歯科では予約制が一般的ですが、医科診療所では、予約制も併用しているところが多いものの、完全予約制は一部診療科を除いて珍しいと思います。多くの診療所が、予約の患者さんと並行して、当日直接来た患者さんを受け入れています。しかし私は紆余曲折を経て、現在は全ての外来を予約制にして診療を行っています。内科クリニックとしては珍しい形態と言えます。今回は予約制について考えていきます。

当初は発熱外来のみ予約

開院当初は通常の外来は予約も受けつつ、予約なしで飛び込みでみえる患者さんも受け入れておりました。しかし発熱外来だけは、混雑してしまうと収集がつかなくなり、安全な診療が妨げられると思い、他の多くのクリニック同様に予約制としておりました。開院当初は患者数が一日数名ですから、それでも特に問題なく診療をしておりました。

しかし当院が開院したタイミングはCOVID-19の流行真っ盛りの状況でした。有り難いことに、発熱外来は予約が徐々に増え始めていました。しかし感染爆発が起きた月になると問題が生じはじめます。それは発熱外来にも飛び込みで来院される方や、通常外来にまぎれて感染症の患者さんが入ってきてしまうことが、徐々に起こるようになりました。

その都度、個別に予約をご案内したり、少しお待ちいただいて、時間を空けて診察するなどしておりましたが、あの時は日本中が物々しい雰囲気になっておりました。当院の規模では対応しきれない数の患者さんが一度に診察希望で見えたり、すぐに診察を希望するなど無理を言う患者さんもおられました。体制の変更が急務となりました。

大きく体制を変えるきっかけとなった事件は、飛び込みでみえたやや高齢の患者さんを診察したあと、家族がクリニックにクレームを入れてきたときです。どうやらその患者さんは、当院に受診したことや、検査結果などの病状を正しく家族に伝えることができなかったようです。他にかかりつけがあるにもかかわらず、当院が勝手に診察をしたと思われたようです。こちらとしては、可能な限り患者さんの要望に親切心で応えたつもりでしたが、あの時は非常に残念な気持ちになりました。開業医を続けるのも本当に嫌になった事件です。日本全体が通常の状況ではなかったので、やむをえなかったかもしれませんが、かなりダメージは大きかったです。

その後似たようなことが立て続けに起こったことで、通常外来も含めて、全て予約制に移行する決断をしました。正直かなり迷った挙げ句の、苦渋の決断でした。予約制では受診ハードルが確実に上がり、患者さんが減ることは避けられません。患者数の減少はクリニックにとっては死活問題です。

また予約はインターネットからのweb予約に限定しました。当初は電話でのお問い合わせにも対応していましたが、とうとう収集がつかなくなり、辞めることにしました。つまりネットで予約が取れない患者さんは、事実上当院には受診されないという体制になりました。

元々定期受診されていた患者さんには事情を説明し、予約受診をお願いしました。高齢などで、どうしてもスマホが使えない患者さんは、状況によってはお待ちいただくことをご了承頂き、飛び込みでも診察する方針にしました。

実際にやってみると、、

完全に予約制に移行してみると、当初想定していたほど患者さんが減ることはありませんでした。考えてみると当院に受診される患者さんは、元々ほとんど予約で来られる患者さんでした。今まではご予約頂いていた患者さんも、当日枠が混雑してお待たせしてしまうこともありましたが、予約制になってからはそのようなことも無くなりました。

そして突発的な来院がないことで、私としては格段にストレスが減りました。それまでは予約がなくても、いつ患者さんがみえるかわからないので、常に気を張っている必要がありました。しかし基本的には予約がなければ患者さんはみえないので、多少リラックスして他の事務仕事などに時間を当てることができるようになりました。いつ誰が来るかわからない状態というのは、思った以上に消耗するようです。

もちろん予約制に移行してからも、飛び込みで来院される方は多少います。そのような際は空いていれば、その場で予約をお取りいただくようご案内し、混んでいれば直ぐに対応出来ない旨を伝え、待てる方は予約をして再度ご来院頂いています。いままでは、突発的に混んでいる状況でも、当日対応をしている以上、対応しなければならないプレッシャーがありましたが、予約制と割り切ることで、こちらの負担もだいぶ減りました。

もちろん離れていった患者さんもいます。当日ふらっと寄れるクリニックの方が、居心地がよい方も、もちろんおられるでしょう。当院がその需要を満たすことが出来ない以上、やむを得ないと思います。

予約制のメリットは大きい

予約制のメリットはなんと言っても患者さんをお待たせする時間が短縮できることです。もちろん直前の患者さんの診療が長引いて多少お待たせしてしまうこともありますが、当院では10分以上待つことはまず稀です。ほぼ時間通り、早めにみえた患者さんも、手が空いていればもちろんすぐにご案内します。

また当院のシステムでは、予約した瞬間に、初診の方でも自動的にカルテが電子カルテに作成されます。手入力が無くなった結果、単純な入力ミスがなくなりました。時間も大幅に短縮できます。さらに予約と同時に、問診票が送られるシステムになっています。事前に患者さんの情報を把握し、カルテをある程度作っておくことで、診療の効率が格段に上がりました。現在の当院の診療体制を維持するためには、ウェブ予約、問診システムは無くてはならないものになっています。さらに事前に保険情報を送ってくれる患者さんは、オンライン資格確認システムも連動し、保険資格が事前に把握できるので、さらに時短になっています。当院が開院してからの数年でも、当初は考えられないほど、デジタル周辺のシステムの効率化が進んでいます。

もちろんデメリットも

当然ですがデメリットもあります。そもそもスマホやパソコンを使えない患者さんには受診ハードルが高く、機会損失をしていると思います。また予約枠で区切る以上、どう頑張っても診療できる患者さんの数には上限ができます。当院では頑張っても枠は一日30人が上限となっています。現状では、診療のクオリティの維持、少し長くかかる方の対応を考え、一人あたり10分の枠を設けて対応しています。花粉症の薬だけ処方して、サクッと終わる方もいれば、インフルエンザの検査などをすると10分以上かかるケースもあります。あまりに枠が詰まった場合は、一部予約枠を閉じて、タイトになりすぎないように調整することもあります。

特に内科ではインフルエンザの流行期などは、多くの患者さんがみえ、それが年間収益の重要な要素になっている場合もあります。このスタイルでは、インフルエンザ流行時などの増収も一定までしか見込めません。あまりに患者さんが多いときは、時間外で延長して対応をすることもありますが、それでも限界があります。

スタッフがいれば、当日枠と併用もよいと思います。

当院は基本的に受付事務1名、私の2名体制です。どうしても対応できる範囲に限界があります。出来ないものは仕方ないので、限界を弁えたうえで、できることに絞り対応をしています。

先生がもし最初は予約制にしたとしても、余裕が出てきたり、患者さんが増えて、スタッフを安定して雇えるようになれば、当日枠との併用が現実的であると思います。もちろん一般的には、当日枠と併用が普通なので、最初からそのようにするのも、もちろん良いと思います。