開業医は勤務医と異なり、先生ご自身がオーナーとなって運営できるので、自由度が高くなります。診療時間や診療日も自由に設定できますし、長期休みをとって海外旅行に毎年行くようなことも可能です。しかし自由の裏返しで、診療でもどこまで対応するか、どこからは他に任せるかの判断も先生がすることになります。
今回は、あまり抱え込みすぎず、先生のクリニックでは対応が難しいことは、近隣の他クリニックや高次医療機関にお願いするというのも、一つの選択肢であるということを、ご紹介していきます。
クリニックは設備やマンパワーにも限りがある
開業前は病院勤めだった先生が多いかと思いますが、開業医になると、当然ですが今までとは環境が大きく変わります。検査機器やマンパワーにも限りがありますし、あらゆるものを用意しようとすると、とてもコストが合いません。必然的にできることを絞っていき、できないことは近隣の医療機関とも連携しながら行う必要が出てきます。
コストとの兼ね合いも
抗原検査キットなどは、期限もありますし、在庫の管理も労力がかかります。めったに使わないキットは期限切れで破棄しなければならないケースもあり、その場合はクリニックの経営にも大きく影響を与えます。実務上は使用頻度の高いものに絞らざるを得ないと思います。
はじめから完璧には難しい、走りながら揃えて行く方向で
最初から全てを予測して万全の状態で開業に至るのは現実的ではありません。最初は最低限使うものを用意しておき、患者さんの状況に応じて、徐々に揃えていく形が現実的かと思います。もちろんレントゲンなど大掛かりなものは、はじめから用意する必要があるので開業時に判断が必要ですが、抗原キットや備品は徐々に揃えていく方向が現実的であると思います。
大掛かりな器具は、見極めが難しいですが、使用頻度が低くても保守コストがかかり、場所も取ることになります。特にCTなどの大掛かりなものは、判断を誤ると、その一点で経営を破綻させる程の威力を持ちます。
画像診断に特化したクリニックに依頼する選択肢
関東圏では、メディカルスキャニングという、CT、MRIの画像診断に特化した専門クリニックが台頭しています。CT、MRIは導入にも、ランニングコストにも大きなお金がかかります。そこで自院で用意するのではなく、このような専門クリニックにお願いするという手もあります。読影、判読も放射線科専門医が行ってくれますし、大きな病院へご紹介するよりも、患者さんの敷居も低いです。
他科をどこまでみるか
他科疾患をどこまでみるか、どこまで処方するかというのは、多くの先生が悩む問題だと思います。たとえば、内科の先生が、花粉症の時期にアレルギー性結膜炎で、アレジオン点眼液0.05%等を出すことは悩まないと思います。このくらいのことで、眼科受診を促すことは、まずないでしょう。一方で最近目が霞んできたという患者さんがいたら迷わず眼科受診をお願いするでしょう。こちらも悩むことはないと思います。
困るのは、眼科にドライアイでかかっていて、いつも混んでいるし、処方だけだから、薬だけ出してもらえないか?と患者さんに言われたときです。これには迷われる先生も結構おられるのではないでしょうか?厳密には眼科に受診してもらい、定期的に検査を受けた方がよいのは間違いないですが、ヒアレイン点眼液であれば、内科でも出せなくはないと思います。
上記のようなケースを、どこまでをやるかというのは、開業後は先生が線引きをしなければなりません。これはケースによってはかなり難しい問題になると思います。
特に注意が必要なのは、精神科の領域です。こちらは別記事でも取り上げますが、精神科の診療に慣れていない先生は、眠剤を含めて、精神科領域には手を出さない方が、私は良いと思います。(参考記事→精神科以外でのメンタル疾患の対応)
やりたくないことばかりしていては、何のためにリスクを背負って開業するのかわからない
先生に今回の記事でお伝えしたいことは、先生に過度に負担になることはせず、あまり無理はしない方がよいのではないか、ということです。医療過疎地域での開業を除いて、現代の日本では、多くの先生が周りに競合がいる中での開業になるかと思います。そうであれば、先生の専門でないこと、得意でないこと、規模的にクリニックでは請け負えないことなどは、他の医療機関にお任せするというのは、他の医療機関との共存という意味でも現実的な方法です。
例えば内科のクリニックを開業して、もし小児科の経験が少なく、診療に慣れていない場合は、小児の患者さんは近隣の小児科におまかせすればいいです。それは近くの小児科クリニックにとってもありがたいことでしょう。逆に小児科の先生は、成人の内科の患者さんを先生に紹介してくれるかもしれません。クリニックによっては、内科標榜で、15歳以上のみを対象としていることを明示しているクリニックもあります。これはうまい棲み分けと考えられます。
はじめから完璧でなくていい
こちらも検査をどこまで用意するかという項目と重複しますが、クリニックを運営しながら、徐々に洗練させていく方向で良いと思います。はじめから完璧な方向性を示すことは難しいです。実際にやってみないと、どのような患者さんがみえるかは、なかなか予想がつきません。おそらく上記の内科も最初から小児を診ないというスタンスではなかったと思います。
当院の例では、最初は予約なしと、予約制を併用していましたが、途中で完全予約制クリニックに振り切りました。これも諸々の事情で、私の考えも変わり、このような体制になった経緯があります。最初は完全予約制にすることは、全く考えておりませんでしたから。(参考記事→完全予約制の実際)