開業医は大変な仕事です。医者としての仕事に加えて、経営や運営にまつわる多くの仕事も行わなくてはならないためです。特に資金的には、その後大きく成功される先生でも、開院当初はやはり大変な時期というのはあると思います。
しかし医者の経営で、有利なことは、いざとなれば先生がバイトすれば、かなりのお金を確保できるということです。クリニックを運営、維持するためにアルバイトを続けている大変な先生もいますが、逆に言えばアルバイトでそれなりの給与を得られるので、維持が可能とも言えます。
今回は開業医とアルバイトというテーマで考えていこうと思います。
開業当初は資金が本当に大変
どんな業界でも開業して店を持つというのは大変なことだと思います。開業当初は眠れない日々を過ごす経営者は少なくないのではないでしょうか。特にクリニックは開院当初が一番きついと思います。飲食店と違い、クリニックは新しいのができたから行ってみようとは普通ならず、既にかかりつけを持っている方が圧倒的に多いため、患者数が増えるのに、通常は時間がかかります。元々通院しているクリニックを替えるという行為は、患者さんにとっては思っているより敷居が高い行為であるらしく、引っ越しや、かかりつけが閉院したなど、やむを得ない理由がないと、他院に移るということはあまりないようです。
特に最初の資金繰りが大変です。クリニックには、家賃に加えて、人件費、電子カルテ維持費、機器のリース費用など、少なくないお金が毎月必ず出ていきます。それに加えて、先生の生活費も捻出し、さらに借金の返済もしなければなりません。お金がなくなってくると、本当に身の置きどころのない恐怖に見舞われます。
どのタイミングで損益分岐点を超えるかは、やってみないと分からないものです。3ヶ月後なのか、半年後なのか、1年後なのか、それは誰にも読むことができません。そのため運転資金については、想定よりも余裕をもっておく必要があります。資金ショートしたら、その時点でアウトになってしまいます。もう少し耐えられればいけそうだ、という場合でも、そのような状況では銀行もお金を貸してくれません。
医者はバイトという手段が残されている
たとえば飲食店の開業であれば、休みなく働いたり、営業時間を延長してでも、なんとか自分の店で粘るか、工夫するしか方法がありません。しかし医師の場合は、給与単価が高いので、休診日に他の医療機関でアルバイトをすれば、一定のお金を確保することが可能です。これが医師が開業するときの、強みというか、ある意味保険と言えます。他の業界ではこうはいかないでしょう。
たとえば、ご自身のクリニックで、ランニングコストと生活費はなんとか賄えるものの、借金返済をするのがきついという場合があるとします。その場合、大変ですが、休診日の一日を非常勤で高単価な仕事を確保すれば、かなり助かると思います。仕事を選べば日給10万円のアルバイトを確保することも可能です。税金は引かれてしまいますが、月40-50万円の給与所得があれば、この場合、かなり助かるのではないかと思います。クリニックの収益は、通常は時間をかければ増えていくことが見込めます。最初のつらい時期、安定するまでこのような手法をとれるのは、医師の強みであると思います。
しかしデメリットも
しかしこれは考えようによっては、一長一短とも言えます。本来であれば撤退した方が良いようなケースでも、アルバイトの給与があることにより、延命できてしまうことで、一生懸命働いたものの、結果として身体も壊して、資産も何も残らなかった、というようなケースも想定されるためです。
たとえば開業医を週5日行って、なんとか、ランニングコストや借金返済はできるものの、生活費まで確保できない場合、週2回アルバイトをして、生活費を給与所得で賄うとします。このケースでは、週5日、ご自身で開業医の仕事をしているのは、開業を維持するためだけになっており、事実上タダ働きのような形になってしまっています。そしてご自身やご家族の生活のために休診日にもアルバイトをすれば、先生には全く休みがありません。体力が続く間はいいですが、一生続けることは不可能です。開院直後の1-2年だけ乗り切るのなら、まだ許容できそうですが、開院直後だけでなく、このような異常な勤務形態が、長く続いてしまったと仮定します。
もしどこかで力尽きて、いよいよクリニックを閉院する場合、資産はほぼ残らず、撤退することになります。これではなんのために命を削って働いたのか分かりません。開業などせず、週5で普通に勤務医として働いていれば、引退時には相応の資産を築けた可能性が高いです。しかも勤務医であれば、有給休暇や、労働者としての権利も保証され、退職金もでます。休みもとれて、資産も築けて、安泰な老後を送れるはずだった先生が、開業したことで、またアルバイトで給与所得が確保できることで、ダラダラと続けてしまった結果、人生の時間という大切な資産を失ってしまうリスクを伴っています。
給与所得は事業所得とは扱いが異なり、結構税金が引かれる
給与所得で結構高額な所得を得ると、税金もかなり持っていかれてしまいます。もちろん事業所得で赤字であれば相殺は可能でしょうが、そのような事態ではもはや撤退した方が懸命と思われるため、ここでは想定しません。バイトを頑張っても、税金が引かれた後でしか使えず、結構痛いと感じると思います。
バイトを続けている医師も存在する
私もそうですが、開業後も週1の非常勤など、外部の仕事を継続している医師は存在します。外勤は週1で、他に休める日も作れるなら、体力的にも継続は現実的だと思います。この場合、所得をクリニックの事業所得1つだけでなく、事業所得と給与所得に分散することが可能なので、給与所得控除を活用できることや、収入源を複数確保するリスクヘッジの観点から考えても、実は有効な方法の一つであると私は考えています。
しかし本音を言えば、開業医だけで、十分な資産を確保して、安定した人生を送ることが理想であると思います。細かい税務上の利点や、リスクなどを気にしなくても、十分安定してしまうことが、多くの先生にとっても理想であると思います。
上の例で、特に警鐘を鳴らさせて頂いたのは、経営的にみて明らかに勝算は薄いのにもかかわらず、開業を維持するためだけに、休みも削ってアルバイトをしてしまうことです。上のようなケースでは、もはや可能な限り早期に撤退をしたほうが、人生全体でみた場合利益が大きいと考えます。開業を撤退するというのは、苦渋の選択だと思います。借金も抱えている場合はなおさらです。M&Aで少なくとも借金を相殺できればいいですが、実際はなかなか難しいかもしれません。しかしクリニック維持が目的になってしまうと、なんのために仕事をしているのかが、わからなくなってしまいます。仕事は生活や、夢の実現のために行うものです。多くの先生にとって、クリニックを維持することが目的ではないと思います。