昨今のクリニックでは、医師の診察前に問診票を記入することが多いです。現在でも手書きのクリニックは少なくありませんが、今後は電子化することが一般的になると思います。デジタル問診票は上手に使用すると診療時間の短縮や、カルテ入力の手間も減るので、非常におすすめです。
デジタル問診票の利点や当院での運用についてご紹介していきます。
デジタル問診票はおすすめ
当院では、予約を取ったと同時に、患者さんに問診票を記載する依頼が送付されます。現在当院では9割以上の患者さんが、来院前に問診に回答いただいています。事前に問診票で患者さんの病状をある程度把握することが可能で、検査の準備も整えておくことが可能です。また書類の依頼などがあれば、事前に可能な限り準備を整えておくことで、可能な限り待ち時間を短縮することが可能です。
デジタルのメリットはいくつかありますので以下に記載してみます。
メリット① 来院前に記載可能
デジタル問診票であれば、来院する前に記載して送っていただくことが可能です。これは最大のメリットであると思います。
患者さんとしても、来院してから、わざわざ紙に手書きする手間がありません。具合が悪いのに、住所や電話番号を手書きするのはかなり負担になります。今の時代手書きよりもスマホでの入力の方が楽と考える人は多いでしょう。また来院してから書いている間は確実に待たされます。事前に書いてしまえば、患者さんの在院時間も確実に短縮できます。
医療者サイドとしても、来院前にある程度病状を把握しておけるのは、検査の準備もできますし、ある程度病状を予測できると、患者さんに問診する内容や診察内容を、頭の中で組み立てておくことができます。これは診察精度を上げることにも繋がります。患者さんに相対した時に初めて聞いた情報で診断を組み立てるよりも、ある程度事前に診断が組み立てられた状況で、必要なものを足したり、不要なものを引いたりするほうが、頭のメモリを節約することが可能で、より重要なことにリソースを割くことが可能なためです。もちろん先入観にとらわれる危険はありますが、実感としては、メリットのほうが圧倒的に大きいと感じています。特に自分の専門分野でないことは、『今日の診療』にさっと目を通すだけでも、診察精度は向上すると思います。
メリット② 接触のリスク軽減
特にCOVID-19移行ですが、患者さんは感染リスクを非常に気にするようになりました。患者さんは可能な限り医療機関のものには触れたくありません。紙で記載する場合は、ボールペンなどを貸し出すことになりますが、こういうものに抵抗がある方というのが、意外なほどに多いです。接触を可能な限り避けるという意味でもデジタルは非常に有用です。
メリット③ コストカット(お金だけでなく、手間、時間も)
こんなことにまでコストカットに躍起になっているのかと思われるかもしれませんが、ボールペンや紙、台紙の用意にもコストがかかります。また意外に見過ごせないのが、お金だけでなく、時間のコスト、場所のコストです。問診票を印刷して、台紙にセットして、患者さんが使用する毎に消毒することには、時間と手間のコストが生じます。こういうのは積み重なると意外に馬鹿にできない時間になります。また備品を保存する場所代もタダではありません。規模が小さいクリニックでは、可能な限り軽装、ミニマム化を心がけないと、あっという間にモノで溢れてしまいます。
実をいいますと、当院も開院当初はどうなるか読めなかったので、紙の問診票を用意していました。上記のように手間がかかること、途中でホームページからの完全予約制に移行したことに伴い、現在は紙の問診票は完全に廃止しています。場所も空いてスッキリしました。
複雑な問診票は、回答してもらえない可能性が高い
問診票は情報が多いほど、こちらは得られる情報が多くなりますが、項目が多くなればなるほど、回答率は下がります。問診票は多くの電子カルテの会社も提供していますが、かなり差があります。シンプルなものから、選んだ項目によって、分岐を作成出来るような、かなり作り込めるものもあります。
私はM3 DigiKarとセットで、m3社が提供する、デジスマ診療の問診票を使用しています。この問診票は、良くも悪くもシンプルです。条件分岐を設定することも記事作成時点ではできず、作り込むことには限界があります。
