現時点の開業はかなり厳しい状況
開業を志される先生は、それぞれに理由がおありだと思います。元々開業医を目指して医者になられた先生、実家の診療所を引き継ぐ先生、忙しい勤務医からダウンシフトしたい先生、ご家族との時間を増やしたい先生、理想の医療を実現させたい先生、色々とあると思います。
開業をお考えの先生は、一度立ち止まって、開業する目的を、開業後にどのような生活をしたいかについて、いま一度お考えになってはいかがでしょうか?というのは、もしかすると、先生が理想とされている生活、人生設計の実現には、開業が最善策ではない可能性があり、むしろ開業することで、目標から遠ざかってしまう可能性があるからです。
現在の状況での開業は、非常に厳しい世界となっています。さらに見通しも厳しい未来しか予想できないような状況です。開業することで、借金を背負い込んだり、不幸になってしまうのであれば、開業などしない方が幸せな可能性は十分あります。
多くの先生は、開業前は勤務医であると思います。もし先生がいまの忙しい状況に疲れて開業を考えたり、家族との時間を増やしたい、QOLを上げたいというきっかけで開業をお考えの場合、もしかすると開業するよりも、幸せな医師転職をした方が、先生の目的に合っている可能性があります。目標達成の手段は開業だけではありません。転職も現実的に、しかも借金や経営リスクもなく、再現性が高く、目標達成できる可能性があります。
意外かもしれませんが、職場を選んで、対策を立てれば、勤務医でも給与を上げて、余暇時間を増やし、QOLを上げることは十分可能です。もし開業がいまの状況を打破するための唯一の選択肢とお考えだった先生には、転職はかなり現実的な選択肢となりうるでしょう。正直に申し上げて、開業か、転職かを迷っている先生には、私個人としては、転職の方が無難だと思います。
というのは、多くの先生が自己資金だけで開業することはなく、ほとんどの先生は借金を背負って開業します。少なくとも数千万円、重装開業の場合は億単位の借金も珍しくありません。かなりのリスクを背負って、ほとんど人生を賭けるような形で開業するケースがほとんどです。医師であれば、数千万円の借金なら、働けば簡単に返せると思われがちですが、実際は非常につらいです。勤務医は給与所得のため、多くのお金を稼いでも、ガッツリと税金を引かれた残りから、借金を返済しなくてはなりません。たとえば3000万円の借金だとしても、月に25万円ずつ返済しても、利子を含めれば10年以上かかります。借金を返し終わった頃には定年も近いでしょう。この10年は非常につらいものになり、失われた時間もお金も戻ってくることはありません。勤務医で働いていればそれなりの資産を築けたであろう先生が、開業失敗により不幸な老後になったり、生活も立ち行かなくなることもあり得るのです。
しかしそれでも開業をしたいと思う先生ももちろんいらっしゃると思います。私が開業したときも正直状況はいまと同様に厳しいものでしたが、自分の道を進みました。そのような先生は、もちろんご自身の信念に従って、突き進んでいただければと思います。
わたしの体験談
私は実は開業すること自体で迷った記憶はほとんどありません。医者になる時点で、いずれは開業するのだと考えておりました。私の親戚が開業医をしており、子供の頃からそれを見て育ったのでその影響が大きいと思います。またリスクを背負っても、どうしても一度開業医として、身を立ててみたいという思いがありました。
そのため私が迷ったり、悩んだのは、どのように開業のリスクを少なくするか、またもし上手く行かなかった場合は、どのように傷が浅く撤退するか、ということでした。
そのため私が取った戦略としては、可能な限り、開業コスト、ランニングコストを抑えるという手法でした。検査機器もレントゲンさえ導入せず、出来る検査は感染症の抗原検査や、外注の血液検査くらいで、画層診断など出来ないものは、専門医療機関に依頼するというスタイルを取りました。また当初はスタッフ採用は行わず、全て家族の協力でまかない、どうしてもの時は私一人でワンオペで回すようにしました。人件費は最もコストがかかる経費の一つです。また経営がうまく行かなくても、急に辞めてもらうわけにも行きませんので、多くの先生も頭を悩ませていると思います。
しかしそのようなミニマム開業のスタイルでも、内装、自動精算機、パソコン、細かい備品など諸々の経費で数千万円の費用がかかりました。運転資金も必要です。今振り返るともっと削ることができたとは思いますが、当時は全てが初めてのことです。やむを得なかったと思う部分も多いです。
またリスク軽減のために、週1回他院を掛け持ちでアルバイトをすることにしました。これだけで生活することはできませんが、確実に入ってくる収入があると、精神的に安定しますし、金銭的にもかなり助かります。開業当初は患者さんは、一日に数人しか来ません。分かっているものの、かなり心をやられます。開業して数年経過した今でも、私はアルバイトを継続しています。本当は辞められればいいのですが、金銭的、精神的にもアルバイトに支えられています。幸い拘束時間が長めなものの、勤務は待機が多く負担が少ないので、バイト中にクリニックの事務仕事をして過ごしています。
開業はくれぐれも慎重に行って下さい
開業は勢いでして、結果大成功する先生もおられるのは事実です。しかし私個人としては、石橋を叩いて渡る、または、結果的に渡らない選択もすることも勇気だと思います。開業は想像以上にリスクが高い行為です。失敗すれば多額のお金と、時間を失い、場合によっては人の信頼も失う可能性もあります。家族を失うことになるのは、何よりも辛いことです。しかし人間、貧すれば鈍するというのは紛れもない事実であると思います。私も嫌というほど身をもって実感しました。正直いまも戦っている最中です。
もし今の時点で開業しておらず、でも今までの知識や経験を持っていると仮定して、その状況で開業をするかと問われたら、私は正直、開業しないと答えると思います。正直に申し上げて、開業してからの数年、非常に辛く、苦しいことだらけで、何度も血の涙を流し、二度と経験したいとは思わないからです。いまも苦しみもがいている最中であります。また開業と同時にアルバイトの転職活動を通して、転職市場にも詳しくなった結果、戦略を立てて転職をした方が、よっぽど経済的に安定し、QOLも上げることが可能であることを知りました。今でも毎日、いつまで続けるか、売上と経費をみながら迷っているような状況であります。
このページをご覧の先生は、おそらく開業する気持ちで、情報収集の過程で、たどりついた先生であると思います。そのような夢とやる気に満ちた先生に、開業にマイナスイメージを持たせるようなことばかり書いてしまい、申し訳ないのですが、これはあくまで注意喚起のためと思い、お伝えしている次第です。先生に開業することで医師人生を失敗して欲しくないという気持ちで書いています。
開業をしようと周囲に伝えると、本当にいろいろな人が近寄ってきます。多くは先生からお金を取ろうとしている人たちです。そのような人たちは先生に開業を止めるようなことは、決して言いません。良いことしか言いません。心配してくれるのは家族くらいなものです。先生のご家族ではありませんが、先生の開業を心配している一人の人間のつぶやきとして、このサイトを参考にしていただければ幸いです。
開業に関する情報をこれからも順次アップしていきます。