以前、別の記事で日々の会計業務について整理しました。日々の仕訳については、保険診療・自由診療、さらに現金・キャッシュレスといった区分ごとに分けて処理している点をご紹介しています。
保険診療についてはご存知の通り、最終的には保険請求を経て入金される金額が大きな割合を占めます。一方で、この保険請求分の会計処理をどのように行っているかについては、前回の記事では触れていませんでした。今回はその点について、実務ベースで整理してみたいと思います。
保険請求分は月末にまとめて処理
保険診療におけるいわゆる自己負担分(3割分)は、その都度患者様からお支払いいただく形になります。一方で、残りの請求分については、社会保険支払基金 や 国民健康保険団体連合会 に対して保険請求を行い、通常は翌々月に振り込まれる仕組みになっています。
このあたりは先生方にとっては周知の内容かと思いますが、「では会計処理をどのようにするか」という点については、意外と体系的に触れられていない印象があります。税理士に一任されている場合は特に問題になりませんが、ご自身で処理されている場合には一度整理しておいてもよいポイントだと思います。
結論から申し上げると、当院では月末にまとめて、その月の請求分を計上する形をとっています。厳密に言えば、日々の診療ごとに保険請求分も発生主義で計上していく方法が会計学的にはより正確かもしれません。しかし実務的には、この方法は手間が増えるわりに得られるメリットがほとんどありません。
むしろ、入金時の処理も月単位でまとめて行う方が整合性が取りやすく、後工程が非常にシンプルになります。実際、多くのクリニックでも同様に月単位で処理しているケースが一般的ではないかと思います。また、この方法によって税額が変わるようなことは通常なく、税務上問題になるケースもまず想定しにくい運用です。
実務の流れ
具体的な実務として、例えば2030年1月分の会計処理を考えてみます。

保険請求分の計上は、1月31日付でまとめて行います。ここは月の最終日であればよく、実際に診療があったかどうかは関係ありません。仮に日曜日などの休診日であっても、その日付で入力して問題ありません。
私の場合は M3デジカル を使用していますが、月ごとの売上や保険請求分はワンクリックで集計が可能です。多くの電子カルテでも同様に、月次の売上・保険診療分・請求額は一覧で確認できる仕様になっていると思います。これらの数値をもとに、会計ソフトへ入力していく形になります。
ここで一つポイントがあります。
保険請求分については、単純に全体をまとめて処理するのではなく、社会保険支払基金 分と 国民健康保険団体連合会 分に分けて計上する必要があります。
それぞれ請求先が異なり、実際の入金も別々に行われるためです。ここをまとめてしまうと、入金時の突合でズレが生じやすくなり、後からの確認作業が煩雑になります。実務上は最初から分けて処理しておいた方が、結果的にシンプルで管理しやすいと思います。
実務での勘定科目の設定
実務では、保険請求分については以下のように分類して処理しています。
- 未収金 / 社会保険支払基金
- 未収金 / 国民健康保険団体連合会(国保+後期高齢)
いずれも勘定科目としては「未収金」を使用し、補助科目で請求先ごとに分ける形です。
勘定科目の考え方と補足
会計上の扱いについてはさまざまな考え方があると思いますが、私は保険請求分を「未収金」という括りで処理しています。そのうえで、補助科目として 社会保険支払基金 と 国民健康保険団体連合会 を分けて管理する形にしています。
このようにしておくことで、入金時の対応関係が明確になり、実務上の管理がかなりシンプルになります。
少し迷ったポイントとして、公費単独、特に生活保護の医療費の扱いがあります。この場合、実務上は社会保険側(支払基金)として処理されるケースが一般的です。
ただし、この点については時期や制度の細かい運用、あるいは国保と生活保護を併用しているケースなどによって、取り扱いが異なる可能性があります。そのため、最終的にはご自身の地域や運用に合わせて、一度確認しておくのがよい部分かと思います。
会計画面での実際の入力イメージ
仮に マネーフォワードクラウド会計 を使用した場合の実際の入力イメージです。

借方(左側)には「未収金」を使用し、補助科目として
- 未収金 / 社会保険支払基金
- 未収金 / 国民健康保険団体連合会
をそれぞれ分けて並べて入力します。
一方、貸方(右側)については、私は「保険請求収入」という勘定科目を作成して運用しています。こちらも同様に補助科目を設定し、
- 保険請求収入 / 社会保険支払基金
