ミニマム開業はオンライン診療に代替されるのか|これからのクリニック経営を考える
いわゆる「ミニマム開業」、最小限の検査機器や設備、人員で診療所を運営する形態について考えてみようと思います。当院もその一つですが、最近では、このような形態で開業される先生も少しずつ増えてきているように感じます。一方で、近年急速に普及してきたオンライン診療の存在を考えると、このミニマム開業という形態が、今後どのような立ち位置になっていくのかについて、少し気になるところがあります。むしろ、設備や人員を最小限に抑えたクリニックほど、オンライン診療に代替されやすいのではないかという懸念もあります。今回は、実際にミニマム開業の形態で診療を続けている立場から、今後のクリニック経営について考えてみます。
ミニマム開業で提供できる医療とは
ミニマム開業の場合、診療科や経営方針によって異なりますが、基本的には高額な検査機器を導入しないという方向になります。例えば内科であれば、CTのような大掛かりな設備は当然導入しませんし、レントゲンについても、現在の経営環境を考えると、導入するかどうかはかなり悩ましいところです。そうなると、実施できる検査は血液検査や尿検査、インフルエンザや新型コロナウイルスの抗原検査などが中心になります。診療の主体となるのは問診と身体診察であり、必要な検査を組み合わせながら診断や治療を進めていくことになります。当然ながら、自院だけでは対応できない疾患や、より高度な検査が必要な場合には、近隣の高次医療機関と連携して適切な医療につなげていくことになります。このように考えると、ミニマム開業の役割の一つは、患者さんの最初の相談窓口となり、必要に応じて専門医療機関へ橋渡しをすることにあります。
これは地域医療において重要な役割であり、私自身も日々の診療でそのような対応を行っています。ただ、このような診療形態は、オンライン診療との差別化が意外に難しいとも感じます。大掛かりな検査や処置を行わず、問診を中心に診療しているのであれば、その一部はオンラインでも提供できてしまうからです。身体診察を行えることは対面診療の大きな強みですが、患者さんが毎回その必要性を感じるかというと、必ずしもそうではありません。
安定した慢性疾患はオンライン診療に移行しやすい
例えば、高血圧症や脂質異常症など、病状が安定している一部の慢性疾患の患者さんについて考えてみます。疾患や使用している薬剤によって必要な検査頻度は異なり、定期的な検査が重要になることも少なくありません。ただ、実際の診療では、長期間病状が安定しており、診察の大部分が薬の継続処方になっている患者さんもいらっしゃいます。患者さんによっては会社で年1回実施される健康診断の血液検査結果なども参考にしながら、日常の血圧管理と処方を継続しているケースがあります。このような場合、毎回クリニックまで来院していただく必要性は、相対的に小さくなっていくのではないでしょうか。
患者さんの立場から考えると、実店舗のクリニックを受診することは、意外に大きな負担です。自宅や職場から移動し、予約時間に合わせて来院し、待ち時間が発生します。診察が終わっても、その後に薬局へ行って薬を受け取らなければなりません。クリニックの診察自体は数分で終わったとしても、移動や待ち時間を含めると、半日近くかかってしまうこともあります。一方、オンライン診療であれば、自宅や職場にいながら診察を受けることができ、待っている間に家事や仕事をすることもできます。仕事の合間に10分程度の時間を確保して診察を受けるといった利用方法も考えられますし、診察内容が問診と処方の継続確認程度であれば、患者さんにとっての利便性は非常に高いです。
さらに、現在ではオンライン服薬指導や医薬品の配送も普及してきており、オンライン診療の後、診察から薬の受け取りまで一度も自宅から出ずに済ませることもできます。こうなると、少なくとも頻繁な検査や身体診察を必要としない、病状の安定した慢性疾患については、実店舗のクリニックに通院する必然性がかなり薄れてきているように感じます。
そして、ミニマム開業には、もう一つ構造的な問題があります。それは、こうした形態のクリニックでは、Web予約を中心とした運営が採用されやすいという点です。当院もそうですが、少ない人員で効率的に運営するためには、インターネットやスマートフォンを使った予約システムとの相性がよくなります。しかし、裏を返せば、スマートフォンを使って自分で予約できる患者さんは、オンライン診療への移行にもそれほど抵抗がない可能性が高いです。ミニマム開業の効率的な運営を支える仕組みそのものが、オンライン診療に移行しやすい患者層を集めることにもつながっているという点は、少し皮肉なところです。
急性疾患についても油断はできない
