先生がスタッフさんを雇用される際、正社員ではなく、パートやアルバイトのスタッフさんであれば、基本的には期間を定めた有期契約の職員になると思います。開業初期や、小規模の開業であれば、非常勤のスタッフだけでクリニックを運営することもあると思います。
ところで先生は、有期契約の職員であっても、更新を繰り返した場合、無期契約に以降しなければならないケースがあることをご存知でしょうか?いわゆる「無期転換ルール」と言われるものです。今回は無期転換ルールについてご紹介していきます。
無期転換ルール
詳細は厚生労働省のサイトにわかりやすくまとまっており、資料も充実しているため、こちらを参考にしていただければ幸いです。https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21917.html
こちらでは、一部重要な部分をピックアップして見ていきます。
無期転換ルールの定義
無期転換ルールは、同一の使用者(企業)との間で、[有期労働契約が5年を超えて更新された場合]、[有期契約労働者(契約社員、アルバイトなど)からの申込み]により、[期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換]されるルールのことです。
有期契約労働者が使用者(企業)に対して無期転換の申込みをした場合、無期労働契約が成立します(使用者は断ることができません。)。
上記の厚生労働省のサイトでは上記のように定義されています。ざっくり言えば、5年以上勤める契約をしたスタッフさんが、無期転換ルールを行使した場合、先生は断ることができず、有期契約から無期契約にしなくてはならないということです。
無期契約になっても、雇用条件は基本維持
無期契約になった場合でも、給与は基本以前と変わらない形態を維持することが求められます。また仕事内容も、極端に配置換えをするなど、無期契約を阻害すると考えられるような行為は、違法とされています。
特に正社員にする義務ではない
契約期間が無期契約=正社員ということではありません。もちろん話し合いの上、正社員に登用することはあり得るかと思いますが、働き方の形態は従前を踏襲して、基本的には期間の定めだけがなくなるイメージです。
就業規則をしっかり作る
ミニマム開業で、スタッフが2−3人であれば必須とは言えないかもしれませんが、ある程度の規模の組織になることをイメージされている先生は、開業初期から社労士さんに依頼して、就業規則などの書類もきちんと整えておくほうがよいと思います。こういう書類関係は、なあなあになってしまいがちです。後に結構ストレスになることもあるので、資金的に余裕がある先生は、外注してしまったほうが、精神衛生上もコストパフォーマンスも良いかもしれません。
ちなみに私は開院してしばらくは家族経営だったので、このような書類は人を雇う段階になって、バタバタと用意することになりました。資金的に余裕もないので、ネットで調べて自力でなんとか形を整えましたが、正直コストパフォーマンスはよくないと思います。給与計算やシフト管理も、マネーフォワードを使って現在も自力で行っていますが、誰かに任せられれば、、、と常に思っています。資金的な余裕がないミニマム開業は事務作業の負担も多く、結構厳しいです。
雇用主の立場からすると結構つらい法律
この無期転換ルールは、労働者からすれば、雇用が安定するというメリットがありますが、先生にとってはつらいです。長年勤めてくれるスタッフがいることは、ありがたいことですが、万が一経営が苦しくなった場合も、スタッフにやめてもらうことが難しくなります。COVID-19流行という、想像もしないような災害により、経営的にかなり追い込まれた医療機関もありました。そのような際は、どうしても人件費は先生にとって大きい負担になります。最悪共倒れになってしまうリスクもあります。
通知義務はいまのところないが。。。
この無期転換ルールは「労働者の方から申し出」が無い限りは適応されません。申し出がない限りは有期契約のままで良いわけです。また先生の方から労働者に通知する義務はいまのところありません。黙っていれば特に問題にならないケースもあります。
しかし今はネットで調べれば何でも情報が得られる時代です。知っている前提で準備をしておくに越したことはありません。
無期転換ルールを阻害するために、5年未満で契約を切るのは違法の可能性も
このルールを知った先生が、それでは、5年以上雇用しなければよいと思われるかもしれません。5年未満で雇い止めを行い、新たな人を雇用すれば、無期転換ルールの行使は避けられます。しかし基本的に無期転換ルールを阻害する目的で、5年以上の契約更新をしないことは、たしかに合理的ではありますが、黒に近いグレーであると考えられます。厚生労働省のパンフレットにも、明確に違法という記載はないものの、「労働契約法第18条の趣旨に照らして望ましいものではありません」とパンフレットの冒頭に赤字で明確に表示しています。
また一定期間休むと、この無期転換ルールの換算期間がリセットされる決まりも存在します。これを悪用して、たとえば4年半勤めたスタッフを、一度退職してもらい、半年後にまた再雇用するというようなことをすれば、有期契約で雇用しつづけることが可能と考えられます。しかしこれも上記と同様に警告されています。要するに、無期転換ルールを阻害する行為は、法の網をかいくぐって出来ないことはないものの、基本的によろしくないということです。場合によっては違法と判断される可能性もあります。
5年以上勤めてくれるスタッフは貴重
非常勤で5年以上もの長い間、先生のクリニックに勤めてくれるスタッフがいるとすれば、その方は非常に貴重な方です。先生のお人柄や職場の働きやすさもあるのでしょう。そのような方は是非大切にしていただきたいです。そもそもクリニックの離職率は低いものではありません。入れ替わりが比較的多い業界です。大変な仕事ですから止むをえないこともあるでしょう。私がまだ病院勤めをしていた頃、COVID-19の大流行の影響で、本当は働きたいけれどもお子さんやご家族の事情でやむにやまれず退職された職員もいました。様々な困難がある中で、先生を長く支えてくれる人は本当に貴重な存在です。どうか大事にされてください。