一般的にクリニックの開業はお金がかかります。他の業種に比べても医者は足元を見られがちで、何かとコストが膨らみがちです。近年でも土地を買って、建物を新築して、CTなど検査機器も豊富に入れて行う開業も珍しくありませんが、やはり多額の資金がかかります。ビル診療での開業でも、医療モールなどで、ある程度検査機器も揃えて開業する場合は、数千万円では賄えないケースもあるでしょう。今回は重装開業について考えていこうと思います。
避けたいのは、コンサルさんが入って、いつの間にか重装開業になること
まずこのページで一番申し上げたいことは、開業コンサルタントさんに入ってもらっている場合、いつの間にか、先生の意図しないうちに重装開業になってしまうことです。コンサルの利益構造を考えると、どうしても重装開業に傾きがちです。検査機器や内装が高額になるほど、一般的にはコンサルさんの懐が潤うようになっているため、向こうも商売ですからある程度やむを得ないと思います。特にコンサル料が無料と銘打っている場合は、検査機器や内装の形をとって、かならずどこかで先生が負担しています。タダでコンサルさんの商売が成立するはずがありません。タダより高いものはないということでしょう。
もちろんご自身で納得した上で、事前にしっかり戦略を立てて、十分勝算がある場合は、お金をかけて開業することもアリだと思います。私が注意喚起をさせて頂きたいことは、先生がそんなつもりもないのに、周りの人達に担がれて多額の借金や、大きなリスクを背負ってしまうことです。これについては十分ご注意頂ければと思います。
私の経験
私は当初から最小限の設備、資金で開業を計画したものの、それでも最終的には想定以上にコストが大きく膨らんでしまいました。正直言って、当初の予定の倍近くかかりました。一番コストが掛かったのは内装です。設計業者とやり取りをするうちに気づくと経費は1.5倍ほどになっていました。内装は気に入ってはいるものの、しかし今振り返るともっと削れたと思います。最終的に坪単価としては、70万円近くと、かなり高額になってしまいました。ミニマム開業とはいえ、最終的には内装が1400万円近くかかり、自動精算機、パソコン、細かい備品を含めると2000万円以上のコストがかかってしまいました
開業前には様々な本を読んで、ネットでも調べて、低コスト開業については、『200万円からはじめるクリニック開業』という本も読んで勉強もしましたが、実際にやってみると思いのほか、経費がかさんでしまいました。先生も開業される場合は、当初の想定よりもお金がかかると思います。
だんだん金銭感覚がおかしくなってくる
一般的にクリニック開業では少なくとも1000万円ほど、標準的にも数千万円で、郊外に土地を買って建物を立てる場合では億単位のお金が動くことも普通です。最初はお金の規模に驚きますが、数千万円規模のお金のやり取りをしていると、だんだん金銭感覚がおかしくなってきます。数百万円の契約では、そこまで動揺しなくなってきますが、これはかなり危険な状態です。私には経験がありませんが、これはマイホームを建てるときの状況と似ていると思います。普段は数百円の値上げも気にする人でも、家を建てるときは、だんだん感覚がおかしくなり、数十万円のオプションの判断をよく考えずにしてしまうのと同じです。
しかし開業後に借りたお金を返すのは他ならぬ先生です。開業後に先生が稼いで返済しなければなりません。開業すると固定費などは厳しくチェックします。仕入れも厳しくチェックして少し安い業者から購入するようになります。もっとも大きくお金が動くのは開業時です。開業後に、開業時の判断を悔いることのないようにして欲しいと思います。
開業させ屋さんを信用しきってはいけない
開業コンサルタントの中には、クリニックの開業コンサルタントというより、「クリニック開業させ屋さん」に近い形態もあると聞きます。開業コンサルタントとしては、最も儲かるのは高額のお金が動く、開業時であり、そのあとのことは知らない、、というケースもあるそうです。極端な話、先生が開業さえしてくれれば、経営がうまく行かなくても、倒産しても後のことは知らない、、というようなスタンスの場合もあると聞きます。要するに自分や、自分の会社が潤うことが最優先で、先生の開業の成功や、先生の人生は二の次であるということです。
このように書くと随分ひどい話のように思えますが、これは資本主義の世の中で、開業コンサルタントも商売である以上、私はある程度仕方ないと思います。むしろ医師側もそのあたりの事情や、相手の利益構造を把握して、しっかりと対策を立てる必要があると考えられます。
銀行、コンサルさんのために、先生は何年借金を返すのか
開業時に借りたお金を返すのは、他ならぬ先生です。開業後の立ち上がりや、経営状況に関わらず、借入金の返済は、毎月確実に先生にのしかかってきます。閑散期の月は正直かなりきついです。また借入金の返済は、一般的に10年、20年の単位になることが多いと思います。今後、保険診療が縮小し、日本が先進国としても斜陽化し、少子高齢化、医療費増大の問題で、医療業界は厳しい未来しか予見できないような状況で、果たして10年後、20年後も借入金を同じように返済できるかという問題もあります。特にAIが台頭する現在は、診療形態を含めて、本当に10年後の未来もまったく読めないような状況になりつつあります。このような先行きが不透明な時代に多額の借金を背負うリスクは高いと思います。
多額の借金を背負った場合、開業後に撤退は致命傷になる
開業は起業です。起業は上手くいくとは限らず、失敗することもあります。他の業種に比べれば比較的成功率の高い診療所の開業でも、成功するとは限りません。そしてその失敗は先生のキャリア、人生にとって致命的なダメージとなる可能性もあります。
たとえば一千万円の開業費で小さく開業した場合は、最悪失敗しても、医師免許があれば、数年働けば返済することが可能です。もちろん数年という時間は帰ってきませんが、借金を返済すれば信用を回復し、再チャレンジも、人生を再建することも十分可能だと思います。これは給与が高い医師の強みであると思います。他の業種ではなかなかこうはいきません。
しかしながら、数億の借入金を調達して、開業に失敗して撤退することになった場合、いくら高給の医師といえど、返済することは非常に困難です。自己破産も現実的ですが、場合によっては自己破産もできず、一生働き続けて借金を返済するだけの人生になってしまうというのが、最悪のシナリオです。こんなことになるならば、開業などしない方がよっぽど幸せな人生だったでしょう。開業したことでその後の人生が不幸になるような事態だけは、絶対に避けてほしい!、それが当サイトの管理人の一番の願いで、当サイトで最もお伝えしたいことです。