クリニックにおける支払い方法は、これまで長らく現金が主流でしたが、ここ数年でキャッシュレス決済の比率が急速に高まってきました。特にコロナ禍以降、その流れは一気に加速した印象があります。実際、当院でもキャッシュレスで支払われる方のほうが圧倒的に多く、現金でのお支払いはかなり減少しました。理想を言えば、いずれは完全キャッシュレス化を実現したいところですが、現状ではまだ現金の需要も一定数ありますし、それを完全に遮断してしまうのは時期尚早という判断で、当面は併用しています。それでも、管理や安全性を考えると、保険診療を中心に行う医療機関にとってキャッシュレスのほうが圧倒的に効率的であり、やはり将来的な理想は「完全キャッシュレス化」であると感じています。

キャッシュレスの利便性

診療を行う立場として率直に言うと、キャッシュレスのほうが圧倒的に楽です。特にデジスマ決済は非常に便利で、電子カルテからワンクリックで決済まで完了します。現金のやり取りが不要になるだけでもストレスが減りますし、患者さんの待ち時間短縮にもつながります。デジスマに限らず、キャッシュレス決済は業務負担を大きく減らすツールになっていると実感しています。

現金管理の煩雑さ

一方で現金は、どうしても煩雑な手間が発生します。お釣りの準備や硬貨の補充、銀行への両替など、細かな作業が多く、しかも今は両替にも手数料がかかります。こうした物理的な管理コストを考えると、現金はやはり非効率です。さらにセキュリティの観点からも、現金を院内に置かないに越したことはありません。盗難リスクを考えても、キャッシュレスの方が圧倒的に安全で、経営者としては合理的な選択肢だと感じます。

医療機関では手数料負担も軽い

一般にキャッシュレスの手数料は3%前後といわれますが、医療機関の場合は信用度の高さから比較的低く抑えられることが多いです。VISAやMastercardなどの主要ブランドであれば1.5%程度の条件が提示されることもあり、これは非常に助かります。しかも保険診療では、手数料がかかるのは患者さんの自己負担分だけです。たとえば診療費が1万円で3割負担なら患者さんの支払いは3,000円、その1.5%が手数料になるわけで、全体で見れば0.5%にも満たない水準です。これだけの低コストで管理負担が減るのであれば、導入の価値は十分にあるといえます。

手数料の現実的な水準

クレジットカード決済であれば、医療機関向けの契約で1.5%前後に抑えられます。一方、電子マネーやQRコード決済になると3%近くになることもあります。ちなみに当院では東京医師歯科医師協同組合のキャッシュレスシステムを利用していますが、これは業界内でもかなり安価な部類です。初期費用も不要なので、特に関東圏の先生方にはおすすめできるサービスです。(参考記事→東京都医師歯科医師協会のキャッシュレス端末

世界の潮流と日本の現実

世界的に見ると、現金よりもキャッシュレス決済の方が信用されている国も少なくありません。むしろ現金が敬遠されるケースさえあります。日本では長く現金文化が根付いており、国民性としても慎重・保守的な傾向が強いため、完全なキャッシュレス化にはまだ時間がかかるでしょう。それでも、コロナ禍を経て確実に意識は変わり、キャッシュレスの普及率は年々上昇しています。とはいえ、現金が完全に姿を消すまでには、もう少し長い時間が必要だと感じます。

完全キャッシュレス店舗の登場

最近では、飲食業界を中心に「現金お断り」の完全キャッシュレス店舗も登場しています。時代の変化を象徴する動きであり、現金管理の手間やレジ締め作業の省力化、セキュリティ上の安全性を考えれば理にかなっています。スタッフの多い店舗では特に、現金トラブルを避けるという意味でも有効です。手数料を支払ってでも現金を扱わないという判断は、経営的には非常に合理的であり、ひとつの理想形だと感じます。

当院の現状

当院はデジスマ診療という予約システムを採用しており、患者さんのクレジットカードを事前に登録しておくことができる仕組みになっています。そのためキャッシュレス決済が多く、現金でのお支払いは全体の2割を下回っています。日によっては現金を一切扱わないこともあるほどです。開業当初は自動精算機にお釣りを補充する作業が頻繁にありましたが、今では10円玉や100円玉を少し補充する程度になり、現金の出入りは明らかに減っています。今後もこの流れは続き、現金の存在感は徐々に薄れていくのではないかと考えています。

日常生活でもキャッシュレスが中心

私自身も日常生活のほとんどをキャッシュレスで済ませています。メインで使っているのは住信SBIネット銀行のデビットカードで、使った瞬間に銀行口座から即時引き落としされるため、使いすぎを防げる点が気に入っています。現金を使うのは、現金決済しか受け付けていないラーメン屋さんなどに行くときくらいで、普段はほぼ財布を持たずに過ごしています。

あえて現金を使うとき

ただ、経営者という立場になってから、あえて現金で支払う場面も出てきました。特に個人経営の飲食店や商店では、キャッシュレス決済の手数料が重い負担になると聞きます。利益率が高くない業態では、数%の手数料でも経営に響くのです。そうした背景を考えると、個人店では現金払いの方が店側にとって助かるだろうと思い、意識的に現金を使うこともあります。その場合は後述の理由もあり、あえて領収書も貰わないようにしています。チェーン店や大手の場合は手数料交渉力があり問題ないと思いますが、小規模事業者にはまだハードルが高い部分が残っています。

これはあまり大きな声では言えませんが、キャッシュレス決済は売上がすべて補足されてしまうという側面もあります。小さな個人店では、すべてを完全に誤りなく申告すると経営が成り立たないこともあると聞きます。そうした厳しい現実もあり、あえて現金でやり取りをしているケースもあるようです。

もちろん、医療機関ではそのようなことはできません。保険診療の売上はすべて国に把握されていますので、そこは完全に別の話です。