これからのクリニック経営や独立開業を考えるうえで、ITやパソコンの知識はもはや避けて通れない要素になってきていると感じます。電子カルテが主流となり、紙カルテを使う先生もいらっしゃいますが、保険請求やオンライン資格確認といった仕組みはすでにパソコンが前提です。もはやパソコンを使わずに医療機関を運営することは、現実的に難しくなっていると思います。
パソコンをある程度扱える先生であれば問題ありませんが、苦手意識を持つ方も少なくありません。その結果、「よくわからないから業者に任せよう」となりがちですが、実はそこに無駄なコストが発生していることも多いのです。内容を理解していないまま丸投げしてしまうと、本来不要なサービスや機器にお金を払ってしまうことがあります。開業当初は特に支出が多いため、不要なコストはできる限り抑えたいものですし、将来的に独立後の運営を自分で管理していくには、最低限のITリテラシーは不可欠です。最初からある程度自分で触れておく方が、長い目で見れば確実に得になります。今回は、そうした「少しの知識で大きく経費を削減できる」具体的なポイントについてお話しします。
電子カルテを自分で理解する意義
電子カルテの導入は、業者にすべて任せることも可能ですが、当然ながら割高になります。業者が提案するセットは便利な反面、必要以上のスペックや機能が含まれていることも多く、ご自身で構成を考えて揃えた方が無駄が少ないケースがほとんどです。院内サーバーを設置するタイプのシステムでは難しいかもしれませんが、クラウド型カルテであればパソコンや周辺機器を自分で選び、自分の手で設定することも十分に可能です。実際、他の先生方の電子カルテ導入見積もりを拝見すると、驚くほど高額なケースもあります。同じ機能を、ご自身で少し工夫するだけで大幅にコストを抑えられるのです。
初期設定を業者に依頼すればもちろん楽ですが、その費用の大半は人件費です。トラブルが起きたときに自分で対応できるようになることを考えれば、最初の段階で触っておく方が後々安心です。電子カルテ会社のサポートも受けつつ、基本的な操作や設定は自分で行えるようにしておくのが理想的です。
回線契約とセキュリティの落とし穴
光回線の契約も、初めてだと複雑に感じるかもしれませんが、基本的には一般的な回線で十分です。「医療機関向け特別プラン」や「セキュリティプラン付き」などといったものを勧められることがありますが、内容をよく見るとコストに見合わない場合も多く、不要なオプションが含まれているケースが散見されます。
こちらも以前ある先生の見積もりを拝見した際、ルーターのレンタル料や不明瞭なセキュリティ費用がてんこもりに上乗せされており、結果として月額が数万円に膨らんでいました。正直なところ、これは完全に無駄な支出です。ルーターはAmazonで購入すればかなりいいものでも数万円で済みますし、「セキュリティプラン」という言葉に惑わされず、本当に必要な機能かどうかを見極めることが大切です。
保険やリスク対策に対する考え方
サイバーセキュリティ保険なども最近は多く見かけます。規模がある程度大きいクリニックで、多くのスタッフも関わる場合は、加入を検討する価値もあると思いますが、小規模クリニックで毎月高額な保険料を支払うのは、費用対効果として疑問が残ります。私自身は加入していませんが、必要かどうかは「具体的にどのリスクをどの範囲でカバーしたいのか」を明確にしてから判断するのがよいと思います。
万一に備えるという発想
パソコンやプリンター、回線などの機器は、どうしても故障やトラブルが起きるものです。診療を止めないためには、バックアップ体制を整えておくことが非常に重要です。私はメインのパソコンとは別にノートPCを1台常備し、さらにWiMAXの回線を予備として契約しています。プリンターも複数台用意しておくと安心です。またルーターも新品のものを一台用意しています。
どれか一つの機器がトラブルを起こしても、すぐに代替が効くようにしておく。これはどんな高額な保証サービスに加入するよりも、現実的で確実なリスク対策だと思います。
「見えないもの」にお金を払いすぎない
セキュリティや通信といった“見えないサービス”は、不安を煽られる形で契約してしまいがちです。実際、光回線業者の中には、セキュリティの名目でオプションを重ね、毎月数万円以上の請求になるケースもあります。しかし、こうした費用の多くは実質的に不要です。
私はNTTコラボ光を使っていますが、月額3850円(プロバイダ込み)で、オンライン資格確認・オンライン請求・電子処方箋のすべてを問題なく運用できています。大切なのは、「高い=安心」ではなく、「自分で仕組みを理解することが一番の安全対策」だという視点です。(参考記事→光回線はコラボ回線で十分)
※ちなみにサブ回線のWiMAXのほうが月額費用が4500円ほどと、何故かこちらの方がコストが掛かってしまっています。しかし過去の経験から通信環境は死活問題なので用意しています。(参考記事→光回線が止まった!)
