開業後およそ一年経過したところで新規個別指導があります。新規開業の先生がストレスに感じる手続きの一つだと思います。今回は当院での経験と対策方法についてご紹介していきます。

新規個別指導の通知

地域にもよるとのことですが、開業してから一年ほど経過したところで行われるようです。ある時、クリニックに特定記録の郵便が厚生局から届きます。私の場合は1ヶ月弱前に新規個別指導の日程通知が来ました。こちらの日時は基本的にはずらせません。予約枠を先まで開放していて、すでに患者さんの予約がある場合は、結構困ることになると思います。

新規個別指導対象となるカルテの通知

上記の通知とともに、新規個別指導の対象となるカルテが10人分通知されます。対象となる患者さんは、特定疾患の患者さん、緊急往診をした患者さん、訪問診療をした患者さん、COVID-19関連の患者さん、皮膚疾患の患者さんなど、バラエティに富んでいます。

こちらの通知を受けた患者さんについては、開業時から直前の診療まで全てのカルテを印刷して持参します。診療情報提供書や訪問診療の同意書などの書類も非常に重要です。今から開業する先生は、生活習慣病療養計画書の書類も重要になります。これらは一つでも忘れると、実際は存在しても、ないものとして扱われてしまいます。

また必要な書類は通知書に書いてありますので、忘れずに持参してください。意外なところでは薬局卸さんから買った備品の証明になる書類も求められました。忘れがちなのは、院内掲示している書類です。これは算定する項目によっては、掲示が必須になっている場合もあるので、必ずチェックしてください。

新規個別指導当日の流れ

私の場合は、平日の午後からだったので、午後休診にして臨みました。会場が大部屋の会議室で、他の医療機関と合同で行われるので比較的ざわざわとしています。一つの机に、厚生局の技官一名、司会役の人が一名で相手側は合計2名でした。クリニック側は、私のように一人の場合もありますし、職員さんと2人で来ている人もいました。

時間としては全体で60分くらいだったと思います。まず軽く自己紹介を行い、すぐにカルテのチェックに移ります。実際はほとんどの時間がカルテのチェックです。カルテについて技官と問答している間に、司会役の方が他に持参した資料を軽くチェックしていました。前述した卸からの納品書はあればよいみたいで、有無のみチェックして、詳しくはみていなかったようです。

カルテは10人分ですが、一人一人かなり詳しくチェックしています。向こうはカルテ初見ですが、レセプトの資料を用意して、それと照らし合わせながらカルテ記載を詳しくチェックしていました。カルテはいわゆるカルテ記載だけではなく、病名や症状詳記もみています。また診療情報提供書や訪問診療同意書なども必ずチェックされるので、こちらも絶対に印刷を忘れないようにしてください。印刷を忘れてしまうと、ないものとみなされ、診療報酬の返還を求められます。

一人にかけられる時間はだいたい5分ほどです。その間に色々と質問をされ、それについて答えていきます。あっさり終わる患者さんもいれば、長めに問答する患者さんもいます。ただアラを探しているだけではなく、この記載は良い等のフィードバックもあります。先程の特定疾患に関する指導内容が毎回すこし変わっていることについては、コピペになっていないので良いとも言われました。わりとポジティブなフィードバックも多かったのは正直意外でした。

しかし中には厳しく指摘されたこともあります。執拗に言われたのが往診のカルテです。往診が患者の要請により行われなければならず、その記載が見当たらないということをやたら気にしていました。それは私もうっかりしていたので、たしかに向こうの言う通りです。しかし返還を求められるまではなく、以後気をつけて下さいで終わったので、事なきを得ました。

私の場合、最初に色々細かいことも指摘される患者さんが多かったので、どうしたものかと心配しましたが、後半はわりとスイスイと順調にいく患者さんで、全体的にはまあなんとかという感じでした。他の先生の経験をきくと最初にコケると結構面倒なことになると聞いていたので心配しましたが、終わり良ければ全て良しです。

忘れ物をすると、かなりやばい

ちなみにですが、カルテなどの重要なものを忘れると、その時点で審査が中止となり、自動的に再審査になることもあるらしいです。再審査になると、とんでもないことになります。通常よりもチェックされるカルテ数も多くなり、チェックも厳しくなります。絶対に避けなければなりません。

