保険診療は厚生労働省が定める指針に従って行う必要がありますが、その根拠となる指針について、先生は原本をご覧になったことがおありでしょうか?多くの先生は、『保険診療の手引』(通称青本)や、クリニック向けにサマライズされた、『診療所 外来点数マニュアル』を参照される先生が多いのではないでしょうか?
実は厚生労働省のホームページには、根拠となる原本が公開されています。しかしこのページは医科だけでなく、歯科、薬局の情報も掲載されており、さらに入院向けの情報も多いです。診療所向けの情報を探し出すのが結構難しいのです。私はここの情報にたどり着くまでに2年以上かかってしまったので、もしまだご覧になっていない先生がいらっしゃれば、参考になれば幸いです。
クリニックで使用する、診療報酬に関わる書類は主に3つ
特に重要なものは、以下の3つの書類です。
・医科診療報酬点数表
・医科診療報酬点数表に関する事項
・計画書など様式例をまとめた書類
これらは厚生労働省の、「令和◯年度診療報酬改定について」というページに出てきます。一応リンクを張っておきますが、リンクが切れていても、「診療報酬改定」でGoogle検索をすれば、まずトップに出てくるのでこちらのページは迷わないと思います。
困るのは、このページが、医科、歯科、薬局に加えて、外来だけでなく入院の情報も混在しているので、診療所に必要なものが、非常にわかりにくい点です。
今回は令和6年のページを例に、必要な情報にたどり着くために、写真付きでご紹介します。
こちらのページは、1ページですが、かなりボリュームがあるので、ページ内検索(Ctrl+F)で「診療報酬の算定方法の一部を改正する告示」を検索して出して頂いた方が早いと思います。
これらの書類は、「医科診療報酬点数表」がメインとなるもので、「医科診療報酬点数表に関する事項」が解説書のような形になっています。診療報酬については、この2つが最も重要な書類になります。常に参照出来るように、PDFで保存して、デスクトップなど、目につきやすいところに置いておくと良いと思います。
計画書など様式例をまとめた書類は、生活習慣病療養計画書などのテンプレートが入っています。こちらは必要なものだけ、適宜参照する形でよいと思います。
実際の使い方
実務上は、「医科診療報酬点数表に関する事項」を参照することが多いと思いますが、これが慣れるまで読み方にややクセがあります。というのは、こちらの書類だけをみても一体何のことを言っているのかが良く分からず、メインとなる「医科診療報酬点数表」を参照しながらセットで見比べないと、非常に分かりにくいためです。
「医科診療報酬点数表」と「医科診療報酬点数表に関する事項」は必ずセットで参照することが、前提として書かれています。
たとえば、「医科診療報酬点数表に関する事項」でのCOVID-19に関する事項を引用してみます。
(22) SARS-CoV-2抗原定性
ア 「28」のSARS-CoV-2抗原定性は、 COVID-19(新型コロナウイルス感染症を いう。 以下同じ。 )が疑われる患者に対して、 COVID-19 の診断を目的として実施した場 合に1回に限り算定する。 ただし、 本検査の結果が陰性であったものの、 COVID-19 以外 の診断がつかない場合は、 さらに1回に限り算定できる。 この場合において、 本検査が 必要と判断した医学的根拠を診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。
イ 本検査を実施した場合、 本区分の「50」SARS-CoV-2・インフルエンザウイ ルス抗原同時検出定性、 「59」SARS-CoV-2・RSウイルス抗原同時検出定性、 SARS-CoV-2・インフルエンザウイルス・RSウイルス抗原同時検出定性及び 「61」SARS-CoV-2抗原定量については、 別に算定できない。引用元: 「医科診療報酬点数表に関する事項」
この文章だけだと、まず、「28」が何なのか??、ということになります。しかしこれは、「医科診療報酬点数表」に記載されている、
D012 感染症免疫学的検査の28番目の項目である、
「28 ノロウイルス抗原定性、 インフルエンザ菌(無 莢 膜型)抗原定性 、 SARS-CoV-2抗原定性 150点」
を指しているのです。
これは、「医科診療報酬点数表に関する事項」では全く触れられず、「医科診療報酬点数表」を参照しなければ解読不能です。慣れてしまえばなんてことありませんが、最初は非常に分かりにくいです。
また後述しますが、疑義照会に回答している「疑義解釈資料の送付について」でも、こちらの2つの書類が前提として話が進んでいきます。最初私は疑義解釈の書類から目にすることが多かったので、何を言っているのか、話がさっぱり理解できませんでした。上述の「28」などの番号も、何の資料を参照すればよいのか分からず、しばらく混乱が続きました。やっかいなことに診療報酬関連はGoogle検索をしても古い情報が混在してしまうので、最新の情報にたどり着くのが意外に難しいのです。
「医科診療報酬点数表」と「医科診療報酬点数表に関する事項」を手にしてしまえば、「疑義解釈資料の送付について」の解釈もなんのことはなく、難しくはないと思います。
余談ですが、開業直後は他の仕事が多く、このようなことを深堀りせずに後手後手に周り、曖昧にしているストレスを抱えながら、結局正しく理解するのに、2年以上かかってしまいました。開業当初に知りたかった情報です。先生には私の失敗を繰り返してほしくないので、開業前または開業早期に読んでいただけていたら幸いです。
検査、投薬で別途コメントが必要なものをまとめている書類はこちら3つ
検査や投薬で摘要欄に記載が必要なものをまとめたのがこちらの3つになります。
・別表Ⅰ 診療報酬明細書の「摘要」欄への記載事項等一覧 (医科)
