クリニックの開業準備の中で、立地選びの次に大きな悩みどころになるのが「内装工事」だと思います。今回はその中でも「内装の見積もり」という点に焦点を当てて考えてみたいと思います。
テナントの場所が決まると、次に考えるのは「このスペースをどう使うか」「どんな規模・形にするか」という内装の設計です。もちろん場所を決める段階でもある程度のイメージはしていると思いますが、実際に設計士さんに入ってもらって具体的な設計や工事を考えるのは、テナントを「ここでやる」と最終的に決めた段階になります。
内装工事は開業準備の中でも特に規模が大きく、お金もかかり、長期に影響してくる部分です。そのため「どう見積もりを取るか」「どんな業者にお願いするか」が非常に重要になってきます。今回は、そのあたりの流れや注意点について、私自身の経験も交えて整理していきたいと思います。
相見積もりは必須
内装工事を1社だけに頼むケースは、今のクリニック開業ではほとんどないと思います。もちろん、知り合いの業者さんや友人の設計士さんにお願いする場合は別ですが、そうでなければ「相見積もり」を取るのが基本です。
最低でも3社に見積もりを依頼して、実際に話を聞き比べることが大切です。価格の違いだけでなく、提案内容や対応の仕方にも差が出ますし、複数社と話すことで「自分のやりたいことがより具体的に見えてくる」という効果もあります。
実際の流れ
私の場合は、まず4社から見積もりを取りました。
1社は自分でネット検索して見つけた地元の業者さん。もう1つは、内装業者紹介サイトを使って3社ほど紹介してもらい、そこから来てもらったものです。いわゆる「引っ越しの一括見積もり」のような仕組みで、問い合わせると数社が候補に挙がり、順番に現地調査してくれるという流れでした。結果的に、合計4社の方に現場を見てもらって、それぞれ設計や見積もりを出してもらいました。
実際の段取りは、不動産会社に頼んでまだ契約前のテナントにアポイントを取り、一日で一気に回してもらいました。1時間ごとに順番に業者さんに来てもらい、自分のコンセプトや希望を伝え、それをもとに2〜3週間かけて設計プランや見積もりを出してもらった形です。
迷った結果、最終的に選んだのは最初に自分で見つけた会社ではなく、紹介サイト経由で来てもらった業者さんのひとつでした。決め手になったのは「発熱外来を通常の入り口と分けてしまう」という提案です。私は当初、スペース的に難しいと思っていたのですが、その業者さんは「絶対に分けたほうがいい」と強く押してきたんですね。正直、私の希望をある意味“無視”してまで提案されたのですが、結果的にはそれが功を奏し、開業後に大きな助けになったと感じています。
もちろん、他にも細かい問題は出ましたが、それはまた別の話。ただ、業者選びにおいて「自分では思いつかなかった視点」をくれるところに出会えるかどうかは大きい、と今でも思います。
似たような内容でも全然違う
他の会社さんからも見積もりを取りましたが、驚いたのは「同じような内容なのに金額が全然違う」ということでした。大きく設計が変わるならまだしも、似たようなプランでも数百万円単位で差が出てきます。
正直、「医療機関だから」と足元を見られているんじゃないか…と思う場面もありました。美容院や小売店の改装と比べても、医療系は高めになりやすいと感じます。まあ初めての開業で右も左も分からなかったので、ある程度は仕方なかったかなと思う部分もありますが、それでも内装費が予想以上に膨らんでしまったのは反省点のひとつです。
また、これはあくまで“人づてに聞いた話”で、私自身は実践していませんが——。
「最初はクリニックではなく、別の用途(オフィスや美容室など)で使うと業者に伝えて見積もりを出してもらい、後から『実は診療所として使う』と申告する」という手法があるらしいんです。医科、歯科だと最初から高めの金額を提示されるケースが多いため、そうやって牽制する、というわけですね。
ただ、これは正直おすすめできません。というのも、診療所には都市や地域ごとに定められた基準があり、例えば診察室の広さの制限や、必ず手洗い場や水道を設置しなければならないなど、医療機関特有のルールが存在します。慣れていない業者さんだと基準を理解しておらず、結果的に後から修正が必要になったり、保健所のチェックで引っかかったりする可能性があります。。
