普段は「開業はリスクが高い」という注意喚起系の話が多いですが、もちろんメリットがあるからこそ多くの先生方が挑戦されるわけです。
私自身も開業してみて、実際に感じたメリットがいくつかあります。今回は、その実体験を交えて整理してみたいと思います。

資金的なメリット

やっぱり多くの先生がイメージされるのは「経済的なメリット」だと思います。勤務医よりも開業医の方がお金を持っている、というイメージは非常に強いですよね。これはある意味で正しい部分もあると、私自身も思います。

もちろん成功すれば、勤務医よりも経済的には開業した方が有利になる可能性は十分にあります。ただし逆も然りで、勤務医のままでいればそれなりに安定した生活ができたはずなのに、開業したばかりに大きな借金を背負って経済的に困窮してしまうケースも現実にはあります。

成功すれば、そのリターンは確かに大きいです。いや、大成功までいかなくても「成功の範疇」に入れば、それでも十分に大きなものだと私は思います。ポイントは「戦略次第」だということです。

例えば、診療所の年間売上が1億円あったとしても、経費が1億円かかってしまえば全く意味がありませんよね。極端な話ですが、これではゼロです。

一方で、売上が5,000万円でも、しっかりと戦略を立てて経費を抑えられれば話は違ってきます。特に保険診療を中心にしてコストを徹底的に管理すれば、今の法律では「措置法第26条」という優遇制度を使うことができ、みなし経費を計上できるので、実際に手元に残るお金は数字以上に多くなる可能性があります。

生活水準はそこそこで勤務医時代を踏襲し、無理に上げない方が強いと思います。その上で、勤務医時代との差額を愚直にインデックスファンドに積み立てたり、高配当ETFに投資したりしていけば、10年も続ければ相当な資産を築けるのではないでしょうか。

以前、作家の橘玲さんが「成功した自営業は急速に富を蓄える」と本に書いていたことがありましたが、まさにその通りだと思います。独立して成功すれば、本当に急速にお金が手元に残っていく。これは現実的にありえることです。

また、措置法第26条を使わなかったとしても、「経費を自分でコントロールできる」というのは開業の大きな強みです。勤務医では税引き後のお金から必要経費を捻出しなければなりませんが、開業すれば税引き前のお金を経費として使えます。例えば医学書の購入や、パソコンなどの必要な備品は当然経費になります。税引き後のお金から払うのではなく、税引き前の段階で差し引けることで、結果的に「先生が使えるお金」がより多くなるのです。

つまり「自分の判断で自由に使えるお金が増える」というのは、開業する大きなメリットのひとつだと思います。

給与所得で金持ちになるのは実は難しい

一般論として、お金の話になりますが「給与所得だけでお金持ちになる」というのは、やはり難しいとされています。ではどうするかというと、大きく分けて「独立して自分の事業を持つ」か「投資で成功する」か、この2つが現実的な道筋だと思います。

医師の場合は、給与水準そのものが比較的安定して高いという特徴があります。そのため非常勤勤務をうまく組み合わせるなどの戦略をとれば、必ずしも独立開業をしなくても、一定の資産形成は十分に可能です。勤務医のままでも、堅実に資産を築いていく方法はいくらでもあるのです。

ただし、それでもやはり「独立して診療所を開業し、大きく育て、成功する」ことができれば、経済的自由に近づくスピードは圧倒的に早いと言えます。勤務医として堅実に積み上げるのと比べて、成功した開業医は一気に資産を形成するチャンスを掴むことができるからです。

ですから、医師の場合に限って言えば「開業が必須」というわけでは決してありません。勤務医でも十分に資産形成は可能です。ただし、開業という道を選んでうまくいけば、一気に経済的自由へと近づける――その可能性があるのもまた事実だと思います。

時間的なメリット

開業してみて私が一番強く感じるメリットは「時間の融通が利く」という点です。これは本当に大きいと思います。

例えば、診療所は午前が12時まで、午後は15時からという形が多いですよね。つまり昼休みに3時間近くの時間が取れる。もちろん事務作業や雑務が入ることもありますが、それでも2時間ほどは自宅に戻ることができるのです。その間に小さな子どもの顔を見たり、一緒に食事をしたりする時間を持てる。これが、私にとって「開業してよかった」と心から思える瞬間です。

勤務医のときは、たとえ家が近くても昼休みに自宅に戻るなんて現実的には不可能でした。朝は早く、帰宅は夜遅く。さらに当直や日直、休日の学会や研修などで、家族と過ごす時間はほとんどない。これが勤務医の現実です。だからこそ晩年に「あのときもっと家族と時間を過ごしておけばよかった」と後悔する先生の話をよく耳にします。お金は残っても、家族との思い出がない。あるいは働きすぎて体を壊してしまい、「自分は何のために働いてきたのだろう」と振り返る先生もいらっしゃいます。

