いわゆる風邪症状で受診される患者さんは、内科、小児科、耳鼻咽喉科では非常に多いと思います。また、それ以外の診療科でも、例えば整形外科を受診した患者さんから「少し風邪症状があるので薬も欲しい」と言われたり、精神科などでも風邪薬を処方したりすることは、ちょくちょくあるのではないでしょうか。

そのような風邪症候群に対して、ルーチンで抗アレルギー剤を処方している医療機関もあると思います。しかし私は、少なくとも保険診療という観点から考えると、風邪に対して何でも抗アレルギー剤を併用するのは、あまり勧められないのではないかと考えています。今回は、このあたりについて私自身の経験も含めて考えてみたいと思います。

風邪に抗アレルギー剤を出すか

多くのクリニックでは、いわゆる風邪症状、つまり咳、痰、咽頭痛などがあるときに、デキストロメトルファン、カルボシステイン、トラネキサム酸、アセトアミノフェン、ロキソプロフェンなどを比較的よく使用すると思います。先生によって使い慣れている薬も異なるため、ある程度「風邪ではこの組み合わせ」という処方セットが決まっていることも多いのではないでしょうか。

その中で結構よく見るのが、抗アレルギー剤の併用です。例えばフェキソフェナジン、レボセチリジン、オロパタジンなどが風邪薬と一緒に処方されているケースです。鼻汁やくしゃみなどの症状緩和を目的として処方したくなる場面はあると思いますし、医学的にも症状を和らげるという意味では、まったく理解できない処方ではありません。

ただ、保険診療という観点から考えると少し問題があります。一般的な感冒そのものに対して、これらの抗アレルギー剤が保険適用になっているわけではありません。そのため実際に処方しようとすると、アレルギー性鼻炎などの病名を付けることになるケースが多いのではないかと思います。もちろん、水様性鼻汁が強かったり、もともとアレルギー性鼻炎があったり、診察上もアレルギー性の機序が関与していると考えられるのであれば問題ありません。しかし、単純なウイルス性上気道炎と思われる患者さんに対して、抗アレルギー剤を処方するためだけに毎回アレルギー性鼻炎の病名を付ける、という運用には少し注意が必要だと思っています。

アレルギー性鼻炎の病名を付けることで困ることがある

ここで問題になってくるのが、急性疾患と慢性疾患の違いです。例えば9月1日に風邪症状で来院し、急性上気道炎や急性気管支炎として治療した患者さんがいたとします。その後症状が改善して9月15日には治癒となり、さらに9月28日に、一度完全に症状がなくなったあとで再び別の感冒症状が出現して受診した場合です。前回の傷病がすでに治癒しており、今回が医学的にも新たな傷病としての診療であれば、初診料を算定することが妥当なケースもあります。

ところが、最初の風邪のときに抗アレルギー剤を処方する目的で「アレルギー性鼻炎」という病名を付け、それが継続中の病名として残っていると、話が少し複雑になります。アレルギー性鼻炎は、急性上気道炎のように数日で簡単に「治癒」と扱うことはできません。慢性的、あるいは反復性に経過する疾患でもあるため、その後その患者さんが現在もアレルギー性鼻炎について診療継続中なのであれば、新しい風邪で受診したからといって単純に初診として扱えるわけではなくなります。

もちろん、一度アレルギー性鼻炎の病名を付けたら永久に初診料を算定できなくなる、という話ではありません。患者さん自身が治療を中断し、その後一定期間受診していない場合などには、再び初診として取り扱えるケースがあります。例えば9月に一度受診しただけで、その後まったく受診せず、翌年3月に新たな風邪症状で受診したというケースであれば、以前のアレルギー性鼻炎がそのまま診療継続中とは考えにくく、実際の診療経過に応じて病名を中止とし、新たな受診として取り扱うことは十分考えられます。(参考記事→いつ初診扱いにするか?

