前回、Google Chromのスプレッドシートを利用することで、固定費を日常的に把握して、リアルタイムでコストを計算する方法をご紹介しました。こちらの方法は固定費の把握だけに留めることはもったいないく、他にも収益のまとめ、一日ごとの売上目標、抗原検査キットの在庫把握、一日のやることのチェックリストなどにも応用できます。当院におけるスプレッドシートの運用方法についてご紹介します。
固定費だけでなく、経営状況を把握
スプレッドシートは表計算ソフトで、簡単に言えばGoogle Chromeのブラウザ上で使用可能なエクセルのようなイメージです。Google Chrome上で使用可能なので、設定をすればブラウザを立ち上げる毎にスプレッドシートも自動で起動することができます。前回はこの手軽さを応用して、日々の固定費を常に把握する考えをご紹介しました。またクラウドで編集すると他のPCでもすぐに同期されるので、複数のPCをお使いの場合も便利です。しかも無料で使えるので非常にオススメです。
スプレッドシートで把握していること
私は、クリニック経営用のスプレッドシートで、日々の診療における収益、抗原検査・血液検査のコスト、粗利、利益率、一日患者数、患者単価などを計算しています。
また年間目標の収益を設定し、そこから年間診療日数で割ることで、一日の目標額を計算し、実際の収益から、年間目標のための売上目標なども、毎日更新されて、把握できるようにしています。正直どこまでが必要かは考えによっても異なると思いますが、最初は最低限の事柄の把握からでもよいと思います。
私も最初は一日の収益から始めて、徐々に必要なものを追加していきました。
抗原検査キットの院内在庫
以前は抗原検査キットも定期的に数を数えることで在庫を把握していましたが、効率の悪さを感じていました。そこでスプレッドシートを応用することを思いついたところ、在庫がリアルタイムで把握できるので、結構便利です。外出先からも検査キット数を把握できるので、時間があるときにスキマ時間を使って発注業務もできます。またその月の平均を出して、その月の診療日数をかけて計算すると、その月での抗原キットの使用数がおおよそ想定できます。それを在庫と比較して発注することで、抗原キットの在庫切れを防ぐことができます。今まではなんとなく、感覚で仕入れを行っていましたが、客観的な数字で把握できると、かなりやりやすくなります。
チェックボックスを上手に利用
スプレッドシートを効率よく運用するコツは、チェックボックスを使うことです。チェックボックスでチェックしている数をカウントするには、countifという関数を使うと簡単にできます。たとえば抗原キットの在庫を管理する場合は、当日使ったキットの数をカウントするセルを用意し、前日までの在庫数を記載しているセルから引けば、その日にどれだけ在庫があるかを簡単に把握できます。
ちなみにmacではチェックボックスを選択して、スペースキーを押すと一気に選択、選択解除ができます。
チェックを入れると線を引いて、色を変える方法
一日に行うことリストもスプレッドシートで管理すると便利です。その場合もチェックボックスを使用しますが、この場合は、チェックした項目について、線を入れて色が変わるように設定すると更に見やすくなります。具体的には、このような形です。
私が診療後に行っていることを一部抜粋してみました。このように、チェックすると、線を入れて、色が変わり、行った項目がひと目でわかるので非常に便利です。
こちらの具体的な方法は、こちらの方が非常に分かりやすく解説してくれていますので、リンクを張っておきます。
スプレッドシートは経営管理にかなりオススメ
実は私がスプレッドシートを使い始めたのは、開院して2年近く経ってからです。特にこれを使ったから、経営状態がすぐに改善するというわけではありませんが、客観的に収益や患者数、コスト、患者単価などを把握できると、漠然とした不安からは開放されます。いままではなんとなく、感覚的に売上が落ちていることや、患者数をみている割に収益が増えないなど、悩むことがありましたが、これにより、もやもやした不安が一部クリアになりました。
また固定費を把握して、最低限これくらい稼げれば固定費は払える、赤字にはならないという数字がわかると、それだけでもかなり精神的な負担が軽減されます。これは特に閑散期は心の支えになります。
スプレッドシートを使い始めたきっかけ