コストは必ず膨らむ
注意点として、業者を一社に絞って詳細を詰めていくと「ここをこう変えたい」「トイレを増やしたい」など要望が出てきて、そのたびに見積もりが膨らんでいきます。最初の見積もりでは1,000万円台だったのに、最終的に1,400万円まで膨らんでしまったのが私の経験です。結果的には必要な投資でしたが、コストコントロールの難しさを痛感しました。
やり取りの過程でコストはどんどん膨らむ
ある程度「この業者さんでいこう」と決まってから、細かい部分を詰めていく段階になりますよね。最初は大枠の設計で見積もりが出ているのですが、実際に打ち合わせを進める中で、
- 「トイレをもうひとつ増やしたい」
- 「このパーテーションを追加したい」
- 「待合室の動線を少し広くしたい」
といった要望を出すと、そのたびに金額が積み上がっていきます。
業者さんもプロですから、「この先生はうちに決めそうだな」と分かると、その後の追加要望にはしっかりとコストを上乗せしてきます。最初の見積もり段階では他社と比較されているので、あまり強気な価格提示はしてこないのですが、ある程度“逃げられない”状況になると、追加分が膨らみやすくなるんですね。
これはどこの業者でもよくあることで、別に悪意があるわけではなく、当然の商売の流れでもあります。ただ、こちらとしては「最初の見積もりよりもどんどん膨らむ」という現実を覚悟しておかないと、最終的に予算オーバーになりがちです。
自分の例:1000万円 → 1400万円に膨らんだ話
私のケースですが、最初に出てきた見積もりは「1000万円ちょっと」でした。それでも正直「高いな」と感じていたのですが、打ち合わせを重ねるうちに、
- 発熱外来にもトイレを増やした方が安心ではないか
- 待合や動線をもう少し広げたい
といった追加注文を出していった結果、最終的には1400万円近くまで膨らんでしまいました。つまり400万円弱の増額です。
結果的に「やっておいてよかった」と思う部分も確かにあります。発熱外来の導線分離などは、後々の運営を考えると間違いなく必要だったので、プラスになった投資でした。
ただ、冷静にコストだけを見れば「上がりすぎてしまったな」というのが正直な反省でもあります。
結局のところ、いったん「この業者さんで行こう」と決めてしまうと、相見積もりの効果はそこで終わり、追加注文が出るたびに価格が積み上がっていくのは、ある意味“避けられない流れ”なのかもしれません。
コンセプトが最初から固まり切っていれば、複数社に「この仕様で作ってください」と同じ条件で依頼し、最も安いところを選ぶ、という方法も可能です。
ただ実際には、こちらも初めての経験ですし、打ち合わせをする中で「あれも取り入れたい」「ここは少し違うな」と考えが変わっていくのが普通です。結果的に、一番しっくりくるプランを出してくれた会社に寄せていく形になる先生が多いのではないでしょうか。
私自身もそうでした。だから「相見積もりは必須」とはいえ、最後は結局ひとつの会社と詰めることになり、そこで価格が膨らんでいくのはある程度仕方ない部分なのかな、と今では思っています。
まとめ
今回の記事については、正直「これが正解だ」という結論はありません。注意点はいくつかありますが、なかなか難しく、今もしやり直したとしても自分がもっと上手くやれるかといえば、正直あまり自信がないというのが本音です。ですので「こうすれば必ず成功する」といったアドバイスにはならないのですが、率直な経験として共有できればと思い書かせていただきました。
やはり一番心強いのは、友人や家族の中に内装に詳しい人や業者さんがいることだと思います。そういう人に見てもらえるだけで、余計なトラブルや不必要な出費を避けられますし、きめ細かい相談にも乗ってもらえるので安心感があります。
内装にはどうしてもお金がかかります。ただ、それは診療所という「自分が最も長い時間を過ごす場所」に対する投資でもあります。場合によっては20年、30年と同じ空間で働き続けることになるわけですから、「居心地の良さ」を重視して作るのも大切な考え方ではないでしょうか。もちろん、コストの上がりすぎには十分注意する必要がありますが、快適に過ごせる空間にしておくことは、結果的に長期的な満足度や働きやすさにつながると思います。