- 保険請求収入 / 国民健康保険団体連合会
という形で分けて仕訳を行っています。
このように貸方側も補助科目を分けておくことで、実際に入金があった際にどの入金がどの請求に対応しているのかが非常に分かりやすくなります。特に月をまたいで入金される構造のため、ここを分けておくかどうかで、後の消込作業の負担がかなり変わってきます。
実際の数字の例
仮に マネーフォワードクラウド会計 を使用した場合の入力例です。
例えば、2030年1月分の保険請求として
- 社会保険支払基金:100,000円
- 国民健康保険団体連合会:50,000円
であったとします。
この場合の仕訳は以下のように入力します。
借方
未収金 / 社会保険支払基金 100,000円
未収金 / 国民健康保険団体連合会 50,000円
貸方
保険請求収入 / 社会保険支払基金 100,000円
保険請求収入 / 国民健康保険団体連合会 50,000円
摘要欄には「2030年1月分 保険請求分」などと入れておくと分かりやすいと思います。(あとで迷いが減ります)
実際に振り込まれたときの処理
実際に振り込まれた際の処理についても整理しておきます。
例えば、2030年1月分の保険請求が振り込まれるのは、通常2030年3月中頃になります。おおよそ2ヶ月弱のタイムラグがある形になります。このラグがあるため、発生時と入金時で処理を分けて考える必要があります。
では、この入金時にどのような処理を行うかという点ですが、基本的には「未収金の回収」という形になります。
ただし実務上は、社会保険支払基金 と 国民健康保険団体連合会 で少し処理の考え方が異なります。それぞれ振込のされ方や明細の出方に違いがあるためです。このあたりは実際の運用に直結する部分になりますので、それぞれについて具体的に見ていきたいと思います。
社会保険支払基金の入金時の処理
社会保険支払基金 からの入金については、いくつか実務上のポイントがあります。
まず前提として、社会保険支払基金からの振込は源泉徴収がされるため、請求額より少ない金額が入金されます。

最重要ポイント(ここが基準になります)
最初に必ず確認すべきなのは、未収金の金額を一致させることです。
例えば、2030年1月31日に
未収金(社会保険支払基金)として100,000円を計上していた場合、
3月中旬の入金処理では、まず最初に右側(貸方)にこの100,000円をそのまま記載します。
ここがズレると、未収金残高が合わなくなり、年末の時点で整合性が取れなくなります。
実務上は、この数値を起点にすべてを合わせていくという考え方になります。
実際の仕訳の流れ
借方(左側)には以下を記載します。
- 普通預金:実際に振り込まれた金額
- 仮払源泉所得税:源泉徴収された金額(明細に記載あり)
- 保険等調整増減:差額調整用
貸方(右側)には:
- 未収金 / 社会保険支払基金:100,000円(※ここが基準)
差額(調整)の考え方
実際には以下の理由で差額が出ることがほとんどです。
- 返戻(減額)
- 再審査による増額
- 端数調整
この差額については、私は
「保険等調整増減(収益)」 という勘定科目を作成して調整しています。
この科目は、最終的に数字を合わせるための“バッファ”として使うイメージです。
多くの場合は借方(左側)に入りますが、増額があった場合などは貸方(右側)に入ることもあります。
まとめ(実務の順番)
少し複雑なので、手順として整理すると以下の通りです。
- 未収金(1月31日に計上した金額)をそのまま右側に置く
- 普通預金に実際の入金額を入れる
- 仮払源泉所得税を明細通りに入れる
- 残りを「保険等調整増減」で合わせる
この順番で考えると、非常に整理しやすくなります。
この処理は最初かなり分かりにくい部分ですが、ポイントは一つで、
「未収金を基準にして、あとは現実の数字で埋める」 という考え方です。
逆に、入金額から組み立てようとすると必ず混乱します。
先に“あるべき数字(未収金)”を固定してしまうのがコツです。
この考え方に慣れてしまえば、社会保険支払基金の処理はかなり安定して回るようになります。
国民健康保険団体連合会の入金処理
国民健康保険団体連合会 については、社会保険支払基金 と比べると、処理はかなりシンプルです。

基本の考え方
こちらも最初にやることは同じで、未収金の金額を固定することです。
例えば、2030年1月31日に
未収金(国民健康保険団体連合会)として50,000円を計上していた場合、
3月中旬の入金処理では、まず貸方(右側)に
未収金 / 国民健康保険団体連合会 50,000円