実は開院してしばらくは、日本がコロナで大混乱していたこと、感染症診療の診療報酬が優遇されていたこともあり、当初予想していたほど収益には困らず、むしろ混乱する世の中や、診療環境などに気を取られていたため、多少どんぶり勘定でもなんとかなってしまいました。しかし感染症の診療報酬が平時に戻り始めると、収益が徐々に厳しくなってきました。世の中の混乱も収束し始めて、診療時間中も手が開くことも少なくなく、今後の見通しの暗さから、非常に不安に襲われます。
そんな時に、そういえば固定費を最初計算していたけれど、しばらく見ていないということを思い出しました。久しぶりにみてみると、結構最初と変わっている項目があります。あまり使わないので解約したサービス、新規に契約したサービス、同じサービスでも値上がりしたものもありました。
そこで、その時点での固定費を新たにアップデートして、計算し直し、そして診療日数も計算して、「一日あたりいくら稼げばよいのか?」を計算してみることにしました。計算してみると、当初私が予想していたほどは、経営が厳しくなっていないことに気が付きました。これであれば、なんとか当分はもちそうという見通しができました。このとき漠然とした不安があるときは、可能な限り、具体的な数字で落とし込んでみると不安が解消されることを、頭でなんとなく知識としてあったものが、実感をともなって理解できました。これは有効だと。
その後、上述のように、一日の収益を記載して、それまでの年間診療日数から、一日平均でいくら売り上げているのかを計算したり、年間目標売上を設定して、残りの診療日数から、一日平均でどれだけ売上が必要かなども計算し、徐々に経営管理に必要と思われる項目を増やしていきました。項目については今でも定期的に見直しています。Google Chrome起動時に自動的に立ち上がる設定も行い、毎日目に入るように工夫したのもこの頃です。
特に抗原キット、血液検査のコストを計算し、粗利を計算するのは有効です。これを行うと、利益率を計算できます。少し話がズレますが、当院のような小規模な形態であれば、措置法第26条という、いわゆる開業医の優遇税制が利用可能です。(参考記事→措置法第26条の利用)そしてこちらを最大限有効活用するには、可能な限り経費を抑えることが最大のポイントになります。検査を乱発して経費がかさんでしまうと、収益は見かけ上増えても、手元に残るお金が少なくなってしまうことがあります。
私は、当院の診療において、検査コストの経費が、収益の1割以下になることを目標としています。つまり固定費は除いてですが、収益の90%以上が利益になるようなことを目指しています。これもスプレッドシートで計算すると一目瞭然です。その日ごとの利益率、月平均の利益率も常に目に入り、意識するようになります。
スプレッドシートでわからないことはGoogleで検索で結構出てくる
実は私はそれまでスプレッドシートを使ったことがほとんどありませんでした。そのため知識としては完全に素人です。解説書を読んで勉強する方法もありますが、多くの先生にはそんな時間はないと思いますし、スプレッドシートは使いこなせるのが目的ではなくて、経営判断の材料とするのが目的です。無料ですし、失敗しても何も問題にならないので、とにかく触ってみることをおすすめします。
スプレッドシートについては、操作で不明な点があれば、Googleで検索すればおおむね解決できます。おそらく本で調べるより早く答えにたどり着けますし、何より手軽です。別タブを開いて検索すればいいだけですから。本を開いて調べようと思うと、忙しかったり、手元にないと後回しになってしまい、結局使わなくなる可能性が高いです。とにかくサクッと検索して調べるのがオススメです。本を読む場合も、ある程度使えるようになってから、薄めの解説書をサッとよんだほうが、早く読めると思いますし、知識のムラも整理できます。真面目な先生は解説書をしっかり読んでから使いたいかもしれませんが、道具と割り切って厳密に使おうとせずに、とにかくやってみて、実践してみる方が早いと思います。今はYouTubeの解説動画なども有効です。有用なものも多いです。
まとめ
もし経営について、漠然とした不安を抱えている先生、固定費や経費がどのようになっているか、把握できずに不安を抱えている先生は、とりあえずスプレッドシートに落とし込んで計算してみることをおすすめします。一度確立してしまえば、後は数字を入れるだけで経営状態が把握できますし、一日あたり〇〇円、経費がかかっているということが分かれば、現実的な売上目標を設定したり、経営戦略を立てることができます。また閑散期にも最低これだけ稼げば赤字にならないという金額が分かっていると安心できます。何より無料で手軽なこともあり、多くの先生にとってオススメできると思います。