それでは、風邪症候群や扁桃炎、インフルエンザなどの急性疾患についてはどうでしょうか。こうした疾患については、身体診察や抗原検査が必要になるため、実店舗のクリニックが今後も残っていくという考え方もあります。私自身も、これらの診療がすべてオンラインに代替されるとは考えていません。ただ、実際の診療を続けていると、急性疾患についてもオンライン診療に患者さんが流れている印象があります。当院を受診される患者さんの中にも、最初は他院でオンライン診療を受けたものの、症状が改善しなかったために対面で受診されたという方がいらっしゃいます。
オンライン診療でも、医師が医学的に判断できる範囲であれば、急性疾患に対して薬を処方することは可能です。例えば、症状や経過からインフルエンザが強く疑われ、オンライン診療で対応できると医師が判断した場合には、抗インフルエンザ薬が処方されることもあります。また、細菌感染症が疑われ、適応がある場合には抗菌薬が処方されることもあります。オンライン診療には診察上の限界があり、必要な場合には対面診療へ切り替えることが前提になります。しかし、患者さんの立場からすれば、オンライン診療で薬を処方され、それで症状が改善すれば、わざわざ実店舗のクリニックを受診する必要はありません。そうなると、対面診療に来院されるのは、オンライン診療で改善しなかった患者さんや、身体診察、検査、処置などが必要と判断された患者さんが中心になっていく可能性があります。さらに、そのような患者さんの中には、より詳しい検査や処置を希望して、設備の整った医療機関や中核病院を直接受診される方もいます。つまり、オンライン診療で完結する患者さんだけでなく、その後に対面診療が必要になった患者さんについても、必ずしもミニマム開業のクリニックに戻ってくるとは限らないわけです。
さらに、急性疾患について考える上で大きな転機となったのが、新型コロナウイルス感染症の流行でした。新型コロナウイルスの流行をきっかけに、薬局やドラッグストアで、新型コロナウイルスやインフルエンザの抗原検査キットが販売されるようになりました。現在では、国が一般用検査薬として承認した抗原検査キットを、一般の方が自分で購入して使用することができます。以前であれば医療機関で実施することが一般的だった検査が、家庭でも行えるようになったわけです。さらに、抗インフルエンザ薬のタミフル(オセルタミビル)についても、スイッチOTC化の検討が進んでおり、2025年12月には厚生労働省が意見募集を行いました。仮に今後OTC化が実現すれば、インフルエンザ診療のあり方は大きく変わる可能性があります。
これまでは、インフルエンザが疑われた場合、抗インフルエンザ薬を処方してもらうために医療機関を受診するという患者さんも多かったはずです。しかし、自宅で抗原検査を実施でき、さらに薬局で治療薬を入手できるようになれば、医療機関を受診する必要性は一段と小さくなります。つまり、ミニマム開業がオンライン診療に代替されるという話を超えて、オンライン診療そのものも含めてOTC医薬品やセルフメディケーションに代替されてしまう可能性もあるわけです。すべての患者さんが自己判断で治療できるわけではありませんし、重症化リスクの高い患者さんなどでは医師による評価が重要です。それでも、軽症患者さんの受療行動が大きく変わる可能性はあると思います。
現時点では、OTC医薬品は決して安くありません。薬局で必要な薬をいくつか購入しようとすると、保険診療の3割負担で医療機関を受診して処方してもらった方が、結果的に安くなるというケースもあります。そのため、費用面から医療機関を受診する患者さんもいらっしゃいますが、今後OTC医薬品の価格が下がったり、購入できる薬の種類が増えたりすれば、このような事情も変わっていくかもしれません。ここまで来ると、もはやミニマム開業だけの問題ではなく、従来の外来診療そのものがどこまで必要とされるのかという話になってきます。
血液検査まで外部化されたらどうなるか
ここまで考えてくると、ミニマム開業にとって最後に残る強みの一つは、実際に患者さんの身体に接して検査ができるという点かもしれません。血液検査については、現在のところ、オンライン診療だけで完結させることは困難です。郵送検査や自己採血など、医療機関に行かずに実施できる検査も一部にはありますが、検査項目や精度管理などの面で制約があり、通常の医療機関で行う血液検査をすべて代替できるわけではありません。将来的には、技術の進歩によって、現在よりも多くの検査を自宅で実施できるようになる可能性はありますが、一般的な血液検査の大部分が完全に自宅で実施できるようになるには、まだ相当の時間が必要なのではないでしょうか。
