家庭を優先するために開業医になるというのはどうなのか、というテーマです。
医師のキャリアの中で、どこかの時点で独立するというのは、ひとつの現実的な選択肢として考えられています。成功したいとか、お金を儲けたいというよりも、家庭環境を優先したいからという理由で開業を選ぶ先生もいらっしゃると思います。お子さんとの時間を確保したい、介護の事情がある、など理由はそれぞれだと思いますが、その目的で開業医になるという選択は、私はあまりおすすめしにくいというのが今回の内容です。

独立すると、やることが想像以上に多い

以前もお話ししましたが、開業医というのはとにかくやることが多い。特に診療以外の業務が大幅に増えます。診療時間自体は調整すれば勤務医より短くすることもできますが、開業後は診療時間外の雑務や事務作業、管理業務が増えてしまい、結果的に実働時間は勤務医より長くなることが多いです。
特に、時間をしっかり区切ってくれる非常勤勤務や、比較的ワークライフバランスが整っている常勤先と比べると、開業医の労働時間は圧倒的に長くなりがちです。もちろん、自分の裁量で時間を調整できるという利点はありますが、家族との時間を確保するために夜中や早朝に仕事を回すことになり、現実的にはかなり大変です。

資金的な不安定さが最大のリスク

私が最大のリスクだと考えるのは、やはりお金の問題です。
資金的に不安定になってしまうと、家族に時間を割くどころではなくなります。経営状況によっては、生活を補うためにアルバイトに出ざるを得なくなり、結局時間が減ってしまうこともあります。
また、大きな規模で開業してうまくいかない場合、借金を背負い、その返済に追われることもあります。最悪の場合、自己破産という事態に陥る可能性もあります。資金的に追い詰められるというのは本当に厳しいことで、どんなに精神的に強い先生でもかなり辛いと思います。「貧すれば鈍する」という言葉は本当にその通りだと感じます。

先生自身にかかる負荷が非常に大きい

お金の問題だけでなく、時間外の仕事や雑務の多さなど、総合的に見ても先生ご自身への負荷は非常に大きくなります。特に開業初期の1年目は本当に大変です。
ある程度軌道に乗っても、やることが減るわけではありません。結局ずっと多忙が続くため、精神的にも肉体的にも疲弊しやすく、先生が人生の余裕を失ってしまうリスクがあります。

時代のトレンドも逆風

いまの日本では、医師全体が逆風の中にあります。その最前線にいるのが開業医です。風当たりが強く、規制も増え、経済的にも環境的にも厳しい時代です。トレンドとして完全に流れが悪い。このような時期に新たに開業に踏み出す理由は、正直あまり見当たらないと私は思います。

他の選択肢が充実してきている

一方で、勤務医としての働き方は多様化しており、以前よりも環境は整いつつあります。
確かに医療全体として厳しい時代ではありますが、労働基準や勤務環境の改善が進み、労働者としてはむしろ有利になってきている面もあります。
また、ITの発達によって転職情報が透明化され、以前よりも転職がしやすくなりました。情報を得たうえで、自分の希望に合う職場を探しやすくなっています。
現実的に考えると、「戦略的に転職する」という選択肢の方が、再現性が高く、リスクも低く、結果的に有利にキャリアを進められる可能性が高いと思います。

もしご家族との時間を確保したいのであれば、労働負荷が少なく、ホワイトな常勤で職を得るか、非常勤をいくつか組み合わせて、週の労働日数を減らすことが考えられます。こちらの方がはるかに再現性が高いです。

私自身の経験から

以前、私が開業を続ける理由として「子どもと過ごせる時間がある」と述べたことがあります。
ただ、これはかなり例外的なケースです。私はクリニックのすぐそばに住み、診療時間も短縮し、家庭を最優先にして運営しています。
それでも、コストカットや自分がマルチプレイヤーになる等、かなりの工夫を重ねてかろうじで成り立っている状態です。そのため私自身のQOLはかなり下がってしまっているのが現状です。。。
子どもと過ごす時間以外の面では、正直人生辛いことが多く、とても他の先生に勧められる方法ではないというのが、私の率直な気持ちです。