後述しますが、持参物も含めて保険医協会にチェックしてもらいましょう。

こちらの分もカルテコピーは持参する

電子カルテのコピーは向こうに渡してしまうので、こちらも話についていくためにも持参したほうがよいです。こちらの分はカルテには付箋やメモ等があっても、もちろん大丈夫です。

カルテは開業してからの記録を全てみられる

カルテですが、直近の数ヶ月分などではなく、開業してから直近のカルテまで、全てをチェックされます。特に開業当初から高血圧症等で通っている患者さんの場合で一ヶ月毎に受診されるような方の場合、10回分以上の受診の記録を提出します。むしろそういう患者さんを狙って指定されます。

私は相手の動向も観察していましたが、記載は初診から全て細かくみていました。特に特定疾患の記載については、内容まで全てみていました。内容がコピペで毎回同じになっていないかを厳しくみています。指導内容が似通うのは、それは医学的にも妥当な場合もありますが、全く同じ文言でコピペでは指摘されます。これは本当に注意してください。

たとえばの例ですが、塩分制限を指導する場合も、「塩分6gに制限」などを毎回書いていると指摘される可能性があります。医学的には妥当でも、毎回同じ内容ではコピペでしっかり指導を行っていないとみなされる可能性があるからです。

この場合は、
「塩分6gを目標にします。そのために、調味料を使いすぎないように注意してください。」
「塩分6gを目標にします。そのために、味噌汁、スープは一日一杯までにとどめて下さい。」
「塩分6gを目標にします。そのために、漬物など塩分が多い食事を避けて下さい。」

などと目標は同じでも、毎回指導内容を少しずつ変えて工夫すれば、厚生局の技官もさすがにケチのつけようがありません。ここまでやれば、誰がどうみても毎回適切な食事指導を行っているとみなされ、査定されることはまずないでしょう。

血液検査結果もカルテへ引用する 

検査結果ですが、電子カルテだと、検査結果の項目でみられるので、カルテにわざわざ引用しない先生もみえると思います。しかし新規個別指導のカルテでは、O) の項目で、代表的な血液検査の結果を引用したほうがよいと思います。技官にもよるのかもしれませんが、私の場合は、結果も全てカルテに転記しているかをチェックしていました。

診療情報提供書もカルテ引用 

上記と同様ですが、診療情報提供書も別ファイルに保存しているだけでなく、カルテにも内容を転記しておく方が安全です。こちらは、「医科診療報酬点数表に関する事項」にも根拠があります。(参考記事→「医科診療報酬点数表」、「医科診療報酬点数表に関する事項」について

B009 診療情報提供料(Ⅰ)

(3) 紹介に当たっては、 事前に紹介先の機関と調整の上、 下記の紹介先機関ごとに定める 様式又はこれに準じた様式の文書に必要事項を記載し、 患者又は紹介先の機関に交付する。 また、 交付した文書の写しを診療録に添付するとともに、 診療情報の提供先からの 当該患者に係る問い合わせに対しては、 懇切丁寧に対応するものとする。

医科診療報酬点数表に関する事項より引用

上記のように、文書の写しを診療録に添付するとあります。これは電子カルテの場合、解釈が厄介です。ファイルに文書として別途保存しても、診療録に添付と解釈できますが、カルテ記載も併せてしなけばならないと言われれば、そのように解釈できないこともないです。迷うときはカルテにも転記しておいたほうが安全です。電子カルテではコピペですみますから、この程度の手間は惜しまない方がよいでしょう。

ちなみに診療情報提供書の本体(もちろん印刷したコピー)を忘れると、たとえカルテ記載をしていても、ないものと扱われます。絶対に忘れないように注意してください。

カルテの修正は許されるのか?

