開業すると、自院だけでは対応できない患者さんを病院へ紹介したり、さまざまな加算の関係で地域の医療機関と連携したりする機会が出てきます。もともと近隣の大きな病院に勤務していて、その地域で開業するのであれば、それほど困ることはないかもしれません。一方で、私のようないわゆる「落下傘開業」の場合には、周辺の医療機関との関係を一から作っていく必要があります。

私自身、開業当初はとにかく忙しく、そこまで手が回りませんでした。また、ちょうどコロナ禍でもあり、人と直接会う機会自体がかなり減っていました。そのため、開業して少し落ち着いてから、連携医療機関との関係を少しずつ作っていきました。今回は、その中で実際に感じたことについてご紹介してみようと思います。

メインとなる連携医療機関を一つ決めておく

私の場合は、まず一番近い市民病院に連携医療機関としての登録をお願いしました。現在は病院のホームページを調べると、地域の診療所との連携方法や登録医制度などについて案内されていることが多いため、それに沿って問い合わせをしました。「近隣で新しく開業したので、連携をお願いしたい」という形で相談すれば、比較的スムーズに進むのではないかと思います。

個人的には、こうした地域の中核病院の中から、メインとなる連携先を一つ決めておくと実務上かなり楽だと感じています。例えば感染対策に関連する加算やサーベイランス、研修会など、診療報酬の算定にあたって地域の病院との連携が必要になるものがあります。こうしたものを、それぞれ別の病院と行うことももちろん可能ですが、「この加算はA病院、この協定はB病院、この研修はC病院」となってくると、管理がだんだん複雑になります。

そのため、私は一つ拠点となる病院を決めて、加算や研修会などの連携については、できるだけそこでまとめていく方が分かりやすいのではないかと思っています。地域には中核となる病院があると思いますので、まずはそこを一つ押さえておく、という考え方です。

また、舌下免疫療法などを行う場合にも、アナフィラキシーなどが起きた際に対応をお願いできる医療機関との連携が必要になります。今後こうした治療を行う可能性がある先生であれば、その意味でも連携できる病院を確保しておくとよいと思います。

紹介できる病院は複数知っておいた方がよい

一方で、「メインの連携医療機関を一つ決める」ということと、「患者さんの紹介先を一つに絞る」ということは別だと思っています。

これは開業する地域にもよりますが、二次・三次医療を担う比較的大きな医療機関が周辺に複数あるのであれば、それぞれの特徴をある程度把握しておいた方がよいと思います。何かあったときに相談できる病院が一つしかないと、その病院の診療体制や病床の状況などによって受け入れてもらえず、紹介先に困ってしまうことがあります。そのため、紹介先についてはある程度選択肢を広く持っておいた方が安心です。

実際、複数の病院と連携医療機関として登録している先生も少なくないと思いますし、それも一つの方法です。ただ、私自身は、制度上の連携や加算、研修などについてはメインとなる病院を一つ決めておく方が、実務上は分かりやすいと感じています。そのうえで、実際の患者さんの紹介先については一つに限定せず、周辺の複数の病院の特徴を把握しておく、という形がよいのではないかと思います。

実際に病院へ行ってみると分かることがある

そして、開業してから意外にやってみてよかったと思ったのが、病院が開催している研修会などに実際に参加してみることです。

現在はオンラインの研修会もかなり増えていますし、私自身もオンラインで参加することが多くなりました。ただ、年に数回でも実際に病院へ行ってみると、オンラインだけでは分からなかったことが見えてきます。特に地域連携室の方や、実際に診療している先生と話す機会があると、「当院はこういう疾患は得意なので、ぜひ紹介してください」「逆に、この領域については他院の方が対応しやすいかもしれません」といった、ホームページだけではなかなか分からない話を聞けることがあります。

こうした情報が分かると、患者さんを紹介するときの判断がかなりしやすくなります。単に「大きな病院だから紹介する」のではなく、「この病院なら、この患者さんについて相談しやすそうだ」という感覚が持てるようになります。

私自身、開業してしばらくは忙しかったこともあり、外部の研修会などにはあまり参加してきませんでした。しかし、昨年、ひょんなきっかけからある病院の研修会に参加する機会があり、そこから病院の先生や地域連携室の方と実際に話をすることができました。結果として、思っていた以上に得られるものが多かったと感じています。

一度顔を合わせるだけでも紹介の敷居が下がる

さらに感じたのは、一度でも顔を合わせて話をしていると、その後の紹介のしやすさがかなり違うということです。私はもともと、いわゆる懇親会のようなものに積極的に参加するタイプではありません。ただ、そのときは試しに研修会後の懇親会にも一度参加してみました。本当にそれだけなのですが、その後は「この病院なら、こういう患者さんについて相談してみようかな」と思えることが増えました。

もちろん、顔見知りだから患者さんを受けてもらえるという単純な話ではありません。ただ、相手がどういう診療をしているのかが分かり、向こうにも自分がどういうクリニックをやっているのかを知ってもらうことで、お互いに相談しやすくなる部分はあると思います。

オンラインで多くのことが完結する時代になり、研修会についてもオンラインで十分という場面は多くなりました。それでも、地域医療という意味では、実際に一度会って話してみることには、思っていた以上の意味があるのだと感じました。

落下傘開業だからこそ、少しずつ関係を作っていく

もともと地域の病院で勤務していた先生であれば、すでに知っている先生や紹介先があり、自然に連携できることも多いと思います。一方、私のような落下傘開業では、そうした関係がほぼないところから始まります。

だからといって、開業直後から無理にあちこちへ挨拶に行く必要もないと思います。私自身、開業当初はそこまで余裕がありませんでした。まずは診療を安定させ、少し落ち着いてからメインとなる連携医療機関を決め、必要な研修会などに参加しながら、少しずつ周辺の医療機関を知っていくという形でも十分ではないでしょうか。

また、開業医になると、勤務医時代に比べて医療者同士で直接話す機会がどうしても減ってしまいます。基本的には自分が院長であり、一人で判断する場面も増えるため、思っている以上に孤独になりやすいところがあります。研修会などへの参加は、単に紹介先を作るという実務的な意味だけではなく、地域の医師や医療スタッフとのつながりを持つという意味でもよかったと感じています。

私自身、実際に参加したのは研修会と、その後の懇親会くらいですが、それだけでも紹介するときの心理的な敷居はかなり下がりました。オンラインで済ませられるものはオンラインでよいと思いますが、ときどき実際に顔を合わせる機会を持つ。落下傘開業で周囲とのつながりがないところから始めた私にとっては、こうした地域の医療機関との関係づくりも、開業後に少しずつやっておいてよかったことの一つです。