しかし私は、このシンプルさが逆に良いと思っています。具合が悪い状態で、複雑な問診票に回答してくれる患者さんの方が少ないです。デジスマはシンプルなので、動きも軽く、初めて見た患者さんでも、わかりやすい仕様になっています。このことが、回答率の高さに繋がっているのだと考えています。問診は敢えて、必要最小限にとどめ、診察での問診で必要なところは補うことで運用をしています。ちなみにデジスマでは、アレルギー歴など、変わらない可能性が高いものは、2回目以降は自動入力に出来る仕様もあります。
実際私が、他のクリニックに受診した際、他社の問診票に回答したことがあるのですが、とにかく質問数や分岐が多く、かなり大変に感じました。これは本当に必要なのだろうか?という項目まであると、かなり面倒に感じます。また細かいことですが、サーバーのローディングが重いとそれだけで回答の意欲が削がれます。
しかしこれは運用するクリニックの形態にもよると思います。事前に入念な情報収集が必要なセカンドオピニオン外来や、分岐条件を設定しなければ、適切な問診が難しい診療科もあると思います。
これも私が経験したことですが、家族の婦人科に受診に同行した際に問診システムをみたのですが、電子カルテはM3 DigiKarを使用していながら、問診システムは他社のものを使用していました。たしかにこちらの婦人科では、分岐の設定があった方が良いように思われ、デジスマでは限界があったかもしれません。分岐を設定しないと、患者さんによっては、全く関係ない質問も表示されてしまうためです。
実際の運用
当院では、一般外来用と発熱外来用でそれぞれ、初診、再診に分けて、合計4種類の問診票を準備しています。初診では、住所、電話番号なども入力項目を設けていますが、再診では、質問内容は最小限にとどめています。
一般外来の問診票は、本当にごくシンプルですが、発熱外来の問診票は少し工夫しています。発症日時、最高体温、コロナ・インフル患者との接触歴なども組み込むことで、問診を受けた時点である程度検査の予測を立てています。たとえば、受診前日から高熱があり、家族にインフル患者がいる場合は、かなりの確率でインフルエンザに罹患している可能性が高く、インフルエンザ抗原検査を用意して患者さんをお迎えすることができます。また混雑している際は、待合室で事前に検体を採取しておくことも可能です。
最近追加したのは、COVID-19の検査希望の有無、という項目も入れました。COVID-19も以前よりは神経質にならなくなってきており、抗ウイルス薬も高額であることから、患者さんによっては、行動変容が変わらないのであれば、検査せずに対症療法薬のみ欲しいという方もいらっしゃいます。
検査希望の方は最初に検体採取して、診察、問診の間に検査がでるのを待つことができますし、検査を希望されない方や、既にセルフチェックで陽性を確認しているような方には、診察など他の項目にリソースを割くことができます。
今までは検査を行うかについて、医学的な適応以外にも、患者さんが求めているかどうかを話の中で探る必要がありましたが、事前に把握できることで、余計な駆け引きが要らなくなった分、こちらも楽になりました。こういう精神的なリソースの節約も開業医には大切です。
またデジスマでの問診票は、患者さんが回答してくれた瞬間に電子カルテにも反映され、カルテ引用もワンクリックで可能です。コピー&ペーストすら不要で、時短に役立っています。電子カルテの運用では、ワンクリックでも動きを減らすことがポイントです。
まずはGoogleフォームでお試しもよいと思います
現在は紙の問診票を用いている先生が、電子化された問診票を試したい場合、まずは、Googleフォームのご利用をオススメします。こちらは完全に無料で使用できます。設定も最初がやや面倒ですが、慣れてしまえば簡単です。こちらは無料ですが分岐条件の設定も可能です。医療機関に限らず多くの企業でも使用されています。
工夫としては、敷居を下げるために、QRコードと連携することをオススメします。こちらの設定方法はやや長くなるので、別記事で取り上げる予定です。
もしGoogleフォームで試してみて、先生が気に入れば本格的に導入をする方向でもよいと思います。問診票は、やはり予約システムとセットになっている方がスムーズですし、また電子カルテとの連携ができる方がよいかと思います。