開業医はスタッフを雇用する立場になると、スタッフには、常勤、非常勤、パート、アルバイトなど、勤務形態を問わず有給休暇を与えなければなりません。労働基準法が改正され、年間10日間以上の有給休暇を付与された場合は、5日は取得が義務化され、悪質な違反の場合は、罰金を伴う厳しい罰則が課されるようになりました。時代の流れ的には、労働者の権利意識が強くなり、雇用する側の先生は大変な時代です。今回は有給休暇について、雇用する側の立場、雇用される側の立場、両方の側面から考えて行こうと思います。
先生は有給など取れなかったかもしれませんが、、、
医師である先生は、病院に勤務されているときは、有給休暇はおろか、休みもまともに取れずに働らかれていたかと思います。そのような環境で仕事をされていた先生からすると、有給休暇をとるなど、ありえないとお考えになるかもしれません。先生が今まで行ってきた激しい仕事環境からすると、そのようなお考えになるものやむを得ないと思われますし、痛いほどお気持ちは推察できます。しかしながら、先生がクリニックでスタッフを雇用する立場になった場合、そのようなことをしてしまうと、最悪法律で処罰を受ける可能性があります。またそのような環境では、スタッフが定着しない原因になります。近年は労働者の権利が強くなり、権利をしっかりと主張する空気が出てきています。この流れに逆行することは、現実的でないと思われます。
そもそも大前提として、有給休暇はあらゆる労働者に対して付与される権利です。労働基準法で保証されたものであり、たとえ先生のクリニックで就業規則に定めなかったとしても、全く効果はありません。全てにおいて法律が最優先されます。
また有給休暇を取得するために理由は不要です。家族のやむを得ない事情や、本人の病気などなら休める、、というような職場を聞いたことがありますが、これは完全に違法です。大前提として有給休暇は権利です。遊びに行く、休みたいからなど、どのような理由であっても取得できます。そもそも雇用者は労働者の有給休暇の理由を聞くこと事態が違法に近い行為であると思われます。(この辺は専門家でないのではっきりとは言えませんが。。)
有給の付与日数
労働者の有給休暇の付与日数についてみていきます。厚生労働省のサイトがまとまっているので参照してください。
細かい条件などは、資料もご参考にして頂くとして、こちらでは付与日数の一覧表をご提示して考えてみます。
こちらによると、週5日の常勤職員の場合は、入職してから半年後に、なんと10日間も有給休暇が付与されます。そして、さらに1年経過して、入職から1年半経った時点では、さらに11日の有給休暇が付与されます。もし前回分の有給休暇をしようしていなければ、なんと21日です。かなり大きいと思います。
有給休暇は以降、1年毎の付与になりますが、年々日数は増えていき、6年半経過した時点では、1年間に20日もの有給休暇が付与され、それ以降も毎年20日の付与になります。非常にざっくり言うと、月の平均勤務日数は20日ほどなので、1年間のうち、なんと1ヶ月は事実上休暇のような状態になります。これはどんな職種、業種をとわず、全労働者に平等に与えられた権利です。そのように考えると、労働者の権利がいかに強力かということがわかります。
また常勤以外のたとえば週一で勤務してくれるパートさんにも有給休暇はしっかりと発生します。一応年10日未満の付与の場合は、取得させないと罰則を伴うようなことは、今のところ無いようですが、労働者の方から有給休暇を取得したいという申し出があった場合、先生は断ることはできません。法律で決まった付与日数については、労働者から申し出があった場合は、フルで取得させることが必要になります。
有給休暇を時給換算で考えてみる
ここで一つの例を考えてみます。週3日、午前中のみ、パートで勤務してくれるスタッフに有給休暇を含めて考えた場合の時給について考えてみます。一日の労働時間を3時間と仮定します。一ヶ月の労働日数は、概算で週3日×4週=12日として考えてみます。その場合、12日×12ヶ月で、一年の総労働日数は、144日となります。
この方の一年間の給与は、1200円 × 3h × 144日 = 518,000円となります。
先にお示しした有給休暇の付与日数によると、この方の場合、勤務6ヶ月の時点で、5日間の有給休暇が付与されます。この方の日給は1200円 × 3h = 3600円となるので、有給休暇をお金に換算して考えると、3600円 × 5日 = 18000円となります。
仮に有給休暇を1年間の間に使ったと仮定すると、こちらの方の実質の勤務日数は、144日 – 5日 = 139日となります。年間の給与から、有給休暇を考慮した時給を計算すると、518,000円 ÷ { 1200円 × 3h × (144日 – 5日) } = 1243円となります。なんと有給休暇を考慮すると、事実上時給が43円もアップしていることになります。
また表にあるように、年々有給休暇の付与日数は増えていきます。仮に6年半以上勤められている場合、毎年11日の有給休暇が付与されます。この場合は、518,000円 ÷ { 1200円 × 3h × (144日 – 11日) } = 1299円!となんと100円近く時給が実質的にUPしている計算になります。なかなか恐ろしいものです。
ちなみに今回と少しテーマがずれますが、5年以上勤められたパートさんは、求められた場合、有期契約から期間の定めの無い契約に移行する義務が生じてきます。
(参考記事→有期契約の職員も長く勤めれば、無期契約に移行しなくてはならない。)
私はスタッフさんに、有給休暇は積極的に取るようにお願いしています
当院も事務スタッフさんに、業務をサポート頂いておりますが、有給休暇については、日数や権利について明確にお伝えし、付与された日数についてはすべて取得頂くようにお願いしています。やはり労働者の立場である場合、中には言いにくいという方もみえると思います。そのような空気にならないように、付与日数を記載した資料を有給休暇付与のタイミングでお渡しして、給与明細にも残日数を記載するなど、なるべくわかりやすくなるように心がけています。わたしとしては、有給休暇も含めて給与を計算しているので、取得は大前提と考えています。
そのように労働者に対する権利をしっかり遵守している職場環境であることをお示しすることは、働きやすさを整える意味でも重要なひとつの要素であると考えています。
先生が非常勤でも働かれている場合、先生も有給が取れます
ちなみにですが、このサイトでも以前ご紹介したように、先生が開業医と併せて、非常勤でアルバイトをされている場合、先生ももちろん有給休暇を取得することが可能です。週一であっても、数は多くありませんが、しっかりと有休は発生します。先生の場合、日給が高いので、年間数日であったとしても、数十万円に相当する価値になります。これを利用しない手はありません。万が一取得できない場合は、労働基準監督署に通報すると、改善する可能性が高いです。有給が取得させてもらえない環境は、誰がどう見ても、完全に違法だからです。(逆に先生が、取得させないと、労働基準監督署に通報されるリスクがあります。)
私も開業医をやりながら、週一でアルバイトをしていますが、有給休暇はしっかりと取得させて頂いています。バイト先も私が経営者であることを知っているためか、特に有給取得に関して問題が出たことはありません。
ちなみにですが、私も自分が経営者になるまでは、非常勤でも有給休暇がもらえることは全く知りませんでした。また労働者が非常に手厚く法律や保障で保護されていることも知りませんでした。経営の勉強も、どこでどう役に立つかわからないものです。
先生の有給休暇については、関連サイトの記事もご参考にして頂ければ幸いです。本当にご存じない先生が多いので、もったいないです。ぜひ有効活用していただければと思います。
(参考記事→有給休暇は非常勤でも取れる! 有給が取れない職場は危険)