ミニマム形態の開業では極力固定費は下げることが必要になります。そもそもミニマムでなくても、固定費は削減できるに越したことはありません。多くの患者さんで溢れているクリニックであれば、多少どんぶり勘定でも問題ないのでしょうが、診療できる患者さんの数に限りがあるミニマム開業では、経費のコントロールはクリニックが継続できるかどうかの死活問題です。今回は固定費を下げるポイントについてご紹介していきます。
高額な費用は特に下げたい。
クリニックの維持費で最も大きな割合を占めるのは、家賃と人件費であると思います。特に家賃は内装を作ってしまう以上、後で変えることは難しくなり、慎重な判断が必要になります。もちろん家賃が安いからと行って、全く人通りがない立地などを選んでしまうと、開業後に集患に苦労することになるので、なかなか判断するのが難しいです。逆に多少高くても、広告宣伝費をかけずに患者さんが集められる場所では、高いからといって避ける理由にはならないかもしれません。しかしそのような場所は、開業後に競合のクリニックができる可能性も高く、様々な要素が複雑に絡み合うので、なかなか難しい問題ではあります。
様々な要素とのバランスも大事ですが、やはり毎月かかる家賃は可能な限り下げたいというのが本音です。他の変動費と異なり、家賃はクリニックを維持する限り、確実にのしかかってくる負担になります。
人件費については、近年は賃上げ傾向であり、スタッフを雇用する立場としては、なかなかつらい現状です。可能なら家族に手伝ってもらうというのが、現実的に最も良い解決策になります。クリニックが軌道に乗ってきて、資金的に余裕ができれば、採用は後でも可能です。逆に採用したスタッフに辞めてもらうというのは、かなり難しいです。法律で、労働者は極めて強力な権利で保護されており、多少経営が苦しい程度では、辞めてもらうことすら難しいためです。また経営者として、スタッフに解雇を言い渡すのは、たとえやむを得ない理由があれど、苦しい決断になります。
固定費の目安
ひとつの目安としては、固定費を払うのにどのくらいの日数の診療をしなければならないかを考えてみるのが良いと思います。私は家賃を含め、電子カルテ、通信費、光熱費の概算、学会の費用に至るまで、一年間でかかる全ての固定費を洗い出し、スプレッドシートに記載してリアルタイムで年額を計算しています。それを元に一ヶ月あたりの費用を計算し、その金額が、一週間の診療(4日間の診療日)で賄えることをひとつの目安、目標としています。たとえば何か不測の事態がおきても、1週間クリニックを開ければ、少なくとも維持費は払えるという計算です。そして、残りの3週間は借入金返済や生活費を稼ぐという計算になります。しかしながら、いまのところ当院ではこの目標は、実際はかなり厳しいです。すごく調子が良いと達成できる月もありますが、なかなか難しいことが多いのが事実です。まだまだ努力している最中ですが、なんとか2週間の診療で固定費を賄えるようにはコントロールをしています。
逆に払うことで削減できる経費
当院では、自動精算機を導入しています。大学病院や市民病院などある程度の規模の病院では一般的になってきましたが、クリニックでは導入しているところはまだまだ少ないように思います。400万円ほどのやや大きな初期投資で月額費用も数万円と結構かかるので、迷いましたが、当院では開院時から思い切って導入することにしました。メリットとしては、会計のスタッフが不要になる点です。1人分のスタッフの給与を削減できると思えば、コストパフォーマンスも悪くはないと思います。お支払は患者さんにお任せすることができるので、こちらの事務作業の負担が確実に減ります。またお金の締め作業も一瞬でおわり、終業時にお金が合わないなどのストレスもないので、スタッフもお金のことで神経質にならずに済み、業務効率化の面でもメリットを感じています。
自動精算機は現金だけでなく、クレジットカード、QRコード決済、電子マネーなど主要なものにはほぼ対応しています。患者さんから、ポイントで医療費を支払えたと、喜ばれることもあります。
デメリットは、初期費用、月額の費用が一定かかることと、キャッシュレスの振込タイミングが、バラバラなので、会計ソフトへの入力がやや手間な面はあります。しかし現時点では、デメリット以上のメリットを感じています。当院で使用している機種はテマサックProのスタンドタイプです。スタイリッシュでなかなかカッコイイところも気に入っています。
もし初期費用や、月額の固定費を削減したい場合は、私は使ったことがないのですが、東芝TECの自動釣銭機は初期費用、月額費用が抑えられるようです。自動精算機ではなく、自動釣銭機なので、完全自立は難しいかもしれませんが、開院前に知っていたら、こちらも検討したと思います。今後キャッシュレス化がより進んで、現金の扱いが減れば、買い替えも検討すると思います。
保険料などは最小限に
保険などは今は色々な商品がありますが、私が入っているのは、医師賠償責任保険とビジネスキーパーという火災保険、水害保険がセットになったものです。もちろん様々なリスクに備えるに越したことはありませんが、今のところは上記に絞っています。
医師賠償責任保険は、民間医局が団体割引が効くのでこちらから加入しています。勤務医よりも若干高いくらいです。勤務医向けしかないと思われている先生もいらっしゃるかもしれませんが、問い合わせると開業医向けの資料をもらえます。年間およそ5万円ほどです。
ビジネスキーパーは当院が河川に近いので、水害に備えて加入しています。水害ついては一定以上の規模の被害でないと保証がされないものが多い中、ビジネスキーパーは規模にかかわらず、損害に応じて保証してくれるので、水害リスクに備えたい場合はよいと思います。余談ですが、このような保険ひとつ入るにも、多くの資料に目を通して、比較検討しなければならず、結構負担になります。保険相談の窓口も相談には乗ってくれますが、かなり得手不得手があるようで、適切な人に相談しないとなかなか難しいことになります。上記の保険も結局私がネット検索して、なんとか見つけ出したという経緯があります。経営者は本当に細かいことでも大変です。
※ちなみに、ビジネスキーパーも、東京都医師歯科医師協同組合経由で加入可能です。私も切り替えましたが、以前より保障が手厚くなりました。