開業はやってみないとわからないことも多く、どんなに対策を取ったとしても、上手くいくとは限りません。万全の対策を取ったとしても、COVID-19の流行や、自然災害など、努力ではどうにもならず、予見することさえできないこともあります。状況によっては、撤退せざるを得ないケースもあると思われますが、今回は撤退というテーマで考えていきます。

辞めることは恥ずかしいことではない 

まず大前提ですが、開業して思うようにいかない場合、撤退することは、恥ずかしいことでもなんでもありません。開業は起業ですから、どんなに事前に万全の対策をとったとしても、結局のところやってみなければ、分からないこともあります。また自然災害など、誰にも、どうにもならないことも起こり得ます。

もし先生が開業して、これはもう撤退した方が適切だとお考えになった場合は、先生のお気持ちを信じてください。周りがなんと言おうと、開業の最終責任者は先生です。先生に決める権利があります。

IT業界では、撤退を含め、方向転換することを「ピボット」と表現するそうです。撤退というと、なんだかネガティブな響きがありますが、方向転換といえばポジティブにこれからのことを前向きに考えていけそうです。

今でこそ大成功している人でも、過去には倒産を含めた失敗を経験している人は少なくありません。チャレンジしなければ、失敗はしないわけですから。

問題は借金

撤退の際に、一番問題になるのは借入金の問題です。撤退を考える場合、借入金を完済しているケースは稀でしょう。その借入金が、勤務医に戻れば返済できる範疇のものなのか、勤務医の給与では返済が難しいのかによって、対応が異なってきます。

たとえばミニマム開業で1千万円以内の借入金であれば、勤務医に戻れば数年で返せる可能性が高いです。独身の先生であれば、高単価な非常勤求人を選んで、生活を切り詰めれば1年ほど完済することも可能でしょう。

問題は数千万円から、場合によっては億単位の借金となる場合です。勤務医に戻った場合でも、億単位の借入金を、勤務医の給与で返済することはかなり難しくなります。高給の仕事を選んでも、税引き後のお金から借金は返済しなければならないためです。この場合は、速やかに弁護士に相談し、自己破産を含めた対応を検討することになります。

自己破産しても医師免許が使えなくなるわけではない

たとえ自己破産してしまっても、医師免許まで取られるわけではないので、勤務医に戻ることは可能になります。そのため高額な借金の返済のために一生働き続けるくらいなら、一度債務整理をして、勤務医としてやり直した方が、ダメージは少ないと思われます。早めに弁護士の先生に相談することをおすすめします。

撤退のタイミング、ルールは開業前に決めておくか

事業撤退のタイミングは非常に難しいです。ギャンブルでも一番難しいのは、辞め時といいます。撤退については、開業する前に、ご自身でルールを決めておくことがベストだと思います。

たとえば、「開業後1年経っても赤字であれば、撤退する」「2年後の月間の売上が〇〇万円を超えなければ撤退する」などのルールです。しかしこれは現実的にかなり難しそうです。そもそもやってみなければどうなるか、全く予想ができないからです。

しかしやっていく中で、なんとなくの感覚は掴めてくると思います。開業して半年も経てば、だいたい月額〇〇万円の売り上げがないとキツイ、、ということが実感として掴めてきます。現実味をもって迫ってくるものですから、これは開業前の想定とは違います。

ロスカットが早いほど傷は浅く済む

大切なことは、撤退のタイミングが後手後手に回ってしまい、勝算のない勝負を続けて、傷を大きくしてしまうことです。もちろん粘ってみることも大事な局面はありますが、そこの見極めが非常に難しいのです。しかし先生がやっていく中で、これは続けても勝算が薄いと感じたら、それは撤退を現実的に検討するタイミングであると思います。

撤退を考慮しない、開業は危険 

はじめる前から撤退について考えるのはやや後ろ向きで、気が進まないと思いますが、いざという時に撤退するプランを持たずに開業することは、危険であると思います。その場合は進むだけの総力戦になると思いますが、勝てればいいものの、上手く行かなかったときのダメージはやはり大きいです。

ミニマム開業が安全、重装開業は命がけ

このように撤退を考慮すると、やはり億単位のお金を借りて行う重装開業はリスクが大きいと思います。可能なら最初は小さく始めて、経営の感覚を掴み、患者さんも増えてうまく行きそうであれば、近くの大きいところに移転するというのも一つの考え方であると思います。実際そのように成功されている先生もいらっしゃいます。

バイトで延命はどこまでするか

先生の中には、以前の記事でもご紹介したように、アルバイトを併用しながら開業される先生もいらっしゃると思います。アルバイトの給与があれば、もう少し粘れるケースもあるからです。しかしこれは逆に傷を広げてしまう可能性もあり、使い所の見極めが難しい面があります。以前まとめたこちらの記事も参考にして頂ければと思います。(参考記事→アルバイトでの経営延命は危険か?