これは非常に微妙な問題です。先生の中には本来のままでカルテをみてもらい、審査をしてもらうのが筋だと考えるかもしれません。本来はそれが筋であると私も思います。しかし日常の診療で、実務上全てのカルテを完璧にしておくことは不可能です。無作為に選ばれたカルテの中で、改めて読み直してみると、穴がない先生はいないでしょう。

もちろんカルテの改竄はいけませんが、新規個別指導までにカルテの体裁を整えて望むことは、現実的な方法であると思います。これから審査を受ける先生は、ほとんどが電子カルテであると思いますが、私が受けた審査では、最終的に印刷したカルテしか審査の対象にせず、過去に遡ってまで記録をみられることはありませんでした。(※今も同じかどうかはわかりませんが。)

そのため、「カルテに記載し忘れていたことに、後から気づいた先生が、その部分を審査までに付け足す」ことをしても、過去の記録まで遡らない限りは、向こうにはわからないことになります。

たとえば生活習慣病に関する食事、運動指導を先生は患者さんに行ったにもかかわらず、「たまたま記載することをうっかり忘れていた場合、その指導内容を思い出してカルテ記載をする」行為自体は、なんら違法ではなく、むしろ適正な医療記録のために必要な行為です。先生が勤務医時代にも、記載を忘れていたことに気づいた場合、その都度カルテに付け足すことは普通に行っていたと思います。

しかし、実際には食事、運動指導などしていないにもかかわらず、審査に通るために、実際には行っていないことを、あたかも行ったかのように記載することは、不正であり違法です。それは倫理的にも、法的にもまずいので絶対にやめましょう。

実務上の話をすると、これから新規開業する先生は、ほとんどの場合、レセプトについてもかなり勉強してから開業する先生が多いので、必要な指導等そのものをやっていないケースはないと思います。しかし実際には行っていても、カルテ記載を忘れてしまう、以前のカルテを引っ張って、実際に話した内容を加筆することを忘れてしまう、等のことはあると思います。審査対象になるカルテにおいて、その部分の修正は許されるのではないかと私は思います。

結構多いのは、普段生活習慣病で通院されている患者さんが、発熱外来を受診し、しかも生活習慣病に関して、内服や食事について臨時で指導を行った場合です。たとえば普段運動を指導している患者さんが、インフルエンザに罹患した場合、軽快するまではどう考えても運動は適切ではありません。むしろ中止して、食事も食べられるものを無理なくと指導するでしょう。このようなイレギュラーなケースだと、指導は口頭でしっかり行ったものの、カルテ記載を忘れてしまうことは結構あります。これは結構ありがちなパターンなので注意してください。

チャンピオンカルテを作成する

実務上は、指定された患者さんのカルテに関して、こちらが考えうる全ての穴を塞いで、完璧と思える状態で臨むことになると思います。それでも思いも寄らない方向から指摘されるのが新規個別指導の恐ろしいところです。こちらに穴がみえるような状態のカルテで臨むと、間違いなくボコボコにされ、最悪の場合再審査になるリスクがあります。できることは、すべておこない、完璧な状態で臨む。そのために完璧なカルテ記載と、必要書類を用意する。審査のためにこのような対策を講じて用意したカルテを「チャンピオンカルテ」なんて表現したりしますが、まさにその状態で挑む必要があります。

私が指摘されたこと

私が指摘されたことについて以下にご紹介します。

往診の患者について

往診については、患者からの求めに応じて行わなければならず、なおかつその記載がカルテにしっかりとなければならないという指導を受けました。また外来受診が困難であり、往診をする必要性があった記載も必要です。往診カルテについては、これらを記載する必要があります。

具体例には、「202X年10月1日、11時09分、患者から入電あり。高熱にて歩行困難で、患者より往診の依頼あり。電話越しでの患者の状態から、医師が往診の必要性を認め、患者同意のもと往診を行う方針とした。」とまで書いておけば、まずこちらについては問題ないと思います。

あと特定疾患や生活習慣病療養計画等も同じですが、カルテの記載に埋もれて書くのではなく、後で誰がどうみても明確になるように記載するほうが良いです。この場合は——で区切って、カルテの冒頭に、

——————————————————————————–
【往診根拠】
202X年10月1日、11時09分、患者から入電あり。高熱にて歩行困難で、患者より往診の依頼あり。電話越しでの患者の状態から、医師が往診の必要性を認め、患者同意のもと往診を行う方針とした。
——————————————————————————–

と書いておけば、厚生局の技官もわかりやすく、ケチのつけようがありません。しかもこのように必要な記載を分離して書くように習慣化しておくと、先生も記載を忘れにくくなるので、先生にもメリットがあります。これはすでに行っている先生も多いかと思いますが、オススメのカルテ記載テクニックです。

