ミニマム形態での開業は、昨今ではそこまで珍しくありませんが、医師一人で行うワンオペクリニックというは、非常に稀であると思います。しかしネットを見ていると存在しないわけではなく、実は私も日によってワンオペで営業している時間帯もあります。今回はミニマム開業の究極とも言える、ワンオペクリニックについて考えていきます。

ワンオペクリニックとは??

ここで言うワンオペクリニックとは、事務スタッフも不在で、完全に医師ひとりで営業するクリニックのことを指します。そのため医師が受付、保険資格のチェック、診察、検査、レセプト、会計、処方箋お渡しまで、一連のことをすべて行わなければなりません。通常のクリニックは医師は診療だけ行っていることを、医師が担う役割が非常に多く、負担が大きくなります。

ワンオペクリニックは存在するのか?

結論から言えば、私がいるので存在します(笑)。しかし私も常にワンオペではなく、事務スタッフさんがお休みの日や、患者さんが比較的少ない時期の午後診療など、部分的なワンオペ体制ではあります。診療の一部とは言え、完全に私一人で営業していることは事実であり、今のところなんとかなっております。

このような形態で行っている開業医は、日本全国でも私一人くらいかと思っていました。しかしYouTubeで開業医向けの情報発信をしているWevery!チャンネルさんで、完全に医師ひとりで診療されている開業医の先生が紹介されていました。これを拝見した時は、非常に嬉しく、また心強く感じました。私だけではなかったのだと。

なぜワンオペになったのか?

当然かもしれませんが、当初は完全に一人で診療を行うつもりはありませんでした。もともとは受付一人と私の二人体制で診療を行うことを想定していました。最初は家族に手伝ってもらいましたが、様々な事情が重なり、家族に頼めず、なんとか私一人で対応しなければならない日が出てきました。COVID-19の流行下でしたから、万が一、受付の方が急に来れないときを想定し、内装を考えるときも、私一人でもなんとかなるような構造にしていましたが、まさかこんなに役立つとは夢にも思いませんでした。

クリニック体制の変遷については、なかなか一言では言えないのですが、飛び込みの受付を中止して、ウェブからの完全予約制に移行したこと、電子カルテのシステムが飛躍的に使いやすくなったこと、デジスマのキャッシュレス機能の使用で、会計業務の手間が減ったことなど、ワンオペでもなんとかなるような環境が整ってきたため、最初は予約枠にゆとりをもたせながら行い、トライアルアンドエラーを繰り返して、なんとか成立するようになってような経緯です。

ワンオペクリニックの実際の運用は?

実際の流れとしては、まず最初に患者さんがホームページから予約をお取りになるところから始まります。初診の患者さんの場合は、患者さんが予約をお取りになると、新規カルテが自動的に作成され、名前、生年月日、住所、性別などの情報のいわゆる一号カルテが自動的に作成され、予約日のカルテに自動で表示されます。これらは予約を取った瞬間、ほぼタイムラグなしで行われます。これはデジスマ+デジカルの強みであると思います。再診の患者さんの場合は予約取ると、自動的に以前作成されたカルテが予約日の画面に表示されます。

また予約をとった瞬間に、患者さんに問診票が送付されます。問診に回答頂くと、自動的にカルテに反映されます。余談ですが、問診票の回答率を上げるために、問診は極力シンプルにすることがおすすめです。

患者さんの予約を確認したら、再診の方の場合、オンライン資格確認で保険資格が有効かどうかを確認します。初診の方の場合は、保険資格の画像を送ってくれている場合は、カルテに入力して、オンライン資格確認にて有効性を確認します。これを事前に行うと、来院後に保険資格を打ち込む必要がないので、非常にスムーズに診療に移行できます。

その後、問診に答えて頂いた場合は、事前に可能な限りカルテを組み立てておきます。熱がある場合は、あらかじめインフルエンザやCOVID-19の検査なども入れてしまい、不要な場合はカットするスタイルです。問診がない場合も、初診料とそれに伴う加算などは、セット引用で組み立ててしまいます。

患者さんが見えたら、マイナンバーカードか保険証で本人確認を行いつつ、初診で保険資格が事前にわからない方の場合は、この時点で打ち込みます。慣れると30秒もかかりません。

ここまで行ってやっと診察です。事前に問診がある場合は、極力無駄を省いた問診を行い、テンポよく診察できるように心がけています。患者さんが話をしたい方の場合は、時間が許す限り極力傾聴します。

診察が終われば、一度待合室に戻って頂き、レセプト業務、処方箋印刷、会計業務を行います。レセプトを計算し、処方箋を印刷して確認し、処方箋をもって患者さんにお渡しする際に、会計を行います。

会計ですが、デジスマ決済の場合は、電子カルテを保存すると同時に終わるので文字通り一瞬です。処方箋をお渡しして終了です。

デジスマでない場合も、当院は自動精算機があるので、処方箋とともに自動精算機の会計用紙をお渡しして、患者さんに自身にお会計をやってもらいます。診察後から平均1分以内で、患者さんは会計に移り、帰宅できるので好評です。

レセプトの業務ですが、当院は出来ることを絞っていること、事前にセットを組んでいること、診察前にレセプトを含めたカルテを極力組み立ててしまうこと、M3 DigiKarの自動算定を活用すること、レセプトにかかわる知識も私が全て把握することなどにより、診察後にレセプトにかかる時間をかなり短縮しています。

以上がワンオペの際に私が実際に行っている、おおまかな流れになります。

できることは絞らざると得ない

当然かもしれませんが、ワンオペで運営する場合は、出来ることを絞らざるを得ません。また構造的に飛び込みの対応には対応が難しいため、完全予約制にするのが現実的であると思います。予約制でも患者さんが遅れたり、時間がかかる患者さんが見える場合は、時間がずれてしまうこともあり、日々試行錯誤する日々です。

また検査についてもせいぜい迅速キットの抗原検査や、血液検査がいいところで、内視鏡などの大掛かりな検査を行う場合はまず難しいと思います。ワンオペはミニマム形態で、限られたケースで成立するビジネスモデルであると思います。

難しいのが、搬送が必要な場合など、どうしても人手がかかる場合です。こちらは私も最初非常に悩みました。対策としては、ホームページからの予約制に振り切ったこと、ホームページ上でも、重症な場合やその日に検査が必要な場合は、はじめから高次医療機関にご案内するなど、予約前にできる限りのアナウンスをすることで、重症な患者さんは来院しなくなりました。予約の段階である意味患者さんを選別することで、来院の敷居は上がってしまいますが、その分、想定外のことはかなり減りました。

ワンオペに限りませんが、開業するとどうしても受けられる患者さんには限りがでてしまいます。病院勤務のときとは、医療体制も医療資源も全く異なるため、ある意味諦めなければならない面も出てきます。 なかなか悩ましいところです。