キャリアの節目で、「ミニマム開業をするか」「転職して勤務を続けるか」で迷う先生は少なくないと思います。特にここ数年は、リスクを抑えた“ミニマム開業”という選択肢も広がってきました。また、転職戦略として、常勤より自由度が高い非常勤勤務を組み合わせて働くというスタイルも増えていますが、実際はどちらが現実的なのでしょうか。
今回は近年のトレンドであるミニマム形態での独立と、非常勤勤務の掛け合わせという二つの働き方を比較しながら、それぞれの実際とリスクについて考えてみたいと思います。
結論:非常勤勤務のほうがリスクも労力も少ない
結論から言えば、ミニマム開業か非常勤勤務かで迷っている先生には、私は非常勤勤務をおすすめします。非常勤勤務の方がリスクが少なく、収入も安定し、何よりも労力が圧倒的に少ないからです。キャリアを考える上で、収入・生活の安定性・QOL・満足感・将来性など、さまざまな観点があります。それらを総合的に見たとき、非常勤勤務のほうが現実的で再現性の高い選択だと感じます。
ミニマム開業の成功パターンは限られる
ミニマム開業の基本的な考え方は、コストを抑えて小規模で回すことです。大きな利益を狙うわけではなく、「勤務医と同程度の生活を、ある程度自分のペースでできれば」という発想の先生も多いと思います。そしてこの形態で勤務医よりも成功するケースは、実際にはかなり限られています。たとえば立地が非常に良い、地域のニーズに合っている、診療科が希少で需要が高い、完全予約制がうまく機能した――こうした条件がうまく重なった場合のみ、想定以上の患者数が得られます。こうしたケースでは経費が少ない分、手残りが多くなり、勤務医よりも良い収入を得ることも可能です。これはミニマム開業における“理想的な大成功パターン”と言ってよいでしょう。
現実はもっと厳しい
一方で、実際にはそこまでうまくいくケースは多くありません。想定していたよりも患者数が伸びず、「ミニマムどころか経営がギリギリ」というケースは珍しくないと思います。たとえば、1日10人来てくれれば成立する計画で開業したとしても、現実には5人しか来ないということもあります。そうなると、家賃や人件費などの固定費を払うだけで精一杯で、最悪の場合、持ち出しになることさえあります。開業には、そうした「下振れリスク」が常につきまといます。うまくいけば収益が伸びる可能性はありますが、失敗すれば経済的なダメージは大きい。特にミニマム開業では、初期投資を抑えている分、資金的な余裕も少ないため、経営が厳しくなると一気に行き詰まります。
非常勤勤務は“無難で安定”という現実的選択
それに比べると、非常勤勤務を組み合わせる働き方は非常に安定しています。給与は契約によって保証され、仕事を突然失う可能性も低い。何より、開業のように借金を背負うことはありません。勤務時間が明確で、オンとオフがきっちり分かれるのも大きな利点です。時間外に事務作業をする必要もなく、医業以外の労力がかからない。トータルで見れば、金銭的・精神的・時間的に、非常勤勤務は圧倒的に“負担とリスクが少ない”働き方です。ミニマム開業と比べた場合、非常勤勤務のほうが明らかにリスクが低く、労力に対して得られるリターンのバランスも良いと思います。
“ミドルリスク・ミドルリターン”という現実的ポジション
常勤勤務が最も安定している働き方であることは間違いありません。ただ、自由度や収入の上限という点では制約も多い。その中間に位置するのが非常勤勤務です。開業が“ハイリスク・ローリターン”になりやすいのに対し、非常勤は“ミドルリスク・ミドルリターン”。自由度を確保しつつ、一定の安定を維持できる現実的なポジションだと思います。
無条件に非常勤を勧めるわけではない
ここで誤解してほしくないのは、非常勤勤務を“無条件におすすめする”という話ではないということです。非常勤にも当然、限界があります。常勤に比べて社会的信用はやや低く、また将来的な雇用の安定性は劣ります。医療業界の需給バランスや政策の変化によっては、10年後に条件が悪化している可能性もあります。その意味では、非常勤勤務も“安定しすぎてはいない”働き方です。
開業に比べれば、圧倒的にリスクは小さい
それでも、開業に比べれば非常勤勤務のリスクは圧倒的に小さい。一番大きな違いは、金銭的リスクです。勤務医である限り、借金を背負うことも、経営の責任を一人で負うこともありません。戦略的に勤務先を選べば、ある程度の収入コントロールも可能です。労力やストレスを抑えながら安定した生活を送れる点で、非常勤勤務は現実的な選択肢だと思います。
非常勤勤務の“限界”と、開業の“夢”
非常勤勤務は頑張っても収入の上限が見えやすく、「大きく上振れする」ことはまずありません。言い換えれば、非常勤は“安定している代わりに夢がない”働き方です。一方、開業には夢があります。もし思いがけず患者さんが多く集まれば、投入したコスト以上の収益が上がり、勤務医では得られない規模のリターンが得られる可能性もあります。ただし、それが実現するのは本当に限られたケースです。
まとめ:現実的に見れば、非常勤勤務が安全で堅実
ミニマム開業は挑戦であり、非常勤勤務は選択です。どちらが正しいということはありませんが、現実的に見れば非常勤勤務のほうが再現性が高く、リスクが小さい働き方だと思います。一方で、開業には「自分の理想を形にできる」という魅力があり、それはどんな勤務形態にも代えがたいものです。結局のところ、自分がどちらのリスクを取れるか。そして、どこに人生の重きを置くのか――そこが分かれ道なのだと思います。