をそのまま記載します。
実際の仕訳
借方(左側)には以下を入力します。
- 普通預金:実際の入金額(例:49,800円)
- 保険等調整増減:差額調整(例:200円)
貸方(右側)には:
- 未収金 / 国民健康保険団体連合会:50,000円
ポイント
国保の場合は、社会保険支払基金のような源泉徴収がないため、
基本的には大きな差額は出ません。
実務上は、
- 返戻による減額
- わずかな端数調整
といった理由で、数十円〜数百円程度の差が出ることがある程度です。
まとめ
手順としては非常にシンプルで、
- 未収金(1月31日に計上した金額)を右側に固定
- 普通預金に実際の入金額を入力
- 差額を「保険等調整増減」で合わせる
という流れになります。
コメント
国保の処理は、社保と比べてかなり素直です。
その分、「未収金を基準に合わせる」という基本さえ押さえておけば、ほぼ迷うことはありません。
実務としては、社保を理解すれば国保は自然に理解できるという位置づけでよいと思います。
補足:保険等調整増減について
この「保険等調整増減」については、少しややこしく感じる部分ですので、最初は読み飛ばしていただいても問題ありません。
勘定科目の分類としては、資産・負債・純資産・費用・収益の5つがありますが、私はこの「保険等調整増減」は収益の区分として扱っています。
実務上は、保険診療の調整は減額になるケースが多いため、最初は「費用で処理するのではないか」と迷うこともあると思います。私自身も最初はそのように考えていました。ただ、実態としては「費用が増えた」というよりも、「当初見込んでいた収益が減った」と捉える方が自然です。そのため、収益を相殺する形で処理するのが会計上も整理しやすいと考えています。
また、運用面での話になりますが、当初は増額分と減額分を分けて管理しようと考え、補助科目として「保険等調整増」「保険等調整減」といった形で分けていました。しかし、実際に運用してみるとやや煩雑で、日々の処理の中で扱いづらさを感じる場面がありました。
現在はそれらをまとめて「保険等調整増減」という一つの科目に集約しています。増減いずれの場合もこの科目に吸収させる形にすることで、仕訳がシンプルになり、実務として非常に扱いやすくなりました。
会計上の考え方としても大きな問題はなく、税務上も特に指摘を受けたことはありません。実務として無理なく継続できる形に落とし込むという意味では、このようにまとめてしまう運用が現実的だと思います。
まとめ
今回は、日々の帳簿付けではなく、月末の保険診療の処理と、実際に入金された際の処理について整理しました。
慣れてしまえばそれほど難しい内容ではありませんが、最初はどうしても分かりにくく感じる部分があります。特にご自身で会計業務をされている先生にとっては、実務のイメージを掴む一助になればと思い、今回まとめてみました。
現在は税理士の先生に依頼されているケースが多いと思いますが、私のように規模が比較的小さく、家族経営に近い形で運営している場合、日々の処理や月次の業務については、慣れればご自身で十分対応可能な範囲だと思います。例えば、日常の会計業務は自分で行い、決算や確定申告のみを依頼するという形も現実的ですし、場合によっては確定申告まで含めて自分で対応することも、現在の環境であれば十分可能だと感じています。
一方で、税理士費用はミニマム開業においては決して小さくありません。極端に言えば、年間で見たときに「税理士費用のために半月程度働いている」という感覚になることもあり得ます。そのため、自分でできる部分を切り分けて対応するという選択は、現実的な経営判断の一つだと思います。
最近は生成AIの精度も上がっており、不明点を調べるハードルはかなり下がっています(もちろん最終的な判断は必要ですが)。また、「借方・貸方」や「資産・負債・純資産」といった基本的な概念が分からない場合は、まずは簿記3級の学習から入るのがおすすめです。
簿記3級は、1ヶ月程度の学習で十分取得可能であり、開業医の会計実務であればこのレベルでほぼ対応できます。学習コストに対して得られる実務上のメリットが非常に大きく、コストパフォーマンスの高い投資だと感じています。
学習方法についても、現在は環境が整っており、例えば ふくしままさゆき 先生のように分かりやすく解説されているコンテンツもありますし、通信講座であれば クレアール なども評判が良いようです。費用も1〜2万円程度で収まることが多く、取り組みやすい範囲かと思います。
実務としては、「完璧にやる」ことよりも、無理なく継続できる形を作ることが重要です。今回の内容が、その一助になれば幸いです。