それよりも、もっと現実的に起こり得ると思っているのが、検査だけを実施する拠点が普及していくという形態です。すでに駅などにオンライン診療を受けられる施設を設ける取り組みも出てきていますが、これをさらに発展させて、血液検査や尿検査などを実施できる拠点ができたらどうでしょうか。例えば、駅のKIOSKのような小さなスペースに検査施設を設け、そこでは採血や尿検査、場合によってはレントゲンなど、オンラインでは実施できない検査を担当するという形態です。医師が常駐するのか、看護師などの医療従事者が検査を担当して医師はオンラインで診療するのか、その具体的な運営方法については制度上の課題もあります。簡単に実現できるとは限りませんが、技術的な方向性としては、決して非現実的な話ではありません。
患者さんは通勤途中などに最寄り駅の検査拠点で採血を受け、その結果がオンラインで電子カルテに共有されます。その後、医師が検査結果を確認しながらオンライン診療を行い、必要な薬を処方する。こうした仕組みが普及すれば、血液検査と薬の処方を中心とする慢性疾患管理は、従来のクリニックに通院しなくても完結するようになるかもしれません。さらに、大規模な駅では、より多くの検査に対応する施設が設けられる可能性もあります。例えば東京駅のような大きなターミナル駅で、血液検査だけでなく、画像検査なども幅広く受けられるようになれば、患者さんは自分の都合に合わせて検査を受け、その結果をもとに好きな場所でオンライン診療を受けることができます。このような仕組みが実現すれば、ミニマム開業だけでなく、一般的なクリニックの診療形態そのものが大きく変わることになります。
そもそも、血液検査や尿検査、レントゲン撮影などは、基本的には標準化された検査です。検体の採取や検査の実施には専門的な知識と技術が必要ですが、同じ条件で実施すれば、どの施設でも一定の品質の結果が得られるようにすることが求められます。北海道で検査を受けても東京で検査を受けても、あるいは海外で検査を受けても、適切な精度管理のもとであれば、基本的には同じ基準で評価できることが重要になります。このような標準化された検査であれば、必ずしも診療を担当する医師のクリニックで実施する必要はないとも考えられます。検査と診療を別々の場所で行うことが一般的になれば、検査機器を自院で所有することの意味も、今とはかなり違ってくるのではないでしょうか。
最後まで残るのは、対面での処置や手技ではないか
それでは、今後も実店舗のクリニックに残り続ける医療とは何なのか。私が一つの大きな要素だと考えているのは、対面での処置や手技が必要な医療です。検査については、ある程度標準化されているため、実施する場所を分離したり、外部化したりすることも可能です。一方で、処置や手術のように、実際に患者さんの身体に働きかける医療については、医師個人の技術が結果に大きく影響する領域が少なくありません。特に高度な手技を必要とする分野では、単に検査結果を確認して治療方針を決めるというだけではなく、その医師自身が持つ技術に大きな価値があります。
手術支援ロボットのダビンチなどを利用した遠隔手術の研究も進んでいます。将来的には、東京にいる医師が北海道の患者さんを遠隔で手術するといったことも、技術的にはさらに実現しやすくなるかもしれません。ただ、一般的な開業医の診療を考えた場合、こうした技術がすぐに広く普及して、対面での手技を全面的に代替するとは考えにくいところです。例えば、歯科診療はその典型です。歯科医院は競争が厳しいと言われることも多いですが、虫歯の治療や歯周病の処置、抜歯などをオンライン診療で完結させることはできません。診断や相談の一部がオンライン化されることはあっても、実際の治療を受けるためには歯科医院に行く必要があります。そういう意味では、対面での処置が必要な診療科は、オンライン診療の普及によって医療機関そのものが不要になるという事態には、比較的なりにくいのではないでしょうか。
また、美容外科などの領域についても同じことが言えます。美容医療についてはさまざまな議論がありますが、高度な技術を持った先生が、その技術によって患者さんに価値を提供しているという点については、他の診療科と変わりません。特定の先生にしかできない技術や、その先生だからこそ患者さんが希望する施術というものは、オンライン診療では代替できません。自由診療には自由診療なりの競争や経営上の難しさがありますが、少なくとも対面で実施しなければならない医療技術を持っていることは、大きな強みになります。
標準化された医療ほどAIに代替されやすいという皮肉
