今回は、レセプト業務まで院長自身が行うという、少しマニアックなクリニックを想定してお話ししてみようと思います。以前の記事でもご紹介したことがありますが、私自身、いわゆるレセプト業務はすべて自分で行っています。月ごとの保険請求の手続きだけではなく、日々の一人ひとりの患者さんのレセプトについても、基本的にはすべて私自身が確認しています。
なぜかというと、私のクリニックではレセプト業務ができるのが私しかいないからです。事務スタッフもレセプト業務についてはほとんど分からないため、結局、私がすべて行っているということになります。経営者である院長自身がここまでレセプト業務を行っているクリニックは、おそらく珍しいのではないかと思います。
一方で、院長自身がレセプトを見ることには結構利点もあります。診療内容と売上の関係が直接分かるため経営を見るうえでも役立ちますし、本来算定できるものの取りこぼしを減らすこともできます。逆に、本来は算定できないものを誤って算定してしまうことも、自分自身がルールを理解していれば避けやすくなります。
ただし、一つ大きな問題があります。それが「見落とし」です。もちろん私たち医師は、最初からレセプトについて詳しいわけではありません。しかも診療報酬のルールは非常に複雑です。単純な外来診療だけであればまだ分かりやすいのですが、診療所に関係するものでも、特に訪問診療や在宅医療に関連する部分はかなり複雑で、すべてを把握するのはなかなか難しいと思います。
私自身は現在、訪問診療をほとんど行っておらず、基本的には外来診療が中心なので、その意味では比較的シンプルです。それでもやはり見落としはあります。今回は、院長自身がレセプト業務を行う場合、この「独学による見落とし」をどう減らしていくかということについて考えてみたいと思います。
最初は同じ診療科の先輩に教えてもらうのが一番早い
レセプトについて、自分で本を読んで勉強し、見よう見まねで組み立てていく先生もいると思います。特に開業時からご自身でレセプト業務を行う場合には、そのような形になりやすいのではないでしょうか。
ただ、今になって振り返ると、一番効率が良いのは、自分が開業する診療科ですでに開業している先輩の先生に教えてもらうことではないかと思います。例えば内科で開業する予定であれば、すでに内科で開業している先生のクリニックを見せてもらい、レセプトで注意しているポイントを教えてもらうという方法です。院長自身が直接レセプト業務を行っているケースは少ないかもしれませんが、その場合でも事務スタッフの方に話を聞かせてもらい、「こういう場合にはこれを算定する」「ここは見落としやすい」といったポイントを教えてもらうだけでもかなり違うと思います。
特に、初診料や再診料に関連して算定する項目や、施設基準の届出が必要な項目などは、最初は本当に何が何だか分かりません。例えば、外来感染対策向上加算、連携強化加算、サーベイランス強化加算などがありますし、2026年度であれば電子的診療情報連携体制整備加算のような新しい項目もあります。
こうしたものは、一度仕組みを理解して電子カルテ上でセットを作ってしまえば、その後はある程度ルーチン化できます。しかし、最初は何をどう設定すればよいのかも分かりませんし、電子カルテのどこに組み込めばよいのかも分かりません。そこで延々と悩んでストレスを抱えるくらいであれば、最初から経験者に聞いてしまった方が圧倒的に早いと思います。
見落としやすい算定を最初に知っておく
最初の取っ掛かりと、「どこを見落としやすいのか」というポイントさえ分かれば、その後は徐々に慣れていきます。もちろん最初は見落としもありますが、トライアル・アンド・エラーを繰り返していけば、数か月もすれば概ね形になってくると思います。
内科でいえば、本当に細かい話ですが、例えば特定疾患処方管理加算は、要件を満たしていれば初診料を算定した初診の日でも算定できます。また、生活習慣病管理料(Ⅰ)・(Ⅱ)は月1回の算定ですので、例えば8月末に算定した患者さんが9月1日に再度受診し、その月の算定要件を満たしていれば、9月分として算定することができます。
一方、特定疾患療養管理料は月2回まで算定できますが、第1回目については、初診料を算定した初診の日または退院の日から起算して1か月を経過した日以降に算定するというルールがあります。このように、同じ「月1回」「1か月」といった言葉が出てきても、暦月単位の回数制限なのか、実際に一定期間の経過が必要なのかで意味が異なります。このあたりは、最初は非常に分かりにくいところです。
初診料についても同様です。例えば、ある急性疾患がいったん治癒し、その後に医学的に新たな初診と考えられる診療を行った場合には、同一月であっても改めて初診料を算定できるケースがあります。また、アレルギー性鼻炎などのように単純に「治癒」としにくい病名であっても、患者さんが任意に診療を中止し、1か月以上経過した後に再び受診した場合には、同じ病名や症状であっても初診として取り扱うことができる場合があります。ただし、慢性疾患など、明らかに同一の疾病について診療が継続していると推定される場合には初診として取り扱わないという例外があります。(参考記事→いつ初診扱いにするか?)
