前回の内容と関連しますが、診療所以外の収入や資産管理を検討されている先生にとっては、マイクロ法人の決算・申告も一つの関心事項になるかと思います。私は診療所とは別に個人でマイクロ法人を保有しており、その決算・申告も自身で対応してきました。この点について、実際の経験を踏まえてお伝えします。
法人の決算は複雑怪奇
個人事業の確定申告については、医師に限らず、小規模な事業者やフリーランスの方が自身で対応されるケースも少なくありません。税理士に依頼すると一定の費用がかかることに加え、近年は会計ソフトなどの支援環境も整ってきており、自分で完結させるという選択が現実的になっています。
一方で、法人の決算は様相が大きく異なります。処理の複雑さから、従来は専門家である税理士に依頼することが前提とされており、小規模法人であっても決算時のみ依頼し、数十万円程度の費用を支払うという形が一般的でした。
全力法人税の出現
しかしながら近年は、法人税の申告についてもソフトで支援できる環境が整ってきています。私が今回使用したのは「全力法人税」というソフトで、元国税職員が開発に関わっているとされており、小規模法人向けに設計されたツールです。マイクロ法人のようなシンプルな決算であれば、一定の範囲で対応可能な印象でした。
ただし、すべての法人に適しているわけではありません。規模の大きい法人や、取引が複雑なケース、あるいは医療法人のような形態では対応が難しいです。一方で、私のように一人で法人を運営しており、取引も限定的で、最低限の申告を正確に行いたいというケースには最適な選択肢です。
このソフトの特徴は、完璧さを追求するというよりも、必要な部分に機能を絞っている点にあります。細かな節税を徹底的に追い込むのではなく、申告に必要な要素を確実に押さえ、実務上問題が生じないことを重視した設計です。結果としてコストパフォーマンスに優れており、マイクロ法人にとっては現実的な選択肢の一つといえるでしょう。
日々の仕訳と決算作業の実際
実務的には、日々の仕訳が最も重要になります。決算や申告そのものよりも、その前提となる仕訳が整っているかどうかで難易度は大きく変わります。日常的な記録が適切に行われていれば、決算時に迷う場面はそれほど多くありません。一方で、仕訳が不十分な場合は後から修正に追われることになり、結果として負担が大きくなります。
もっとも、私の法人では取引自体が少なく、月に数件程度の仕訳しか発生しないため、全体としては非常にシンプルな構成です。そのため、実際の作業も想像していたほど難しくはありませんでした。クラウド上で必要事項を入力し、売上や経費を整理していくだけで、申告書の下書きは短期間で作成可能です。体感としては、診療所の確定申告よりもむしろ簡便で、電子申告の設定を含めても数日で完了しました。
マイクロ法人であれば自力申告も現実的
マイクロ法人を活用して医療以外の収入を管理したいと考える先生もいらっしゃるかと思いますが、その際の課題の一つが維持コストです。特に税理士への依頼費用は負担が大きくなりがちです。しかし、今回のような法人税申告ソフトを活用すれば、このコストを一定程度抑えることが可能になります。
そもそも、マイクロ法人という仕組み自体が医師にとって必ずしも適しているとは限らず、原則としては推奨するものではありません。ただし、執筆や講演、監修業務など、医療以外の収入を管理したいようなケースでは、有効な手段となり得ます。少なくとも、法人の決算・申告は必ず専門家に依頼しなければならないものではなくなりつつある、という点は一つの変化といえるでしょう。
源泉所得税の調整が必要となるケース
法人で株式やETFを運用している場合、配当等に対して源泉所得税が差し引かれますが、一定の条件を満たすことでこの税額を還付として取り戻すことが可能です。ただし、そのためには通常の申告に加えて、追加の手続きが必要になります。
具体的には、「別表6(1)」の作成が必要となります。この書類は全力法人税単体では対応していないため、e-Taxのダウンロード版を用いて作成する形になります。ただし、手続き自体はそれほど複雑ではなく、公開されている解説を参照すれば対応可能な範囲です。全力法人税は法人税に関する情報を継続的に発信しており、関連資料が充実しているため、実務上も情報に困ることは少ない印象でした。(参考記事→全力税務インフォ)
外国税額控除への対応について
海外ETFなどを運用している場合、外国税額控除の対象となる税額が発生しますが、現状では全力法人税はこの処理に対応していません。また、外国税額控除は法人税額が発生していることが前提となる制度であり、赤字法人では実務上還付を受けることはできません。ここは一つ大きな注意点です。
しかしならが実務上において、資産規模が大きくなれば無視できない金額になりますが、運用額が数百万円規模であれば還付額も数万円程度にとどまるケースが多くなります。この水準で税理士に依頼すると、費用の方が上回り、いわゆる手数料負けとなる可能性があります。このような場合には、外国税額控除相当額を経費として処理することも制度上認められており、実務的にはそのように対応するのが現実的です。
したがって、法人規模が小さい段階では大きな支障となる場面は限られますが、事業が拡大し、利益が安定して計上される、あるいは法人での資産規模が数千万円規模に達した段階で、改めて対応を検討するのが現実的です。そのようなフェーズでは税理士への依頼も選択肢となり、それまでの移行期間においては、本ソフトは有効な手段といえるでしょう。
まとめ
マイクロ法人の決算・申告については、従来は税理士への依頼が前提とされてきましたが、今回実際に対応してみて、条件次第では自力でも十分に現実的であると感じました。特に取引がシンプルな法人であれば、日々の仕訳を整えておくことで、決算・申告のハードルは大きく下がります。
ただし、法人の規模や内容によっては専門的な判断が必要になる場面も多く、すべてを自力で行うことが最適とは限りません。事業の成長段階に応じて、税理士への依頼も含めた体制を検討していくことが重要です。
そもそもマイクロ法人をお持ちの先生が日本に全国にどれだけみえるかはわかりませんが、一つの実体験として、こうした方法もあるという参考になれば幸いです。
