今回は、開業医が麻薬施用者免許を取得しておくべきか、ということについて書いてみようと思います。私自身、開業直後には申請が間に合わなかったのですが、開業して1〜2か月ほど経ったところで麻薬施用者免許を申請し、取得しました。ただ、結論から申し上げると、その後ほとんど使うことがありませんでした。一方で、免許を持っていることで毎年の届出や更新などの事務作業は発生します。そのため私は、最終的には更新せず、麻薬施用者免許を返納することにしました。今回は、なぜ最初に取得したのか、そしてなぜやめることにしたのかについて、実体験をもとにご紹介したいと思います。

診療内容によって必要性はかなり違う

麻薬施用者免許が必要かどうかは、診療内容によってかなり違うと思います。在宅医療で終末期の患者さん、特にがんの終末期まで診療するのであれば、医療用麻薬を使用する場面は当然出てくるため、麻薬施用者免許の必要性は非常に高いと思います。一方、一般的な外来診療に限るのであれば、麻薬を処方する場面はかなり限られます。特にがん診療や緩和ケアを行わないクリニックであれば、実際にはほとんど使わないという先生も多いのではないでしょうか。小児科などではさらに使用する場面は限られるでしょうし、整形外科などで強い鎮痛薬を使用する可能性がある場合には事情が変わってくると思います。

このあたりは診療科や診療スタイルによって大きく異なりますが、「何かあったときのために、とりあえず麻薬施用者免許だけは取っておこう」と考えている開業医の先生もいるのではないかと思います。私もまさにその一人でした。麻薬を処方したい患者さんが現れてから申請しても、その場ですぐに免許が発行されるわけではありません。私が申請した際も、申請から取得までには一定の時間がかかりました。必要になったときに免許がなくて処方できないという状況は避けたいと思い、念のため取得しておくことにしたわけです。

使わなくても届出は必要になる

ただ、実際に診療を続けてみると、麻薬を処方する機会はほとんどありませんでした。結果として、私が麻薬施用者免許を使ったのは実質的に一度だけだったと思います。それでも、麻薬施用者免許を持っていることで届出関係の仕事は発生します。麻薬管理者がいない診療所では、麻薬施用者が毎年「麻薬年間届」を提出する必要があり、麻薬をまったく所有せず、一度も使用していなかった場合でも提出が必要です。

もちろん、書類そのものはそれほど複雑なものではありません。麻薬をまったく扱っていなければ、その旨を記載して提出するだけです。ただ、実際に開業してみると、この「年に1回しかやらない作業」が意外と面倒です。毎年、「これはどう書くのだったか」「どこに出すのだったか」と確認し直す必要があります。私はこうした作業について自分用のマニュアルを作ったりもしていましたが、そもそも一度も使っていない免許のために、毎年そのような作業をすること自体にだんだん疑問を感じるようになりました。

開業医は、とにかく届出や事務仕事が多くあります。一つひとつは大した作業ではなくても、それが積み重なるとかなりの負担になります。数分、数十分の仕事であっても、「忘れてはいけない仕事」が一つ増えること自体が負担になります。特に紙で書類を用意して、場合によっては送付状を作り、郵送したり窓口に持参したりするとなると、それなりの手間です。電子申請で数分で終わるのであればまだよいのですが、こうした細かな事務作業は、できるだけ減らしていきたいと考えるようになりました。

更新時の診断書も一人院長には負担になる

もう一つ負担だったのが、免許の継続申請です。麻薬施用者免許には有効期間があり、継続して麻薬を取り扱うのであれば更新が必要になります。その際には医師の診断書も必要になります。診断書自体はそれほど複雑なものではありませんが、自分で自分の診断書を書くわけにはいかないため、他の医師に作成してもらう必要があります。

クリニックに非常勤の先生が勤務している場合や、近隣に知り合いの開業医がいる場合には、それほど大きな問題ではないと思います。しかし、私のような一人院長で、なおかつ近隣に知り合いの開業医がほとんどいない場合、この診断書を誰にお願いするかが意外と悩ましい問題になります。初回の申請時には、私も「これはどうしたものか」とかなり困りました。近隣には知り合いのクリニックがありませんでしたので、まったく面識のない医療機関に事情を説明して相談しました。ただ、当然ながら断られることもあり、何軒か探したうえで、最終的には事情を理解してくださった先生に診断書を書いていただくことができました。

診断書そのものよりも、受診先を探し、予約を取り、実際に受診して診断書を書いてもらうという一連の作業が負担でした。頼みにくいことをお願いしなければならないという心理的な面倒さもあります。診療時間との兼ね合いを考えれば、なんだかんだで半日ほど使ってしまうこともあります。それを数年ごとに繰り返してまで、ほとんど使っていない免許を維持する必要があるのだろうか、と考えるようになりました。

実際に使ったのは一度だけ

とはいえ、麻薬施用者免許を取得していて一度だけ助かったことがあります。コロナ禍の頃、どうしても咳が止まらない患者さんにコデインリン酸塩散1%を処方したことがありました。コデインリン酸塩散1%は麻薬としての取扱いではありませんが、当時は薬剤供給がかなり混乱しており、1%製剤の在庫がなく、調剤薬局から10%製剤へ変更できないかと連絡を受けたことがありました。コデインリン酸塩散10%は麻薬に該当するため、このときは麻薬施用者免許を持っていたことで処方することができました。

この一件については、免許を取得しておいてよかったと思いました。ただ、その後はコロナ禍も落ち着き、当時のような薬剤供給の大混乱も少なくなりました。また、私自身の診療内容を振り返ってみても、麻薬を処方する場面はほぼありませんでした。そのため、この一度のために今後も免許を維持し続ける必要があるのか、と考えるようになりました。

「念のため」に維持するものを減らしていく

最終的に私は、麻薬施用者免許を更新しないことにしました。もちろん、今後絶対に麻薬を必要とする患者さんが来ないとは言い切れません。しかし、その可能性のために毎年届出を行い、継続申請のたびに診断書を取得し、免許を維持し続けることが、自分のクリニックにとって本当に必要なのかを考えました。もし今後、麻薬による治療が必要な患者さんが受診された場合には、その時点で改めて対応を考えるか、麻薬を処方できる医療機関へお願いすることになります。当院では麻薬を処方できないという線引きをしてしまうことも、一つの選択だと思っています。

これは以前書いた「できることと、できないことを見極める」という話にもつながります。開業すると、「念のためにこれも準備しておいた方がよい」「いつか使うかもしれないから残しておいた方がよい」というものが次々に増えていきます。しかし、ほとんど使わないものを維持するためにも、時間や手間、そして頭のリソースは使われます。一つひとつは小さな負担でも、それが積み重なればクリニック全体のパフォーマンスにも影響します。

使用頻度と維持するための労力を天秤にかけて、必要性が低いものは思い切ってやめる。麻薬施用者免許についても、私の場合はそのように判断しました。在宅医療や緩和ケアなど、麻薬の使用が診療上想定されるのであれば、もちろん取得しておくべき免許だと思います。一方で、一般外来のみで麻薬を使う可能性がほとんどないのであれば、「開業医だから念のため取っておく」というだけで維持する必要があるのかは、一度考えてみてもよいのではないかと思います。