開業するにあたり、レセプト業務については、先生はどのようにお考えでしょうか?ほとんどのクリニックでは、レセプトを専門で行う事務スタッフさんがいて、全面的にお任せするケースが多いと思います。それが王道であり、医師は基本的に診療に集中するのが一般的です。私もある程度の規模や、患者さんが多くみえるクリニックであればその方が合理的であり、良いと思います。
しかし私はレセプト専属の事務さんを雇うことが、開業時には現実的に不可能でした。(今でも不可能ですが)そこまでの資金的な余裕がなかったためです。雇えないのであれば、自分でやるしか選択肢がありません。悪戦苦闘しながら自力で勉強し、開業前になんとか最低限のことだけできるようになり、あとは現場で実践で覚えていきました。日々のレセプト業務を医師が行っているクリニックはかなり稀であると思います。今回はクリニックにおけるレセプト業務について考えてみます。
できることを絞る
当院はミニマムな形態なので、必然的にできる検査や処置は限られます。そのためレセプトについてもかなり限られた項目になり、全てを把握する必要はありません。パターンを覚えておけば、おおむね自力でもなんとかなることが、実際にやってみると分かってきました。できること、操作を絞って行うことで、先生も自力で行うことは不可能ではなく、現実的に可能だと思います。
しかし見落としも相当あった。
しかしながら開院した初年度は、かなり見落としや、算定漏れもありました。本を読んで勉強はしていたものの、やはり完璧ではありません。特にCOVID-19については、情報が流動的で、陽性者の加算に関する見落としは非常に痛かったです。救急医療管理加算1が、私はクリニックでも算定できることを知らず、点数も大きかったため、該当するレセプトを一度取り下げ、再請求することになりました。数百人におよぶレセプトの取り下げの資料を作り、再度請求をし直すのは非常に負担が大きかったです。当然私一人で行いました。手痛い失敗でした。
保険医協会に聞くと色々と教えてくれます
別記事でもご紹介しようと思いますが、民間の保険医協会という組織は、レセプトを始め、クリニックの運営にかかわる相談に色々と乗ってもらえます。開院当初はコストカットに躍起になっていたので、入会しておりませんでしたが、上記のような失敗もあり、入会しました。入会すると特に回数制限などもなく質問ができるので、非常に助かっています。診療報酬の解釈や、臨時の補助金などの情報も適宜もらえるので、見落としがなくなり、一人で抱え込まなくても良いということでストレスも減りました。
レセスタの活用
レセプトは月初に前月分をオンライン請求にて行いますが、請求前に一通りチェックします。電子カルテで病名など、ある程度はチェックしてくれますが、細かい算定漏れまでは見てもらえません。レセプトの算定漏れについては専用ソフトを使うのが便利です。当院はレセスタというソフトを使用していたことがあります。これも見落としの件があってから、営業さんからキャンペーンのご提案もあったので、1年間だけ導入しました。レセスタ自体は見やすく、使いやすくて良かったと思います。コストとの折り合いが合えば、使い続けたと思います。しかし当院では規模が小さいのでコストが無視できず、また1年も使っていると、ほとんど見落としで指摘されることもなくなりましたので、今は使用していません。
多少算定を間違えても、修正していけばいい
はじめから完璧にレセプト業務を行うのは、ベテランの専門スタッフを雇用する以外では難しいと思います。事務さんを雇っても経験が少ないケースでは見落としが生じるのはやむを得ないと思います。私としては、最初から完璧を目指すのではなく、運用していく中で、勉強を続けながらトライアル・アンド・エラーで修正していく方がいいのではないかと思います。
事務さんがいなくてもクリニックを回せることは、かなり精神的に安定する
特に小規模のクリニックでは、レセプトができるスタッフさんを何人も雇用するのは難しいのではないかと思います。またレセプトができるスタッフさんが急病などでお休みになった場合、最悪クリニックを開けることができないケースも想定されます。急な退職となった場合はなおさらです。
しかし先生がレセプト業務を行うことができれば、クリニックを回すことは可能です。平時はお任せするとしても、緊急時には対応できるようにしておけば、精神的にも楽であると思います。
ご自身でレセプトができると、結構役に立つ
先生ご自身がレセプトに精通すると、収益的にも有効です。月に一度しかとれない算定項目や、加算がとれる疾患、すぐに治癒にはできない疾患など、レセプトを意識した診療を行うことで、保険診療での収益を最大化することができると思います。細かなことでは一般名処方加算がとれる薬、そうでないものなども意識すると、収益が変わってきます。
最終責任者は先生
レセプトについても、専門の職員にお願いしている場合も、最終的には先生が責任者になります。厚生局の新規個別指導でも、レセプトを医師がチェックしているか聞かれました。私しか出来る人がいないので、すべて私が行っているとお伝えしたら、想定外だったのか、厚生局の技官もやや困惑していましたが。。。最終的には心配までされました。。。
在宅はかなり複雑
在宅は私はほとんど手を付けていないので、詳しいことは分からないのですが、一般的な外来診療よりもルールが複雑怪奇です。もし在宅を中心に行う先生は、上記のレセスタや、場合によっては在宅のレセプトの相談にのってくれる会社に相談するのも現実的かと思います。とにかく複雑なので、間違って多く請求してしまい、万が一後になって返還を求められるようなことがあると、かなりの痛手になり得ます。
実際の運用
私のクリニックでの実際の運用についてご紹介します。当院は電子カルテはエムスリー社のM3 DigiKar(以下デジカルと記載)を使用しています。初診、再診のカルテのセットを組んでおき、問診のカルテ引用も含め、数クリックで大まかなアウトラインは完成します。またデジカルには自動算定機能があるので、こちらが重宝します。完璧ではないものの、かなり助けになります。
わたしは患者さんの予約が入った時点で、ある程度のカルテは作成しておきます。内服薬など診察で決めるものを入力したあとは、自動算定でチェックして、これでもうレセプトは終了し、患者さんの会計に移れます。慣れると1分もかかりません。ほぼ一瞬でレセプト業務は完了します。事務さんを挟まないので、その分時間をカットできて、ほぼ待ち時間なしで会計に呼ばれるので、患者さんからもご好評です。私が患者さんに処方箋をお渡しするタイミングで終了しています。あとは自動精算機での精算で患者さんはすぐに帰れます。慣れてしまうと本当に通常の流れでできるようになると思います。