・別表Ⅱ 診療報酬明細書の「摘要」欄への記載事項等一覧(薬価基準)
・別表Ⅲ 診療報酬明細書の「摘要」欄への記載事項等一覧 (検査値)
こちらも必要な情報にたどり着くために、令和6年のページで写真付きでご紹介します。
こちらもいくつか具体例をあげてみようと思います。
別表Ⅰ 診療報酬明細書の「摘要」欄への記載事項等一覧 (医科)
今回はCOVID-19の記載事項をみていこうと思います。
「別表Ⅰ 診療報酬明細書の「摘要」欄への記載事項等一覧」を開いていただき、ページ内検索(Ctrl+F)で「COVID-19」と検索して頂くと、次のようなものが現れます。
これは、COVID-19の抗原を2回検査した際に必要になる、摘要欄へのコメント内容です。実務上は、電子カルテで、COVID-19の検査を入れるときに、一緒にコメントすることになると思います。
別表Ⅱ 診療報酬明細書の「摘要」欄への記載事項等一覧(薬価基準)
こちらでは、コメントが必要な薬についてです。まずは、タダラフィルでの具体例でみてみます。上記と同様に、ページ内検索(Ctrl+F)で「タダラフィル」と検索して頂くと、次のようなものが現れます。
これによると、タダラフィルは、検査で前立腺肥大症を確定診断できるクリニックでしか処方が難しいことになります。検査の内容をみると、事実上泌尿器科を標榜しているクリニックでないと、難しいように思います。たまに他院のくすりをついでに出してほしいという依頼や、切れてしまいそうなので、1週間分だけ処方依頼されることもありますが、他科で上記のような検査が出来ないケースで、安易に処方してしまうと、査定される可能性があります。
例外としては、泌尿器科で確定診断して、その旨の紹介状を得て、処方する場合などでしょうか?その場合は、症状詳記をしっかりとする必要がありそうです。
別表Ⅲ 診療報酬明細書の「摘要」欄への記載事項等一覧 (検査値)
最後はPSAの項目でみてみます。
ここで、PSAについての記載を、医科診療報酬点数表に関する事項から引用します。
(4) 「9」の前立腺特異抗原(PSA)は、 診察、 腫瘍マーカー以外の検査、 画像診断等の 結果から、 前立腺癌の患者であることを強く疑われる者に対して検査を行った場合に、 前 立腺癌の診断の確定又は転帰の決定までの間に原則として、 1回を限度として算定する。 ただし、 前立腺特異抗原(PSA)の検査結果が 4.0ng/mL以上であって前立腺癌の確定診 断がつかない場合においては、 3月に1回に限り、 3回を限度として算定できる。 なお、 当該検査を2回以上算定するに当たっては、 検査値を診療報酬明細書の摘要欄に 記載すること。
このようにありますので、PSAを2回目以降の検査では、上記のコメントを引用することになります。
検索しても、上手くでないときは?
本当に小さなことですが、私は上記を引用するために、PDFでページ内検索(Ctrl+F)を通常通り小文字で「PSA」で行ったところ、なぜが出てこないので、全角で「PSA」で再検索してやっと出てきました。先生のPCや、PDFソフトの環境にもよると思いますが、時折このようなつまらない障害があるので、ご注意下さい。(PDFを開くソフトとしてAdobeを使用している先生が多いと思われますが、私はPDF Expertというソフトを使用しています。わりとオススメです)
おそらく知らなければ、漏れてしまう。
このようなコメントが必要な検査や、薬剤についてですが、全てを把握することは困難であると思います。代表的なものや、有名なものは、診療所外来点数マニュアルなどの成書である程度勉強はできますが、全てを漏らさずというのは、事実上不可能で、返戻は勉強代だと思って、返戻があるごとに勉強して、知識をストックしたり、摘要欄へのコメントが必要な検査、薬はセットで組んでおくなどの対策が必要かと思います。
または以前ご紹介した「レセスタ」のような外部ソフトとの連携なども現実的な選択肢かもしれません。電子カルテで、必要なコメントがないとアラートが鳴るようなソフトがあれば良いと思うのですが、この記事を執筆時点では、私が使用しているM3 DigiKarではそのような機能はなく、自力で注意する他無いようです。
疑義解釈に関するものも順次アップされている
新点数が発表されてからしばらくして、疑義解釈資料も順次アップされています。こちらは比較的分かりやすいですが、念の為写真を下記にアップしておきます。
こちらには、あたらしい情報が順次アップされていきますので、定期的なチェックをして頂くとよいかと思います。
普段の診療では『診療所 外来点数マニュアル』、詳しく見るときは、上記の原本で確認
忙しい臨床と開業の運営を行いながら、診療報酬にも気を回すことは非常に大変です。実務上としては、普段の診療では『診療所 外来点数マニュアル』でサッと調べて、詳しく考える必要があるときは、上記の書類で検索をかけて該当箇所を精読するというのが、現実的なラインなのかと思います。
まとめ
開業した後ではもう何が何でもやるしかありませんが、開業前の先生が今回の記事を読まれていたら、あまりの面倒さに、開業を躊躇ってしまったかもしれません。申し訳ないです。。。
しかしこれが開業医の現実で、事務的なことや、制度的なことなど、臨床医学以外のことで頭を使うことが本当に多くなります。こういう事務的なことや、細かいことが面倒な先生は、優秀な事務長や事務スタッフを雇わないと、ご自身でやることになり、かなり辛いと思います。
昨今もマイナンバーカードの導入や、電子処方箋、レセプトの電子提出義務化など、臨床以外の事務的なことが負担になり、やむなく閉院された先生もいると聞きます。開業医は変化に対応できないと、慎ましくとも生き残ることさえ許されない厳しい環境になってきています。本当に大変な世の中になってきたという印象ですね。