近年クリニックにおけるコスト上昇は大きな問題になっています。色々なものが値上がりしていますが、特に問題になるのが、外注検査費用の値上げ問題です。検査会社も円安によるコスト上昇、人件費の上昇に伴うコスト上昇によって、クリニック側が負担する外注費用も値上げの方向です。また検体数が少なく、値上げをしても収益が見込めない場合は、検査会社が撤退する動きもでてきています。

今回は、検査会社のコスト上昇、また検査剥がしの問題について考えてみます。

契約期間中にも検査料金の値上げ通知が、、

本来であれば、契約期間に一方的に値上げを行うことは、社会的にルール違反ですが、契約書をみると細かい字で細則が記載されています。やむを得ないと言われれば、交渉に応じなければならない場合もあるでしょう。

当院も本来は開院してから5年間は最初に提示してもらった金額を維持する契約でしたが、契約期間中に値上げのお願いがあり、その後、後述する月額管理料の導入が通告され、継続が不可能になりました。

月額管理料の導入

検査会社にもよりますが、検査内容を伝送したり、検査オーダー用のPCのレンタルや、検査結果を閲覧するシステム利用料などで、月額が発生するケースもあります。当院がお願いしていた会社は月額固定費がかからず、その魅力も選んだ理由の一つでしたが、急に月額管理料が導入されることになりました。金額が数万円にのぼるもので、とても当院の規模では継続ができません。事実上の撤退通知、検査剥がしでした。

他の先生も、当院と同様の通知を受けたと伺いました。検査数が少なく、収益性が見込めないクリニックからは撤退し、検査数が多く、収益が見込める医療機関に絞っていく方向に舵を切ったようです。規模が小さいクリニックにとっては、非常に厳しい状況になりました。

ミニマム開業が成立しない可能性

このサイトをご覧の先生の中にはミニマム開業の形態に興味をお持ちの先生もいらっしゃると思います。しかし今後、検査会社が、小さいクリニックでの外注検査を受けない方向になるとすると、この形態での開業は成立しなくなる可能性があります。さすがに血液検査ができない診療所では、維持が困難と思われるからです。

当院のその後

当院は、その後いくつかの検査会社に打診して見積りを出してもらい、クリニックに営業所が近い検査会社さんにお願いすることが出来ました。検査料金はだいぶ値上がりし、従前の2倍から3倍ほどになりましたが、月額管理料がなく、また営業所が近く、回収ルートも他のクリニックのついでに寄れるルートであったため、切られる可能性が低いと判断し、お願いしました。

腹を割って話、検査会社にとって、何が負担かを聞く

私は新たに検査会社を探す際に、当院の現状をそのままお話しました。検査会社が撤退したこと、新たに検査会社を探していること、検体数は少ないこと等含めてお話し、難しければ断ってもらって問題ない旨もお伝えしました。

また検査会社にとって、何が負担になるかもお伺いしました。検査会社としては、検体回収の時間を指定されることや、対面での回収にこだわることが負担になるとのことでした。その日の依頼状況によって回収ルートが変わり、また交通状況によって、時間が読みづらいためです。

当院の回収は診療終了後のボックスで問題ないことや、急ぐ検体はまず無いこと、結果印刷も紙コストが問題になるなら不要とお伝えしました。回収が負担になるのなら、距離的に近いので、私が自転車で届けても良いと思っていましたが、上記のようにたまたまコースに入っていたようでそれは避けられました。

今の状況で虚勢を張っても仕方がないと思っていましたし、契約後にこんなはずではなかったと、契約変更になったり、撤退されるくらいくらなら、はじめから現状を知ってもらって受けてもらう方が良いと考え率直にお話しました。幸い一つの検査会社と契約することができました。

検査料金の実情

外注検査料金というのは、ネット上でも正確な情報はあまり出ていません。ここまで情報公開が進んだ世の中でもベールに包まれています。私が知る限りの情報ですが、ある程度の検査数が出ているクリニックでは、保険点数の2-3割+消費税が相場のようです。血算、生化、HbA1cなどメジャーなものはこのくらいの価格で、NT-proBNPやTSH、FT4などはもう少し高めで4-5割ほどでしょうか。view39や薬物血中濃度など、やや特殊なものはもう少し割高になりがちです。もちろん個々の医療機関によるので一概に言えません。当院も従前はこのくらいの価格でした。

検査数がものすごく多いクリニックでは、保険点数の1割!ほどに抑えられている話も聞いたことがあります。儲かるクリニックはより裕福になり、経営が厳しいクリニックはより厳しくなるという資本主義の構造でしょうか。

