを、ほぼ同じタイミングで考える先生が多かったのではないでしょうか。

クリニックを閉院または譲渡した後は、勤務医として別の医療機関に戻るのではなく、そのまま仕事から完全に引退し、隠居生活に入る。従来型の開業医では、実際にそのようなキャリアを歩まれるケースが比較的多かったように思います。現在でも、開業医を辞めるタイミングを、医師としての引退時期と考えている先生は多いのではないでしょうか。

理想的なのは、自分が満足できる年齢まで医師として働き、十分な資産を築いたうえで引退することです。仕事を辞めた後も、生活に何不自由なく過ごすことができる。そのような状態で医師としてのキャリアを終えられることが、最も理想的な形だと思います。

開業医の最終キャリアの多様化

しかし、たとえば65歳で開業医としては引退するとしても、まだ臨床を続ける体力は残っている一方で、クリニックを運営する手間からは離れ、純粋に臨床だけをもう少し続けたいと考える先生もいらっしゃると思います。今後は、そのような先生も少しずつ増えてくるのではないでしょうか。

これは65歳に限らず、たとえば55歳でもよいと思います。開業医として、自分が理想とする形の医療をある程度実践し、その経験を踏まえたうえで、最終的には勤務医に戻る。そして、一定期間勤務医として働きながら、医師としてのキャリアを締めくくる。そうした選択をする先生がいてもよいと思いますし、それはそれで非常によいキャリアの形ではないかと思います。

現在は転職市場が非常に活発になっており、それは医師の業界でも同様です。セカンドキャリアや、これまでとは異なる働き方を考える先生も増えています。

フルタイムで戻る必要はない

どの程度の仕事をするかという点については、先生の体力や、必要なお金にもよりますが、必ずしもフルタイム勤務を前提にする必要はないと思います。常勤医として戻るのももちろんよいと思いますが、週4日勤務の常勤や、勤務先によっては週3日勤務でも常勤扱いとしてくれるところがあります。さらに、週1〜2回の非常勤勤務や、午前中だけの勤務であっても、まったく問題はないと思います。

経済的に困っていない先生であっても、週1〜2回の非常勤勤務を続けることは、社会との接点を持つという意味でよい選択肢になると思います。また、金銭的にさらに余裕を持つという面でも意味があります。引退後は年金や資産の取り崩しを前提としている先生も多いと思いますが、医師の仕事は非常勤であっても比較的給与水準が高いため、工夫して高単価な求人を選べば、週1回の勤務だけで年間500万円程度の収入を得られるケースもあります(訪問診療の仕事など)。そのため週2回の勤務であっても、年収1,000万円程になる案件もあります。これだけあれば、クリニックを閉院した後も、開業医時代の資産形成と、年金を組み合わせれば、経済的にはかなり余裕を持てるのではないでしょうか?

開業医のキャリアはプラスかマイナスか

転職という観点で考えると、開業医として働いた経験は、むしろプラスに評価されることが多いのではないかと、私は考えています。もちろん勤務先にもよると思いますが、特にクリニックへ転職する場合には、開業医としての経験が生かされる場面は少なくないはずです。

開業医を経験した先生であれば、レセプトや保険診療の仕組みについてもある程度把握しています。また、患者さんへの接遇や、クリニックを円滑に運営するために必要な対応についても理解していることが多いと思います。こうした経験を持つ先生と、クリニック運営にまったく関わったことのない先生を比べた場合には、開業経験のある先生のほうが有利になる場面もあるのではないでしょうか。

私自身、現時点では非常勤医師を雇う予定はありませんが、仮に採用するとすれば、開業医としての経験がある先生には一定の魅力を感じると思います。もちろん、勤務医として働き続けてきた先生でもまったく問題はありませんし、実際にはそのような先生が大多数です。ただ、自分で診療所を経営していた経歴がある先生であれば、雇用する側の事情や、クリニック全体の運営についてもある程度理解してくれるのではないかと期待できます。その点では、採用においてプラスに働く可能性があると考えています。

一方である程度大きい規模の病院へ戻る場合には、開業医としての経験をそのまま生かせるかというと、必ずしもそうではないと思います。クリニック経営の経験よりも、専門性や病院勤務の経験が重視される職場もあるでしょう。