私自身、開業準備や経営の苦労で本当に大変な思いもしています。正直、「もう二度とやりたくない」と思うことだってあります。それでも、独立して得られた家族との時間、小さな子どもと一緒に過ごせた時間だけは、何にも代えがたい財産です。これは私の人生の中で「一番良かった時間」だと思っています。

経営がうまくいかない時期があっても、この点だけは「開業して成功だった」と胸を張って言える――それくらい大きなメリットだと思っています。

休みの日を自由に決められるメリット

休みの日を自分で自由に決められるというのは、開業の大きなメリットのひとつです。
私の場合はミニマムな形態で開業しているため、スタッフとの調整もしやすく、休みを比較的好きなように設定することができます。これは勤務医時代にはなかなかできなかったことです。

例えば、お盆やゴールデンウィークといった大型連休はもちろんですが、そうではない普通の平日に「今日は休みにして旅行に行こう」と決めることも可能です。診療所を1日閉めて、既存の休みと組み合わせれば、ちょっとした旅行に出かけることもできます。ふらっと思いつきで動ける自由さは、開業医ならではの魅力だと思います。

さらに、この自由さには経済的なメリットもあります。大型連休や繁忙期はどこも混雑して料金も高くなりますが、平日の空いている時期に出かければ、費用は抑えられる上に、空いてるので快適に過ごすことができます。例えば同じ旅行でも、時期を少しずらすだけでコストが1.5倍から2倍違うこともあります。それを考えると、平日休みを自由に取れるというのは、生活の質を高めつつ出費を抑えることができる、非常に大きなメリットだと感じています。

当直がないメリット

「当直がない」というのは、本当に大きなメリットだと思います。もちろん、勤務医でも非常勤を組み合わせるなど工夫すれば当直を避ける働き方は可能ですが、常勤で働いているとどうしても当直を頼まれることが多く、断るのはなかなか難しいのが現実です。私自身も、開業前は常勤で当直をしていましたが、断ることはできませんでした。

当直をやらなくなってから実感したのは、「体内リズムが崩れなくなった」という点です。週に1回でも徹夜に近い状態で一晩を過ごすと、リズムがぐちゃぐちゃになります。翌日以降も疲れが抜けず、体調を戻すのに時間がかかる。若手の頃でもかなりのダメージを受けていて、「やっぱり当直はやりたくない」と常々思っていました。

実際、当直がなくなると週末も丸一日潰れるようなことがなくなり、心身の疲労が格段に減りました。生活のリズムが整い、気持ちにも余裕が生まれる。これは私にとって、開業してよかったと強く思える点のひとつです。

人間関係のストレスが減る

勤務医時代は、病院内の人間関係に悩むことが少なくありませんでした。合わない先生がいたり、全く協力してくれない同僚がいたり、そうした人間関係のストレスで「仕事に行きたくない」と思う日もありました。

開業後はもちろん患者さんとの関係やスタッフとの関係はありますが、少なくとも勤務医時代のような「上司や同僚との人間関係のストレス」は一切なくなりました。私の場合はミニマム体制で、スタッフも最小限なので、職場内の人間関係で悩むことはほとんどなくなり、精神的に非常に楽になったと感じます。

自由に決められる

「自由に決められる」というのも、開業の大きな魅力です。

例えば当院では小規模だからこそ小回りが利きます。「これを導入してみたい」と思えばすぐ導入でき、合わなければすぐ撤回できます。いわば“朝令暮改”も可能です。

勤務医時代は院内の薬をひとつ変えるだけでも会議にかけなければならず、なかなか物事が進まないことが多くありました。自分で開業すると、その意思決定のスピード感が全く違います。もちろん、その分すべての責任を自分で負う必要はありますが、私にとっては大きなやりがいであり、メリットだと感じています。

まとめ

開業には大きなリスクがあります。借金を背負い、失敗すれば経済的に厳しい状況に追い込まれる可能性もあります。
しかし一方で、成功すれば「資金的な余裕」「時間の自由」「当直のない生活」「人間関係のストレスからの解放」「意思決定の自由」といった勤務医では得られない大きなメリットがあるのも事実です。

私は開業してから「家族との時間を持てたこと」だけでも十分に成功だったと思っています。
もちろん苦労も多く、二度とやりたくないと感じるほど大変ですが、それでも得られるものは確かにある――これが私自身の実感です。