パソコン環境の選び方
私はメインではMacを使っていますが、受付や事務ではWindowsを使用しています。事務スタッフが扱いやすいことに加え、Windows専用ソフトも多いため、両方の環境を持っておくと安心です。特にOSアップデートの際にどちらかが不調になっても、もう一方で業務を継続できる。OSを分けておくことは、実は非常に合理的なリスク分散になります。私自身はiPhoneユーザーなので、親和性という点でもMacが個人的には好きです。
パソコンの購入は基本的にネット注文で十分です。MacはApple公式で購入し、WindowsはHPのゲーミングPCを利用しています。ゲーミングPCは処理性能が高く、業務用途では十分すぎるほど快適です。もちろんプロゲーマー向けの超高性能モデルまでは不要ですが、標準的な構成であればコストパフォーマンスに優れています。ちなみにマルチディスプレイを使う場合はある程度のスペックのグラフィックボードを入れたほうが快適です。
HPはたまたまセールで安かったのをきっかけに購入して、特に問題なく使えててコスパもいいので、気に入って使っています。
ChatGPTを活用した「応用編」
少し応用的な話になりますが、私はChatGPTを活用して、レセプトチェック用の簡易ツールを自作しています。従来は市販のレセプト点検ソフト(レセスタ)を使っていましたが、月額費用が高く、小規模クリニックにはオーバースペックでした。私が欲しかったのは、インフルエンザやコロナの検査・抗ウイルス薬に対応する病名の漏れをチェックする程度のシンプルな機能でした。それなら自分で作れるのではと思い、ChatGPTの助けを借りながら作ってみたところ、意外と動いてしまったのです。正直、仕組みはあまり理解できていませんが(笑)、実際の業務で役に立ち、初めてプログラミングが仕事に直結した瞬間でした。
このように、自分の業務に合ったツールを自作できると、月額数万円のソフトに頼る必要がなくなります。しかも、自分で作れば自由度が高く、改善も即座にできます。今後も、日常業務の中で「もう少し自動化できたら」と感じる場面があれば、ChatGPTと簡単なプログラミングを組み合わせて解決していけると思います。
また、スタッフのシフト作成も少し工夫するとぐっと楽になります。以前は手入力で予定を入れていましたが、ChatGPTに手伝ってもらい、Googleカレンダーに自動で勤務予定を反映させる仕組みを作りました。といっても難しいものではなく、ちょっとしたプログラミングを使って入力作業をまとめて行う程度です。これだけでも、月ごとのシフト登録にかかっていた時間が大幅に減り、入力ミスもなくなりました。最初の設定だけ少し頑張れば、あとは毎月数分で終わるようになります。ほんの少し仕組みを理解して取り入れるだけで、こうした日常の小さな事務作業が驚くほど軽くなるのを実感しています。
まずは「ご自身でやってみる」ことから
プログラミングまでは踏み込まなくても、パソコンの初期設定やクラウドカルテの電子証明書の導入など、基本的な部分を自力で行うだけでも十分に価値があります。最初の設定を他人任せにすると、後々わからない部分が増えてしまいがちです。パソコンは最初が一番大事です。最初のうちは少し面倒でも、自分で触れる範囲を残しておいた方が、結果的に管理しやすくなります。クリニックの運営が軌道に乗ると、「業務効率化」や「作業の自動化」に興味が出てくるものです。そのタイミングでChatGPTやプログラミングを取り入れると、大きな武器になります。
ChatGPTを活用して自分の業務を最適化していく――これは医療や経営にかかわらず、今後の時代における新しい“社会人スキル”のひとつになると感じています。私自身も、もう少し経験を重ねたうえで、開業医の先生向けの具体的な手法として発信していけたらと思っています。