開業医から勤務医に戻ることについて、開業医の経歴が不利になるのではないかと考える先生もいらっしゃるようですが、少なくとも私は、そのように考える必要はないと思っています。仮にクリニック経営がうまくいかなかったという事情があったとしても、臨床医としての能力と、経営者としての能力は別のものです。経営上の結果だけを理由に、臨床医としての評価まで下がることは、一般的にはあまりないのではないかと考えています。

問題があるとすれば年齢

転職において不利に働く要素があるとすれば、開業医としての経歴そのものよりも、年齢の影響のほうが大きいのではないかと私は考えています。現在は、医師に限らず、労働者を採用する際に年齢だけを理由として選考から外すことは、原則として認められていません。しかし、先生方もご存じのとおり、実際の採用現場では、年齢が考慮されていると思います。

たとえば、同程度のスキルを持つ30代の医師と70代の医師が同じ求人に応募した場合、若い先生のほうが有利になる場面があることは否めません。体力面や今後勤務できる年数などを考慮する採用側の事情もあるため、これについては、個人の努力だけではどうにもならない部分があると思います。

特に美容医療の業界では、年齢の影響が比較的顕著に表れる印象があります。求人によっては若い医師が強く求められ、ある程度の年齢になると、応募の段階から選択肢が限られてしまうこともあります。もちろんすべての医療機関がそうではありませんが、業界の構造や患者層、医療機関側のブランディングなどを考えると、ある程度は避けにくい傾向なのかもしれません。

医師を必要としている地域はまだまだある

しかし現在でも、特に過疎地や医師の少ない地域では、医師を募集する動きがかなりあります。こうした募集は、一般的な医師求人会社だけが行っているわけではありません。学会など、比較的公益性の高い団体が、紹介手数料などをほとんど取らず、純粋に地域の医師不足を解消することを目的として募集している案件もあります。

勤務地としては、当然ながら、いわゆる僻地に該当する地域や、交通の便があまりよくない場所も含まれます。一方で、医師としての最終的なキャリアにおいて、これまで積み重ねてきた経験を生かし、その地域の医療に貢献する道を選ぶ先生もいらっしゃるようです。これは非常に立派なキャリアの締めくくり方だと思います。

最近では、香山リカ先生も、精神科医としての経験を持ちながら、プライマリ・ケアや地域医療の分野へ活動の場を移し、奮闘されています。その経験は著書にもまとめられており、医師のセカンドキャリアを考えるうえで、一つの参考になる事例だと思います。(参考サイト→50代半ばで精神科から一転・総合診療でへき地へ

開業医のうちから週1回の非常勤先を確保しておく

私は他の記事でも、開業医として単独で働くのではなく、勤務医とのハイブリッド型にして、週1回程度は非常勤で勤務するのもおすすめだと書いてきました。この考えは今も変わっていません。今回のテーマで考えると、すでに週1回の非常勤勤務をしている先生であれば、クリニックを閉院した後も、その仕事は残ります。そのまま週1回の勤務を続けてもよいですし、閉院によって時間に余裕ができたのであれば、週2回へ増やしていくという選択肢も現実的だと思います。すでに一つの勤務先を確保できていることは非常に大きく、ある程度の期間勤務していれば、勤務先との信頼関係も築かれているでしょう。そのため、閉院後に勤務日数を増やせないか相談することもできるかもしれません。一方で、まったく別の医療機関に応募し、複数の勤務先に分散するという方法もあります。一つの勤務先に依存しないという意味では、リスクヘッジとしても十分に妥当だと思います。

可能であれば、段階的に移行していくのもよいと思います。たとえば、現在週5日クリニックで診療している先生が閉院を考え始めた場合には、まず診療日を週4日に縮小し、空いた週1日を非常勤勤務に充ててみます。そうすることで、閉院後に週1回の非常勤勤務を続ける生活がどのようなものかを、事前にイメージできます。その状態で、たとえば1年間の移行期間を設けたうえでクリニックを閉院し、週1回の非常勤勤務へ移行する。その後の状況を見ながら、勤務日数を増やすのか、そのまま維持するのかを検討していくという流れもよいと思います。

もちろん、クリニックを閉院した後、すぐに非常勤勤務へ切り替える方法でも問題はありません。ただ、開業医には、自分で仕事量や診療日数をある程度調整できるという大きなメリットがあります。閉院を考える段階に入ったのであれば、その裁量を活用し、時間をかけて次のキャリアへ移行していくのも、開業医だからこそできる方法ではないかと思います。