このようなことは、一つひとつは非常に細かい話です。しかし、知っているか知らないかだけで算定が変わります。こうした細かなポイントを最初の段階でいくつか知っておくだけでも、その後のレセプト業務はかなり変わってくると思います。
私自身はほぼ完全に独学だった
参考までに、私自身がどのようにレセプトを覚えたのかについても少しお話ししておこうと思います。本来であれば、先ほど書いたように、先に開業している先生のところに行って話を聞いたり、事務スタッフの方にインタビューしたりすればよかったと思います。しかし、開業当時はとにかくバタバタしていました。開業された先生であれば分かると思いますが、開業前後は精神的にもあまり余裕がありません。そのため、やむを得ず私は完全に独学で勉強を始めました。
外来レセプトについて解説した本を3〜4冊購入し、それを一通り読みました。そのうえで電子カルテとにらめっこしながら、自分で算定項目のセットを作っていきました。当然、最初はかなり見落としがありました。しかも私が開業した頃はコロナ禍だったため、新型コロナウイルス感染症に関連する臨時の算定も次々と出てきました。そうした算定を見落としてしまい、後になってレセプトを取り下げて再請求するなど、かなり大変なことになったこともあります。本当にトライアル・アンド・エラーで、痛い目に遭いながら覚えてきたという感じです。
また、上記の算定を見落とした経緯から、レセプトと病名などをチェックする有料ソフトも一時期利用していました。ソフトのチェック結果を見ながら、「こういうところを見るのか」と学んだ部分もかなりありました。私は最初の1年程度で利用を終了しましたが、開業初期だけレセプトチェックを支援するソフトを導入するという方法も、それはそれでかなり有効だったと思っています。
保険医協会を利用する
もう一つ、私は以前、保険医協会に加入していました。保険医協会は診療報酬やレセプトに関する質問にもかなりしっかり答えてくれるため、特に開業初期には非常に使いやすいと思います。会費がかかるという点はありますが、少なくとも新規個別指導が終わるまでは加入しておく価値があるのではないかと、私は思っています。
私は保険医協会に何か不満があって退会したわけではありません。単純にクリニックのコストを少しずつ削減する必要があり、その一環として終了したという経緯です。本当であれば、入っていた方が安心だと思うくらいです。ただ、レセプト業務に慣れてくると次第にルーチン化し、問い合わせをする機会も減ってくるため、最終的には利用頻度とコストの兼ね合いで判断しました。
それでも、もし今から時間を巻き戻してもう一度新規開業するとすれば、私は少なくとも新規個別指導が終わるまでは保険医協会に加入すると思います。開業したばかりの頃が、一番レセプトについて分からないことが多いからです。しかも、こうした小さな疑問を放置しておくと、地味にストレスになります。「これで本当に合っているのだろうか」という状態のまま診療を続けることになるので、後からじわじわ効いてきます。疑問はできるだけその場で解消してしまった方が精神的にも楽です。その意味でも、使えるものは使った方がよいと思います。
また、後述する生成AIとの違いとして、地域ごとの運用や審査上の傾向、実務的な情報については、生成AIだけではなかなか把握しきれないことがあります。その点、地域の保険医協会は実際の相談事例なども含めた生きた情報を持っているという強みがあります。ここは、生成AIが発達した現在でも価値のある部分だと思います。
慣れてきた頃と診療報酬改定時にどう確認するか
一度慣れてしまえば、レセプト業務そのものは数か月もすればある程度ルーチン化できます。問題になるのは、診療報酬改定でルールが変わったときや、普段と違う診療を行ったとき、あるいは突然「これはどう算定するのだろう」と疑問が生じたときです。
私のように保険医協会にもすでに加入していないとなると、自分で厚生労働省の資料を調べたり、インターネットで検索したりすることになります。ただ、今の時代には、ここで生成AIがものすごく強い味方になります。
今の時代は生成AIがかなり使える
レセプトについても、現在の生成AIはかなりのところまで答えてくれるようになっています。診療報酬については、厚生労働省から医科診療報酬点数表、算定上の留意事項、疑義解釈、診療報酬情報提供サービスなど、多くの一次資料が公開されています。生成AIから見ても参照できる一次情報が非常に多い分野であり、これはかなり大きな強みになります。