当院の現在は保険点数の7割+消費税なので、保険点数の8割弱といったところです。保険点数との差益はほぼ見込めず、判断料でなんとか補うといったところです。少なくとも積極的に検査を増やそうとは考えておらず、検査項目も必要なものに絞り、患者さんが持参する健康診断の結果も活用しながら診療を行っています。しかし月額固定費がかからないことは、非常に負担が軽いです。多少割高でもこの方がよいと判断しています。

保険医協会曰く クリニックは足元をみられる

検査撤退通知を受けたときに、保険医協会にも相談してみましたが、保険医協会は完全に独立性を保つために、特定の業者と提携しておらず、紹介等も行っていないそうです。しかし同様の相談は寄せられているそうで、特に診療所は資本も少ないため、大企業から見ると足元を見られたり、なめられることもあると伺いました。

診療科の特性で、血液検査が少ない場合も注意

内科は比較的血液検査が行われますが、診療科によっては血液検査が元々少ない場合もあると思います。その場合は、患者さんは多く、クリニックは賑わっていても検査数が少なければ、外注検査会社としては収益が低いクリニックとして撤退や値上げの対象となるケースも考えられます。聞いた話ではもともと検体が少なめの精神科、整形外科などでも厳しい状況だと聞きます。

検査会社さんも商売だから仕方がない

検査会社も検査を行うことで収益を上げる営利企業である以上、収益が見込めないクリニックとは取引をやめて、収益が見込めるクリニックとだけ取引をするというのは当然の流れであると思います。今後もこの流れはどんどん加速するでしょう。クリニック側には厳しい状況が依然続くと思います。ただ正直に言えば、COVID-19のときは散々検体を出したのに、、という複雑な思いはありますが、、。

クリニックなどの保険医療機関は、建前上、営利目的では無いことになっていますが、クリニックを取り巻く会社は、民間の営利企業です。そこにやや矛盾があるように思いますが、それは仕方ないでしょう。

今後外注検査自体が、儲からない業種となった場合、検査会社も事業から撤退したり、別の業種に鞍替えしたりということが出てくるかもしれません。その辺は民間企業の方が敏感ですから動きが早いです。事実、製薬会社も、収益性が低い薬剤の生産を絞るなどの対応を始めているようです。去痰剤や咳止め薬が供給不安定になることは、そのような背景があるそうです。

クリニックは2極化が加速する

収益が低く、利益率が低い取引先は切られ、収益性の高い医療機関との関係を加速させるということが現実になっています。資本力があり設備投資を行って、患者さんを大量に呼び込めるクリニックと、資本に乏しい個人クリニックとは、これまで以上に貧富の差が生まれると思います。

正直に言って、個人の資本力には限界があります。資金力のある企業が後ろ盾になっているようなクリニックや、リスクをとって複数の分院展開をして成功したクリニックとは、個人で戦う相手としては大きすぎます。今から自己資金と借入金で開業する普通の先生が、このようなクリニックとまともに戦えるわけがありません。

またオンライン資格確認、電子処方箋を始めとする急激なDX化の流れもあり、今後数年で、個人クリニックは急激に淘汰が進むと思います。10年後には昔ながらの開業医は完全に姿を消すと推測しています。

検査専門クリニックという構想と、今後の展望

今後、個人クリニックで血液検査が難しいというケースが出てくれば、血液検査や尿検査の検査を専門で請け負うクリニックが出てくるかもしれません。事実、画像診断については、CT、MRIの画像診断に特化したクリニックが都心に展開し、成功しています。メディカルスキャニングというクリニックで私もお世話になっています。非常に対応も早く、チェックも放射線科の専門医が行ってくれるので安心です。

検査専門のクリニックが普及すれば、オンライン診療もさらに使いやすくなります。現在オンライン診療の最大のネックは、血液検査が出来ないことです。さすがにオンラインでは血液検査は出来ませんから。血液検査のデータが得られれば、生活習慣病の大半はオンラインで完結できると思います。このようなところに着目した企業が参入すれば、新たなビジネスモデルとして生まれてくるかもしれません。

しかし同時に、自宅でセルフ採血して、その検体を送って、結果を出せるような新技術が生まれてくるかもしれません。現在でもごく一部でそのような技術があり、現状ではまだまだ限られていますが、これは時間の問題であると思います。おそらく血糖を自己測定する程度の要領で、現在の血液検査に匹敵する情報は得られるようになります。そのようになると、これまでのビジネスモデルはまったく通用しなくなります。我々開業医は新たな時代に対応できるよう、さらに変化を求められます。まったく気が休まらない、変化の激しい時代を生きているものですね。