一方で、同じ月や翌月など比較的短期間のうちに再受診した場合には、「前回付けたアレルギー性鼻炎はもう終わりです」と機械的に処理して初診料を算定するということはできません。つまり困るのは急性上気道炎などの風邪症状が完結した後、あまり時間を経たずに来られた場合、本来適正に病名を処理していれば初診料が算定できるにもかかわらず、アレルギー性鼻炎の病名をつけてしまったばかりに再診療をつけざるを得なくなり、収益がその結果減ってしまうということがあります。

ルーチン処方がクリニック経営にも影響する

こう考えると、風邪に対して何となく抗アレルギー剤を追加し、そのために何となくアレルギー性鼻炎の病名を付けるという運用は、意外とその後の診療まで影響します。一人ひとりでは大きな違いではないかもしれませんが、風邪の患者さんを多数診療するクリニックでこれをルーチンに行っていると、本来は急性疾患として完結していた患者さんに慢性病名が残ることになります。その結果、その後の初診・再診の判断にも影響し、クリニック経営という意味でも無視できない部分だと思っています。

もちろん、もともとアレルギー性鼻炎がある患者さんや、花粉症の時期に受診し、診察上もアレルギー性の機序が大きく関与していると考えられる患者さんであれば、抗アレルギー剤を処方することは医学的にも自然です。私が今回危険であると思っているのは。、そうした背景がない患者さんにまで、風邪だからという理由だけでルーチンに抗アレルギー剤を併用することです。

少なくとも私は、医学的な必要性だけでなく、その薬を処方するためにどのような病名が必要になるのか、その病名を付けることでその後の診療にどのような影響が出るのかまで考えると、何でも抗アレルギー剤を追加するという処方はしない方がよいと考えています。

正直、勤務医のときはあまり気にしていなかった

こういったことを意識するようになったのは、私自身も開業してからです。正直に言えば、勤務医のころはここまで考えていませんでした。感冒症状がある患者さんに対して、ルーチンの風邪薬の一つとして抗アレルギー剤を一緒に処方していたことも正直あったと思います。

勤務医として診療していると、自分が処方した薬がどのような病名でレセプト請求されているのか、その病名がその後の初診料や再診料の扱いにどう影響するのかまで意識する機会は、あまり多くありません。私自身も、開業してレセプトを自分で見るようになり、クリニックの経営まで考えるようになって、初めてこういったところを意識するようになりました。

こうした感覚は、やはりある程度「経営者になって初めて分かること」なのかもしれません。診療そのものだけを考えていれば、患者さんの症状を少しでも楽にするために抗アレルギー剤を追加するという判断自体は、それほど不自然ではありません。しかし、その薬を出すことで病名が一つ増え、その病名がその後も残り、保険診療上の取り扱いにも影響するところまで考えると、同じ処方でも見え方が少し変わってきます。

勤務医の先生に診療をお願いしているクリニックでは注意が必要

自分一人が院長で、自分だけが診療しているクリニックであれば、自分自身で処方方針を決めればよいので、それほど問題にはならないと思います。一方で、複数の医師が勤務しているクリニックでは、少し難しい部分があります。

特に、それまで病院勤務が中心で、クリニック経営やレセプトをあまり意識した経験のない先生に診療をお願いすると、悪気なく勤務医時代と同じ感覚で、風邪の患者さんに抗アレルギー剤をルーチンで処方することもあると思います。これは決してその先生の診療が悪いという話ではありません。私自身も勤務医のころは同じような感覚でしたし、レセプトやクリニック経営まで意識しなければ、なかなか気づきにくいところだと思います。

そのため、こういったケースでは、経営者や院長側から「抗アレルギー剤を処方しないでください」と一方的に指導するというよりも、「保険診療上こういった理由があるので、単純な感冒ではルーチンの併用をなるべく控えてもらえないでしょうか」という形で、クリニックとしての処方方針を共有しておくことが必要になるのではないかと思います。