皮膚疾患の病名には部位をつける、また塗布部位もしっかり記載

皮膚疾患は、「湿疹」などの病名でレセプトを出してしまうケースもあるかもしれませんが、これは危険です。皮膚疾患については、必ず部位を病名記載する必要があります。電子カルテの病名チェッカーでも、部位の記載有無はひっかけないので、こちらについては十分気をつける必要があります。

たとえば、下腿湿疹で、リンデロン-V軟膏0.12%を処方する場合、「ひだり下腿湿疹」など、左右の記載が必要です両側ならそのように書きます。私は左右の記載を忘れていて、その点を指摘されました。

また外用薬を処方する際も、部位の記載が必要です。「患部に塗布」だけでは認められず、必ず具体的に、「ひだり下腿のあかいところに」などと、具体的に記載が必要です。実務上は、電子カルテで塗布部位を選ぶのは面倒なので、「患部に塗布」ととりあえず入力しておいて、コメントで具体的に部位を指定する方法が良いと思います。

皮膚疾患でこれらのことを忘れないようにするためには、セットを組んで置くことがオススメです。よく使うヒルドイドクリーム0.3%などは、セットで病名に「両側四肢体幹顔面皮脂欠乏症」などと組んでおき、不要なものをカットするようにしています。また塗布部位も、「塗布部位:両側四肢、体幹、顔面に塗布」ともうあらかじめ組んでおき、不要なものをカットするようにしてミスや手間を減らしています。M3 DigiKarはこれらのことができるようになったので、結構使いやすくなりました。他社製でも同様のことは可能であると思います。

心不全は急性か慢性か?

心不全などの急性、慢性がある病気についてはこちらについても記載するように指導がありました。クリニックでは殆どの場合は、慢性心不全だと思いますが、こちらも明確に記載する必要があります。こちらは病名チェッカーでも漏れやすく、意外な盲点だと思いますので、注意してください。

保険医協会と対策を練る

これらの新規個別指導の対策ですが、自力だけで行わず、可能な限り各県の保険医協会に協力を依頼することをおすすめします。保険医協会は有料の民間組織ですが、私は開業してから、新規個別指導を乗り切るまでは入る価値が非常に高いと思います。もちろん新規個別指導後も色々と質問できるので助かります。

新規個別指導の連絡が来たらすぐに保険医協会に連絡しましょう。すると日程を調整して、後日カルテや持参物を全てチェックしてくれます。カルテは本番同様、すべてコピーして持参します。これを保険医協会の職員さんと、提携している開業医の先輩の先生が、細かくチェックしてくれます。これは本当に助かりました。これがなければ下手すれば落とされていたかもしれないと思うほどです。

明らかなミスは返戻 

私は実際に返戻を求められたカルテは1つだけで、それは明らかな単純ミスで、とある項目が二重請求になっていたものなので、向こうの指導に応じました。厳し目に指摘された項目も、意外にも返戻までは求められず、以後気をつけてくださいで済んだのでそれは幸いでした。

まとめ

新規個別指導は開業して、激動の初年度目を乗り切った頃の最後に現れる難関であると思います。平時から適正な保険診療に取り組み、カルテ記載や書類の整理もこまめに行っていれば、大きな問題は生じないと思います。しかしどんな先生も最後に追い込んで、完璧な状態で臨むことが重要です。

今の時代、対策を取らないで新規個別指導に臨む先生はまずいません。そして様々な情報が公開される世の中ですから、ほとんどの先生が対策を講じるようになり、その結果、新規開業の先生の平均的なレベルは上がっていると思われます。例えが適切か分かりませんが、中学受験の難易度が年々上昇するような現症と似ています。そのためどんなに普段から適正な医療を行っている先生でも、完璧と思える対策を講じて挑む必要があります。

しかし元々の新規個別指導の主眼は、適正な保険診療の運用を促すことで、新規開業の先生をいたぶるためのものではありません。上述のように厳しい指摘だけではなく、ポジティブなフィードバックもあります。適切な対策を講じて臨めば、過度に恐れるものではないと思います。

新規開業の先生はこれを乗り切れば、とりあえずは一区切りです。今回の記事は全ての網羅しているわけではないので、私としては保険医協会と万全の対策を講じていただきたいのですが、少しでも参考になれば幸いです。