ミニマム開業に関連してですが、最近はスタッフ1〜2名という小規模な診療所も散見されます。その最小構成が「医師1名+スタッフ1名」だと思いますが、さらに絞り込んだ究極の形が、**完全に医師1人で運営する“ワンオペレーションクリニック”**です。いわば究極のミニマム開業形態ともいえるこのスタイルについて、少し考えてみたいと思います。

ワンオペレーションクリニックという形

実際、全国的に見ても完全なワンオペで運営しているクリニックはおそらく10件にも満たないと思います。完全に1人で行っている先生も少数ながらいらっしゃるようですが、私のように部分的に「特定の時間帯だけ1人で対応している」というケースを含めれば、もう少し多いかもしれません。
いずれにせよ、一般的に「ワンオペクリニック」はほとんど認知されておらず、実際には極めて珍しい形態です。患者さんから見ても、来院して医師が1人しかいないと、やはり驚かれるのではないでしょうか。私自身が患者の立場でも、やはり少し戸惑うと思います。

私も、常時というわけではありませんが、どうしてもスタッフ不在になる時間帯があり、そのときはいわゆる“ワンオペ”の状態で回すことがあります。常連の患者さんの中には何度かその様子を見て慣れてくださる方もいて、「ああ、先生今日はお一人なんですね」と自然に受け入れてくださるようになりました。マイナンバーカードの受付や会計も、ご自身で行って待ってくださる方が多いです。もちろん診察中は、待合室の様子が確認できるようにカメラを設置しています。

実際にやってみて感じること

当然ながら完全予約制になりますが、私の経験上、「できなくはない」というのが正直なところです。電子カルテでのレセプト処理も比較的スムーズですし、デジスマ決済や自動釣り銭機を導入すれば、一定の効率化は可能だと思います。

ただし、精神的な負担はかなり大きいと感じます。閑散期で患者さんが少ない時間帯などは、1時間ほど空くこともあるのですが、それでも常に気を張っているため、終わる頃にはどっと疲れが出ます。

誰も来なくても気が抜けない

誰も来ない時間帯でも、完全に気を抜くことはできません。自分しかいない以上、突発的な来客や飛び込みの患者さんに備える必要があります。たとえば宅配業者の対応や、予約制を知らずに来院される方も時々いらっしゃいます。

そうした状況もあるため、常に緊張感を保っておく必要があり、何もしていない時間でも精神的にはかなり消耗します。

忙しくてもやはり負担が大きい

もちろん、忙しいときは忙しいで大変です。予約制といっても、早めに来院される方や対応に時間がかかる方がいると、待ち時間が発生することもあります。そうなるとスケジュール全体を微調整する必要があり、常に気を使う状態になります。

繁忙期で、朝の時点で予約がすべて埋まっていると、患者数的には安心感がある一方で、「今日は最後まで集中しなければならない」というプレッシャーも感じます。

心身を削っている感覚

誰か一人でもスタッフがいれば、それだけでずいぶん違います。医療資格がない方でも受付対応などを任せられるだけで、気持ちの負担はかなり軽減されます。たとえばトイレに行く、少し休憩する――そうした当たり前のことが、ワンオペでは難しくなります。

そのため、常に気を張り続けなければならず、「心身を削っている感覚」が常にあります。慣れれば多少違ってくるのかもしれませんが、少なくとも私の場合はかなりのストレスを感じます。強いメンタルをお持ちの先生であれば問題ないのかもしれませんが、私は「自分の寿命を削ってコストを浮かせているような感覚」を持つことがあります。

ワンオペクリニックは“趣味の領域”に留まる

このテーマは、以前触れたミニマム開業にも通じます。確かにITや電子カルテの進歩によって、こうした運営スタイルが「現実的に可能」になったのは事実です。物価上昇や人件費の高騰、人手不足などの背景から、やむを得ずワンオペに近い形で運営せざるを得ない先生もいらっしゃるでしょう。私自身も、そうした流れの中で結果的にこの形に行き着いた一人です。

やってみると「意外と何とかなる」部分もあり、それを見て同様の形態を試す先生も出てきています。しかし、私はこの形が今後主流になっていくことはないと思っています。おそらく“趣味でやりたい先生”以外には成立しない形態です。

というのも生計を立てる手段としてこの形を取るのは現実的ではありません。理由は明確で、独立開業に伴うリスク・コスト・ベネフィットのバランスがまったく釣り合っていないからです。確かに思考実験としては面白い形ですが、「収益を上げたい」「生活を支えたい」という目的では成立しにくい。QOLも低く、経済的にも不安定で、結局は“趣味としての診療”以外では選択肢に上がらないというのが実情だと思います。

それでもなぜやっているのか

では、なぜ私が現在ワンオペに近い形で診療を続けているのか。それは単純に、すでに開業してしまっているからです。もし独立前に今の現実を知っていたら、私はおそらく開業していなかったと思います。今の私がもう一度キャリアを選び直すなら、独立ではなく、自分の生活スタイルに合わせた転職や勤務戦略を取っていたと思います。その方が再現性も確実性も高く、現実的です。

今はすでにクリニックという箱を持ってしまった以上、借入金を返済しながらなんとか続けているというのが正直なところです。続ける理由は「すでに開業したから続けている」に近い。軌道に乗れば何とかはなりますが、生活や体力の面では正直かなりきついです。

気楽さと引き換えの孤独

「スタッフに気を使わなくていいから気楽」「好きなときに休める」という意見も一部では聞きます。たしかにその面も否定はできません。ただし、それは“自由”の裏にある孤独と責任を引き受けられる人でなければ続けられません。

私個人の感覚としては、精神的にも肉体的にも消耗する形態です。特に新規開業を検討している先生には、このスタイルはまったくおすすめできないと率直に申し上げます。