開業される先生は目下のクリニックのことで頭がいっぱいだと思います。そのような先生にわざわざまた面倒なことをご紹介するのもどうかと思うのですが、いわゆるマイクロ法人戦略についてご紹介してみようと思います。簡単に言えば、社会保険料を節約することができる手法のひとつです。経済的にメリットがあるのは事実ではあるものの、はっきり申し上げて先生の時給や労力を考えれば、本業に集中した方がよいと思います。今回はひとつの参考としてご覧いただければ幸いです。

マイクロ法人戦略について

マイクロ法人の全般的な説明については、こちらのリベラルアーツ大学の記事がわかりやすいと思います。またYouTubeも詳しく解説されているのでオススメです。

非常に簡単に言えば、先生がひとり法人のプライベートカンパニーを立ち上げることで、社会保険料を節約できるという手法です。先生が開業医になると、個人事業主のため、
社会保険料=国民健康保険+国民年金
になりますが、

マイクロ法人戦略をとると、
社会保険料=健康保険+厚生年金
となり、結果的に社会保険料の負担を節約できるという方法です。

おそらく先生方の場合は、国民健康保険は上限マックスになる可能性が高く、金額的には数十万単位で節約が可能なので、魅力的な方法ではあります。

社会保険料の節約が可能

この手法のメリットは社会保険料を節約することが可能であるということです。たしかに年間に換算するとコストを差し引いても数十万円単位で変わってきます。健康保険の場合は、配偶者やお子さんを扶養にいれることが可能であり、厚生年金も第3号被保険者という概念があるため、ご家族がいらっしゃる先生にはたしかにメリットが大きいと思います。

意外なところでは、簡易的な医療保険がわりに。高額療養費の負担額が減るので

給与の少なめに設定すると、万が一先生が入院などをすることになり、高額療養費制度を使う場合でも、自己負担額は国民健康保険に比べてかなり抑えられます。先生の総所得ではなく、法人からの給与所得で換算されるため、マイクロ法人の場合は、標準報酬月額を最小にすれば、区分エとなり、月額の自己負担額は57,600円になります。簡易的な医療保険の代わりになります。これはマイクロ法人戦略を紹介している記事でも、あまり触れられないことが多いですが、隠れたメリットであると思います。

しかし先生の労力時給を考えれば、おそらく割に合わない可能性が高い

たしかに有効な方法ではあるものの、マイクロ法人戦略は正直言って、非常に面倒です。書類の煩雑さや法人の管理、法人で診療以外の仕事を作るなど、ただでさえクリニック開業で忙しい先生方が行うことは現実的ではありません。開業前に診療以外のお仕事、たとえば執筆やブログやコンサル、不動産業などですでに一定の副収入がある先生には有効な手法かもしれませんが、それでも万人向けではないかと思います。たしかに金銭的なメリットはあるものの、先生の労力、投入する時間を考えれば、ご自身のクリニックに集中したり、スポットでアルバイトをする方が効率的にお金を稼げるように思われます。書類などの事務仕事が好きな、かなりマニア向けの方法ではないかと思います。

事務的なことや、節税策が好きなマニア向け

この手法はむしろ医師以外の個人事業主の界隈ではわりと有名な手法です。特に士業などの専門家にはよく使われるそうです。医師の中では知っている人は少数だと思いますが、実践している先生となると、非常に珍しいと思います。私もマイクロ法人を設立した医師は、直接の知り合いでは一人もいません。私くらいなものです。

法人の事業が難しい

先生がマイクロ法人を設立して、もっとも苦労することは診療以外の収益を確保することであると思います。医師免許を用いて、診療によって得たお金は、法人の所得にすることは出来ません。たとえアルバイト先に、法人の口座に給与を振り込んでもらってもNGです。また産業医の巡視業務も給与所得とみなされ、否認される可能性が非常に高いです。

お仕事としては診療以外であれば何でもOKです。執筆、ブログ、コンサル、YouTube、、、など。また例えばアルバイト先で、経営の相談を受けたり、職員の指導を頼まれた場合の対価としてのお金であれば、給与所得ではなく事業所得と扱える可能性があります。しかし給与所得とまぎらわしくなるので、区別をしっかりつけることが重要になります。給与所得とみなされれば、後で追加徴収のリスクがあり注意が必要です。

余裕資金があれば法人口座で投資する方法もあり、資産がある先生は、資産管理会社としてもつのは、有効かもしれません。

資金に余裕がある先生は、個人の資産を法人にうつして、そこで資産運用を行い、その運用益を使って法人維持のコストを支払うということもできます。ケースにもよりますが、個人で資産運用を行うよりも、法人で資産運用を行ったほうが、関連するコストを経費として計上できるため、結果的に節税できる可能性があります。もちろん法人設立、維持のコストもあるのでそことの兼ね合いも考慮が必要です。ある程度大きな資金がある先生の場合なら、堅実な高配当ETF(VYM、HDVなどが考えられます)にお金を入れておき、その配当金で経費をまかないます。法人にかかわるものであれば、書籍や交通費、通信費なども法人の経費とすることが可能なので、なるべく個人のお金を温存し、法人に払ってもらうことで、手取りを増やすことが可能です。資産規模の大きい先生は、なんと家賃の大部分を法人に払ってもらうことが可能な手法も存在します。こうなると個人の資産形成は更に加速していきます。資産が拡大して、軌道に乗りうまく行けば夢のある手法ではあります。

実際のところは、、

私も一応このマイクロ法人を設立して運営していますが、正直なかなか厳しいです。たしかに社会保険料が節約できるというメリットもありますが、正直労力、維持コストを考えると、どうなのかなと思ってしまうことが多いです。法人に移して資産運用などができればまだよいのですが、種銭がない場合は難しいので、どうしたものか、、と日々思っています。
実際にこの戦略をとった医師として言えることは、少なくとも万人向けする方法ではなく、人を選ぶ方法であること、先生には労力の割に合わない可能性も高いということです。

今後規制されるリスクもある

マイクロ法人戦略は有効な手法の一つですが、社会情勢によっては規制され、使えなくなってしまう可能性もあると思います。その場合は、法人の維持コストばかりがかかってしまい、メリットが享受できない可能性があります。

医療法人化する場合は不要

先生のクリニックを、いずれは医療法人にする予定がある場合は、こちらの手法は有効でなく、むしろ法人化するときに面倒になるだけなので、避けたほうが無難であると思います。医療法人化できるような先生の場合は、絶対にこのような手法は割に合わないと思われます。