これから開業しようと考えている先生の中には、午前中は休診にして、午後から夜の比較的遅い時間まで診療するという戦略を検討されている先生もいらっしゃると思います。
一見すると、仕事帰りの患者さんを取り込めるため、合理的な診療時間のようにも思えます。しかし、私はこの戦略については、少し注意が必要ではないかと個人的に考えています。
今回は、午前を休診にして午後から夜まで診療するという戦略について、私なりの考えをお話ししていきます。
午前中の受診件数が多い
私も診療所を開院してから初めて知ったことですが、実際には午前中に受診される患者さんの数が圧倒的に多いです。私は開院当初、通常どおり午前診療を行い、午後も夜19時まで診療していました。開業当初の私の個人的な予想では、17時から19時頃が最も受診件数の多い時間帯になるのではないかと考えており、場合によっては夜間診療をさらに拡張することまで検討していました。しかし、実際に診療を始めてみると、意外にも午前中の受診件数の方が圧倒的に多いという結果でした。
午後にも患者さんは受診されますが、夕方から夜の遅い時間帯に受診される患者さんは、私が想定していたほど多くありませんでした。むしろ夜の時間帯には手が空いてしまうことの方が多い状況でした。もちろん、クリニックが地域で認知されるまでには時間がかかるため、開院当初だったことも影響していた可能性はあります。その後家庭の事情もあり、診療時間を短縮したため現在は夜間診療を行っていませんが、午前中の方が圧倒的に患者さんが多かったことは、本当に意外でした。
ほかの先生方に話を伺っても、午前中は圧倒的に忙しく、午後は比較的ゆっくりしている日もあるという話を耳にします。もちろん診療科や立地、患者層による違いはあると思いますが、午前中に受診が集中しやすいことは、比較的広く見られる傾向なのかもしれません。
COVID-19が落ち着いた後も午後は少なめ
私が開院した当初は、COVID-19の流行によって社会全体が混乱していた時期でもありました。そのため、午前中の受診件数が多いのは、風邪症状や発熱に対して世の中が過敏になっていたことも影響しているのではないかと考えていました。COVID-19の流行が落ち着けば、患者さんの受診時間も午後に分散してくるのではないかと思っていたのです。
しかし、COVID-19がある程度落ち着いてからしばらく経った現在でも、やはり午前中の受診件数の方が多い状況は変わっていません。午後は比較的空いており、時間に余裕ができることも少なくありません。実際に診療を続けてみて、外来診療とはこういうものなのかもしれないと感じています。思い返してみると、病院に勤めている時代も、午前中の診療の方が忙しく、午後や夜診の場合は比較的余裕があったように記憶しています。
特に、風邪やインフルエンザなどの急な体調不良の場合には、午前中のうちに診察を受け、早めに薬をもらって、その後は自宅で休みたいという意図が多くの方にあると思います。感冒症状の患者さんや発熱患者さんを診療する予定の先生は、午前中に外来を開けておくことが、戦略上も重要ではないかと考えています。
夜間診療を行う上での注意点
夜間診療には、実際に行ってみて初めて分かる注意点があります。もちろん開業する地域にもよりますが、昼間と比べて防犯面や患者対応の面で、やや注意が必要になる可能性があります。夜間に受診される患者さんの多くは、仕事などの事情で昼間に受診できない方ですが、昼間とは異なる対応が必要になるケースも一定数みられます。
私が夜の比較的遅い時間まで診療していた頃には、昼間とは少し異なる患者層が来院され、対応に苦慮する場面もありました。大きなトラブルに発展したわけではありませんが、院内の雰囲気がやや荒れたり、通常より慎重な対応が必要になったりすることがありました。これは、実際に夜間診療を行ってみなければ見えてこない問題の一つだと思います。
先生方も、当直中の救急外来などで、夜間特有の患者対応を経験されたことがあると思います。イメージとしてはそれと似ていると思います。もちろん救急外来と一般のクリニックでは事情が異なりますが、夜間診療を検討する際には、患者数だけでなく、防犯体制やスタッフの安全、トラブル発生時の対応についても考えておく必要があります。
人材確保の問題