こういう部分は、医療そのものの正解・不正解だけではなく、クリニック全体としてどのように保険診療を運用するかという問題でもあります。複数医師で診療するクリニックであれば、こうした細かな処方方針まである程度共有しておくことも、経営者の仕事なのかもしれません。

抗アレルギー剤を出すために「急性蕁麻疹」を付けるのはやめた方がいい

そして、ここでもう一つ注意した方がよいと思うことがあります。「アレルギー性鼻炎のような慢性病名を付けると後々困るのであれば、急性病名で抗アレルギー剤を通せばよいのではないか」と考えることです。例えば「急性蕁麻疹」という病名を付けて抗アレルギー剤を処方する、という方法は思考実験としては考えられます。

しかし、これは絶対にやめた方がよいと思います。もちろん、感冒症状、特にウイルス感染に伴って実際に蕁麻疹を合併することはあります。そのような患者さんに、診察所見に基づいて急性蕁麻疹と診断し、抗アレルギー剤を処方するのであれば何の問題もありません。

問題なのは、蕁麻疹がない通常の風邪症状の患者さんに対して一律に抗アレルギー剤を処方し、その処方を保険で通すためだけに一律で急性蕁麻疹の病名を付けるような運用です。このようなレセプトが、例えば月に数枚あるのであれば、医学的に妥当だと支払基金も判断するとは思います。しかしいわゆる風邪症状がある人ほぼ全員に、蕁麻疹の病名もセットになっていると、さすがにこれはどう考えてもおかしいだろうと思われて査定される可能性が非常に高いと思います。何より、実際には存在しない傷病名を保険請求のためだけに付けることになれば、適切な保険診療とはいえません。

実は、感冒に適応のある抗アレルギー剤もある

ここまで、風邪に対して抗アレルギー剤をルーチンで処方することの問題点について書いてきました。ただ、実は抗アレルギー剤の中にも、感冒に対して保険適用を持っている薬があります。

d-クロルフェニラミンマレイン酸塩(ポララミン®)には、「感冒等上気道炎に伴うくしゃみ・鼻汁・咳嗽」という効能・効果があります。つまり、感冒に伴う鼻汁やくしゃみなどに対して抗ヒスタミン薬を使いたいのであれば、保険診療上はこちらの方が使いやすい選択肢になります。

一方で、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩は、ご存知のように、いわゆる第一世代抗ヒスタミン薬で、眠気を催すことがあります。添付文書でも、投与中は自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないよう十分注意することとされています。そのため、誰にでも気軽に使える薬というわけではありません。

それでも、鼻汁がどうしても強いというような患者さんや、咳で夜眠りにくい、というような患者さんには、選択肢の一つになると思います。

「薬を出すための病名」になっていないかを考える

風邪の診療は日常診療の中でも非常に頻度が高いため、一つひとつの処方について深く考えず、いつもの処方セットをそのまま使ってしまうこともあると思います。しかし、抗アレルギー剤については、一度立ち止まって考えてみてもよい薬だと思っています。

本当にアレルギー性鼻炎があるのであれば、もちろん処方すればよいと思います。一方で、単純な感冒に対して何となく抗アレルギー剤を追加し、その薬を処方するために何となくアレルギー性鼻炎の病名を付けるのであれば、その処方が本当に必要なのかを考えてみてもよいのではないでしょうか。

薬そのものの必要性だけでなく、「この薬を処方するためにどの病名を付けることになるのか」「その病名を付けることで、その後の診療や初診・再診の扱いに影響しないか」というところまで考えることも、クリニックを運営していく上では意外と大切なのではないかと思っています。

そして、こうしたことは私自身も勤務医のころにはほとんど意識していませんでした。開業してレセプトを見るようになり、診療だけではなくクリニック全体の運営を考えるようになったからこそ、気づいたことの一つです。そういう意味では、抗アレルギー剤を出すかどうかという小さな話ではありますが、「勤務医の診療」と「開業医の診療」では、同じ処方でも見えているものが少し違う、という一例なのかもしれません。