さらに、この問題はオンライン診療だけにとどまらず、AIの普及とも密接に関係しています。医学教育では、標準的な診断や治療を適切に行えることが重要視されます。診療ガイドラインを理解し、一般的な疾患を適切に診断し、必要な検査や薬物療法を選択できるようになることは、医師として当然求められる能力です。ただ、こうした標準化された知識や判断こそ、AIが得意とする領域でもあります。診断や治療の最終的な責任、患者さんの状態を総合的に評価する能力など、解決すべき課題は数多くありますが、今後AIの性能がさらに向上していけば、標準的な医学知識に基づいて診断や治療方針を検討する作業の一部は、ますます自動化されていく可能性があります。
そうなると、標準的な保険診療を幅広く行い、検査結果を評価して薬を処方するという診療形態は、オンライン診療とAIの両方から影響を受けることになります。特に、対面での身体診察や処置をそれほど必要としない分野ほど、その影響は大きくなるかもしれません。本来、医師が一生懸命勉強して身につけてきた標準的な医学知識や診療能力が、技術の進歩によって自動化されやすい領域になってしまうというのは、何とも皮肉な話です。診療の標準化そのものは医療の質を担保するために重要なことです。ただ、医師個人の専門性という観点で考えた場合、標準化された知識を持っていることだけでは、将来的に差別化が難しくなっていく可能性があります。逆に、実際の患者さんを診察して得られる情報を適切に判断する能力や、身体診察、処置、手術など、その場で医師が介入することに価値がある分野は、比較的代替されにくいのではないでしょうか。
数年後のクリニック経営は大きく変わっているかもしれない
今回は、ミニマム開業がオンライン診療に代替されるのではないかという話から始まりましたが、考えていくうちに、もう少し大きな問題にまで話が広がってしまいました。安定した慢性疾患の管理はオンライン診療に移行しやすく、急性疾患についてもオンライン診療で完結する患者さんが増える可能性があります。さらに、OTC医薬品や家庭用検査キットの普及によって、オンライン診療そのものが不要になるケースも出てくるかもしれません。そして、もし検査だけを実施する拠点が広く普及するようになれば、ミニマム開業だけでなく、一般的なクリニックの経営にも大きな影響が及ぶ可能性があります。すべての医療がオンラインに代替されるとは思いません。対面での診察や処置を必要とする患者さんは今後もいらっしゃいますし、実際に患者さんを診察し、必要な医療につなげていく地域のクリニックの役割も重要です。ただ、その中で、どの部分に患者さんがお金や時間をかける価値を感じるのかという点は、これから大きく変わっていくのではないでしょうか。
そして重要なのは、すべての患者さんがオンライン診療に移行する必要はないという点です。例えば、これまで10人来院していた患者さんのうち、2〜3人がオンライン診療に移行するだけでも、患者数は2〜3割減少します。これだけでも、多くの診療所にとっては経営上かなり大きな影響になります。つまり、対面診療の必要性がなくなるほどの大きな変化が起こらなくても、一部の患者さんの受療行動が変わるだけで、従来のクリニック経営は大きな影響を受ける可能性があるということです。
技術の変化がどれだけ速いかは、ここ2〜3年のAIの進歩を見るとよく分かります。スマートフォンはすでに広く普及しており、多くの人がインターネットを使って予約や買い物、さまざまなサービスを利用するようになっています。一方で、医療業界には依然として紙の書類や非効率な情報のやり取りが残っており、システム同士の連携も十分とは言えません。ただ、こうした部分が少しずつ改善されていけば、現在の医療提供体制が大きく変わる可能性は十分にあります。私自身、開業してから数年が経ちましたが、その間だけでも世の中は驚くほど変わりました。開業当初には想像していなかった技術やサービスが、今では当たり前のように使われています。これからさらに数年が経過したとき、クリニックを取り巻く環境が現在とはまったく違うものになっていても、不思議ではありません。
以前から、世の中の変化が激しいということはよく言われていました。しかし、最近では単に変化が激しいというだけではなく、人間がその変化についていくこと自体が難しくなるほど、技術の進歩が速くなっているように感じます。ミニマム開業は、初期投資や固定費を抑えながら診療を続けられるという点で、ひとつの経営形態だと思っています。ただ、それが今後も同じ形で通用するとは限りません。オンライン診療やAIなどの技術が普及していく中で、クリニックが提供する価値そのものを、改めて考えなければならない時代に入っているのかもしれません。私自身もミニマム開業を実践している立場ですので、この変化を決して他人事とは考えていません。今後の医療環境がどのように変わっていくのかを見ながら、自院の診療形態についても、その都度考え直していく必要があると考えています。
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