以前は開業医といえば、レントゲン、エコーなどは当然として、地方ではCTも導入する先生も珍しくなかったと思います。今でも地方で、建物ごと新しく建てて、開業する先生は重装備で開業する先生も多いでしょう。実際かなり立派な設備や検査機器を揃えた新規開業クリニックも多く目にします。
しかしそのためには、当然ですが多くの借金をする必要があり、また大きなリスクも背負うことになります。患者さんがあふれるクリニックになれば、全く問題ないでしょうが、それはやってみないことには分からないのが、怖いところです。
私は、大きな借金を背負って、大きな規模で開業する自信が全くありませんでした。そのため、最低限の機器、最低限の装備で戦うことを決意し、開業に至りました。いわゆるミニマム開業という形態です。今回はミニマム開業についてご紹介していきます。
開業費を極力抑える
以前から、精神科では特に検査機器はいれず、コストを抑えて開業する形態はあったようです。しかし内科では、レントゲンがないというのは、結構珍しいと思います。コストを抑える目的もありましたが、私自身がレントゲン単独で使うことがあまりなく、CTがすぐとれる病院に長年勤めていたため、果たしてどれだけ使うかとよく考えた結果、不要なのではないかと考えました。またテナントの面積が狭いので、レントゲンを入れてしまうとかなり手狭になってしまうという事情もありました。開院当初は患者さんから驚かれることもありましたが、その後あまり困ることはありません。
しかしそれでも、内装費、パソコン、諸々の備品を入れると2千万円以上はかかります。特に内装費は高くつきました。今考えるともっと安くする方法もあったと思います。内装自体は結構気に入っていますが、コストがかかってしまいました。
自動精算機は敢えて導入
コストを抑えることを意識しましたが、敢えて自動精算機は導入に踏み切りました。これはお金の管理がラクになることと、人件費を抑えることで、元がとれると考えたからです。医療機関向けの商品はいくつかありますが、私はカワニシパークメドのテマサックproスタンドタイプを使用しています。スーパーにある自動精算機と使い方が似ているので、操作が簡単で使いやすく、患者さんにもご好評いただいています。
CT、MRIをは画像診断専門クリニックに依頼もできる
CTを取りたいけど、高次医療機関に送るほどでもという患者さんも中には見えると思います。そのような場合、都心では、メディカルスキャニングという、画像診断を専門で行ってくれるクリニックがあります。こちらのような画像診断に特化したクリニックに依頼するのも一つの手と思います。当院も定期的に紹介させて頂いておりますが、レスも早く、専門医による読影レポも詳しいので助かっています。
この形態では、収益に上限がある
ミニマム開業では、テナント料も抑えるために、クリニックはどうしても手狭になります。高額な検査もできませんし、診察も先生一人体制ですから、どう頑張っても、診れる患者数に上限があり、必然的に収益には限界があります。収益的にものすごい大成功というのは、構造上起こりえないものになります。ある意味夢がないスタイルと言えるかもしれません。
大怪我はしないが、怪我はしうる
このスタイルで、たとえ失敗して撤退することになっても、借金は数千万円で済むと言えば済みます。なんとか勤務医の仕事をすれば、返済不可能ではないかと思います。重装開業で億単位の借金を背負って失敗してしまうと、さすがに再起不能のダメージを負うことになり、これに比べれば確かにマシとはいえますが、やはり数千万円の借金を背負っての撤退は、極めて大きいダメージです。絶対に避けたい事態と言えます。
先生がある程度マルチプレイヤーである必要がある
ミニマム開業では、従業員もミニマムにすることで、固定費を削減する必要があります。通常の内科クリニックでは、比較的小さい規模でも先生1名と看護師1名、事務スタッフ2名ほどの規模でスタートすることが多いです。しかしクリニック運営の経費、固定費で最もコストがかかるのは人件費です。実はスタッフを採用するには、募集をかけたり、採用後に教育をしたり、その後辞めてしまったりと、給与以外にも多大なお金、時間、労力がかかります。
そのためこのスタイルでは、通常のように、レセプト対応をする専属の事務スタッフを雇うことは難しいです。そのため先生ご自身がレセプトも出来るようになる必要があります。そのように書くと結構面倒に思いますが、実は外来に絞れば使う内容は限られ、ほぼワンパターンで対応出来るので、慣れてしまえばそこまで負担になるこはないかと思います。また今は電子カルテの支援機能が充実してきているので、自動算定も完璧ではないにしろ、かなり使えるようになっています。
レセプトだけでなく、備品の在庫把握、発注、はたまた掃除など、なんでも先生ご自身で行う必要があります。医者としての仕事をする時間の方が少ないかもしれません。細かい仕事も積み重なると結構時間をとられるので、大変です。
会計知識も必要
会計については、内容が多いのでまた別の記事に記載しようかと思いますが、クリニックを運営し、経営者になる以上は、ある程度の知識は必要です。決算などは税理士さんにお願いするとしても、ご自身でもある程度の知識は必要になります。具体的には日商簿記3級レベルの知識が必要です。日々の仕分けは先生ご自身で出来るレベルになる必要があります。
しかしこれも、若干面倒なだけで難しくはありません。簿記3級は集中すれば1ヶ月もあればマスターできます。知識的な量などはあまり多くないので、医者であれば難しくない内容ですが、まったく畑違いの分野なので、最初慣れるまでが少々面倒かもしれません。今はいい教材も出てきてるので、少し勉強すればすぐ慣れてマスターできるので大丈夫です。わたしはYouTubeのふくしままさゆき先生の講義を中心にいくつか入門書と問題集を買って勉強しました。クレアールという教材も評判が良いようです。
自分のやりたいことはできる
ミニマムの開業スタイルでは、比較的先生が自由に診療スタイルを選ぶことが出来ます。固定費を賄うためにハードワークする必要はなく、スタッフも少人数であれば、休みも調整しやすいです。開業医は自由なようで、意外も自由がないという声も聞きます。たしかに他のスタッフの勤務があるのに、先生が急に休むわけにもいかないでしょう。経営が安定すればですが、ワークライフバランスを重視した働き方も可能です。極端な話、固定費と生活費が賄えれば、午前診療だけということも可能と思います。