夜の遅い時間まで診療する場合、人材の確保が大きな課題になる可能性があります。特に医療事務や看護師は、家庭を優先しなければならない年代の方も多く、夜までの勤務がネックになることがあります。多少給与を上げたとしても、勤務時間そのものが条件に合わず、なかなか人材を確保できないという問題が出てくるかもしれません。
それほど規模の大きくないクリニックであれば、夜間勤務が可能なスタッフを数人確保することで対応できる可能性もあります。一方で、検査機器を多くそろえ、ある程度の人数がいなければ診療を回しにくい規模で開業する場合には、夜間のシフトに入れる人材を継続的に確保する必要があります。そのため、夜間診療を前提とした開業では、患者さんの需要だけでなく、必要な人数を採用できるか、無理なくシフトを組み続けられるかという点も、事前に十分検討しておく必要があると思います。
夜診に特化するクリニックもある
一方で、夕方以降の需要に絞り、17時頃から22時頃までなど、夜の時間帯だけを狙って開院するクリニックもあるようです。これはこれで、戦略としては十分にあり得るのではないかと思います。もちろん、私自身が実際に夜診特化型のクリニックを運営しているわけではないため、その効果について断定することはできません。しかし、「夜間診療に特化したクリニック」として地域に認知されれば、一定の患者さんの需要を満たすことはできると思います。実際、仕事を終えてから受診したいという社会人の方は、かなりの数いらっしゃるはずです。一方で、世の中のクリニックの多くは18時頃、遅くても19時頃には診療を終了するため、受診したくても受診できない方もいらっしゃると思います。
例えば、風邪症状があるものの、仕事が忙しく、日中には医療機関へ行けなかった方が、帰宅途中に受診するという需要が考えられます。また、日中の定期通院が難しい方が、高血圧や高脂血症などの薬を定期的に処方してもらうために受診するという需要もあるでしょう。そのような患者さんを対象とするのであれば、夜診に特化したクリニックにも一定の可能性があるのではないかと思います。
開業戦略として考えると、日中から夕方まではほかの医療機関で勤務し、夕方から夜にかけて自分のクリニックを診療するという方法も考えられます。給与所得を確保しながら、自分のクリニックも運営できれば、経済的な基盤はかなり安定します。もちろん、先生自身の体力や勤務の継続可能性には注意が必要ですが、給与所得とクリニック収入の両方を得られるため、開業初期の経営リスクを抑えやすい形ではあると思います。
また、昨今はさまざまな物価が上昇していますが、診療時間を夜間に限定すれば、スタッフを長時間配置する必要がなくなり、人件費を診療時間に合わせて絞ることができます。夜間に勤務できる人材の確保は、上記のように通常の時間帯よりも難しくなる可能性がありますが、最小限の人数で運営するミニマムなクリニックであれば、現実的な選択肢になり得るのではないかと考えます。
ただし、この戦略にも将来的な不確実性があります。オンライン診療が今後さらに全国的に普及すれば、患者さんが夜間にわざわざクリニックへ足を運ぶのではなく、オンラインで診察を受けて薬を処方してもらう方向へ移行する可能性があります。もっとも、これは夜診に特化したクリニックだけの問題ではありません。オンライン診療が一般化すれば、日中に診療している通常のクリニックについても、患者さんの受診行動が変化し、経営環境が厳しくなる可能性はあるのではないかと私は考えています。
午前休診は慎重に検討した方がよい
一般的な内科クリニックとして開業するのであれば、午前中を休診にして午後から夜だけ診療するという形は、慎重に検討した方がよいのではないかと思います。私自身の経験では、開業前の予想とは異なり、夕方や夜よりも午前中の受診件数の方が圧倒的に多かったためです。
もちろん、診療科や立地、対象とする患者層によって事情は異なります。オフィス街や駅前などでは、夕方以降の需要が大きい地域もあるでしょう。また、最初から17時から22時までなどの夜診に特化し、地域で明確に認知されるのであれば、それは一つの開業戦略として成立する可能性があります。
ただし、夜間診療には、患者数だけではなく、人材確保、防犯面、スタッフの安全、医師自身の体力、オンライン診療との競合など、昼間の診療とは異なる課題があります。単純に「夜まで開ければ患者さんが増える」と考えるのではなく、地域の需要と運営体制を十分に確認した上で、診療時間を決めることが重要だと思います。