ChatGPTが登場したばかりの頃は、診療報酬について質問してもかなり怪しい回答が返ってくることがありました。しかし、この記事を書いている2026年9月現在では、少なくとも私が実際に使っている感覚としては精度がかなり上がっています。もちろん間違えることはありますし、最終的には厚生労働省の通知など一次資料を自分の目で確認しなければならないケースもあります。ただ、私の場合は、ChatGPTの有料プランで思考時間を長めに取る設定にし、一次資料の根拠まで示してもらった方が、自分でゼロから検索するより圧倒的に早いと感じています。
使い方としては、新規開業する先生であれば、分からないことを最初からChatGPTにどんどん聞いていく方法でもよいと思います。また、すでに開業してある程度時間が経っている先生でも、普段あまり行わない診療をしたときや、「この算定で本当によかったのだろうか」と少し気になったときに壁打ち相手として使うと、意外な見落としに気づくことがあります。
私自身、ごく最近そのような経験がありました。緊急で往診しなければならない患者さんがおり、夜間に往診することになりました。往診料に深夜往診加算があること自体は知っていたのですが、算定要件を満たす場合には、それとは別に再診料側の乳幼児深夜加算も算定対象になり得るという視点を私は持っていませんでした。たまたま「他にも算定できるものがあるのではないか」と思い、ChatGPTに壁打ちして確認したことで気づきました。おそらく相談していなければ、そのままずっと気づかなかったと思います。
独学の最大の盲点は「疑問にすら思わないこと」
ここが今回、一番お伝えしたかったところです。保険医協会に聞くにしても、自分でネット検索するにしても、最大の弱点があります。それは、自分自身が「これはどうなのだろう」と疑問に思わなければ、そもそも調べることができないということです。
先ほどの往診の例でいえば、「再診料側の時間外・休日・深夜加算と、往診料側の時間帯に応じた加算はどのような関係になるのか」と疑問に思うことができれば、保険医協会に聞くこともできますし、自分で検索することもできます。もちろんChatGPTに聞くこともできます。しかし私は、「深夜往診加算を算定しているのであれば、時間に関係する別の加算は併算定できないだろう」という思い込みがありました。そのため、そもそも疑問が生まれなかったわけです。頭の中に存在していないことは、検索することができません。これはレセプトを独学するうえで非常に大きな盲点だと思います。
ある程度規模の大きなクリニックであれば、専用のレセプトチェックソフトを導入することで、こうした見落としを拾える可能性があります。患者数が多ければ、一件一件は小さな算定でも積み重なるとかなり大きな金額になりますので、月に数万円かかるソフトであっても導入する価値は十分あると思います。
一方、私のクリニックのようなかなり小規模な診療所では、レセプトチェックソフトに月数万円をかけるとコスト負けしてしまいます。そのため、以前は「自分が気づかずに見落としているものについては、ある程度仕方がない」と割り切っていた部分もありました。しかし、そこで使えるようになってきたのがChatGPTをはじめとする生成AIです。
生成AIの面白いところは、単に自分が質問したことに答えてくれるだけではなく、「このケースなら、こちらの算定も確認した方がよいのではないか」と、自分が考えていなかった視点を出してくれることです。もちろんAIの回答をそのまま信用するのではなく、最終的には一次資料を確認する必要があります。それでも、自分一人では疑問にすら思わなかった部分を指摘してくれるというのは、独学の最大の弱点をかなり補ってくれると思います。
正しい情報にたどり着くスピードが上がるだけでなく、自分では気づかなかった視点までチェックしてもらえる。小規模クリニックで院長自身がレセプト業務を行っている私にとって、この使い方は非常に大きいと感じています。
レセプト業務を自分で行う先生はそれほど多くないかもしれません。ただ、もしご自身で行うのであれば、最初は経験者から教えてもらい、必要であれば保険医協会やレセプトチェックソフトも利用し、そこに今であれば生成AIも組み合わせる。このように複数の方法で確認するのが、独学による見落としを減らす一番現実的な方法なのではないかと思います。
